東海大相模vs桐光学園

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爆発の予感をさせた豊田寛と復調の兆しを見せた吉田凌

場外ホームランを放った豊田寛(東海大相模)

 注目度が高い神奈川県も準決勝を迎えた。サーティーフォー保土ヶ谷球場では、試合開始2時間前から何列も折り返すほどのファンが集まり、試合前にはほぼ内野席は埋まり、外野席も解放する盛況ぶりなのはいつもの光景である。

 準決勝の第1試合は、安定した守備力と投手力で勝ち上がった東海大相模とここまで2試合続けてコールド勝ちの桐光学園の対決となった。

 だが東海大相模がいきなり強打を披露する。二死一塁から東海大相模は4番豊田 寛(3年)の2ランホームランで2点を先制する。これが高校通算35本塁打目。

 4番を打つ豊田だが、あとは公式戦の爆発だった。昨夏の橘学苑戦で2本塁打を放った長打力に加え、俊足、強肩と三拍子揃った外野手。ただ昨秋は、豊田らしい当たりが少なく、気になっていたところであった。しかしこの日は左腕の石山から甘く入ったストレートを見逃さず、見事な本塁打。インサイドアウトで振りぬき、無駄なくボールを捉えることができている。あとは、今日のような大舞台ほど存在感を示すことができるか。

 さらに2回表には二死一、二塁から1番千野 啓次郎(3年)がライトスタンドへ飛び込む3ランホームランで5対0と一気にリードを進める。千野も1年秋から出場し、ミートセンス、パンチ力は東海大相模の打線の中ではトップクラス。チャンスの場面で結果を残したように3番を打っていた打者だ。東海大相模の打者に共通していえることだが、千野はインパクトまで全くロスがないスイングができる上に、孤をうまく描いたスイングができているのだ。そして守備の動きも軽快で、見ていて安心できる選手。遊撃・杉崎 成輝(3年)との二遊間の総合力は全国クラスだ。

先発・吉田凌(東海大相模)

 そして東海大相模の先発・吉田 凌。1年夏から高校生離れしたポテンシャルを示してきた吉田に対し、周囲が求めるハードルは非常に高かった。2年夏には神奈川大会決勝戦で20奪三振を記録するなど、ドクターKぶりは健在であったが、2年秋準決勝でサヨナラ負けを喫し選抜を逃したが、本来のボールではなかった。足りなかったのはストレートの勢い。強いストレートを投げたい意識は、試合前からのキャッチボール、遠投から感じられたのだ。

 遠投では体を大きく使うことを意識し、下半身主導のステップから強く腕を振って、キャッチボールではテイクバックをコンパクトにバランス良く、一つずつ確認しながら投げていた。またフォームも以前よりコンパクトした形となり、これでもかというぐらい右ひじが中に入ることは少ななくなっていた。冬へ向けてフォームを矯正していたように感じた。

 注目の立ち上がりだが、いきなり1番大工原壱成に右前安打を打たれるが、二死二塁から4番松尾健太をスライダーで空振り三振に打ち取るスタート。吉田の好調時は、145キロ前後を計測するが、この日の投球を見る限り、145キロも出ていそうな勢いはなく、135キロ〜140キロ程度。分かっていてもストレートで押し込めるような勢いはまだなく、縦横のスライダー、カーブを軸に組み立てる。吉田のスライダーは、横滑りするスライダーするものの、フォークのように落ちるスライダーがある。横滑りするもので、カウントを稼ぎながら、追い込んで縦のスライダーで三振を奪うように、強力打線の桐光学園も吉田の縦スライダーをなかなか捉えられない。また合間に投げるカーブも、膝元に落ちて桐光学園の各打者がタイミングを崩されていた。

 だがストレートの制球力に苦しみ、また桐光学園も甘く入ったストレートは逃さず、常に走者を出す苦しい投球。さらに四球を出してピンチを迎え、踏ん張りながら試合を作っていた。初回の5点が大きく、心理的に余裕をもって投げられたことも大井紀伊だろう。7回裏に一死満塁からバッテリーミス、内野ゴロで2点を失ったが、9回表に女房役の長倉 蓮(3年)の犠飛で6対2と大きな援護をもらうと、9回裏には二死一、二塁から田中 幸城(3年)の適時打で1点を失ったが、最後の逢坂 倫充(1年)を縦スライダーで空振り三振で毎回の14奪三振完投勝利を挙げ関東大会出場を決めた。

大工原壱成(桐光学園)

 球数は165球ととにかく投げこんだ試合となった。それにしても、吉田のスライダー、カーブは桐光学園打線でも攻略が難しい精度の高い変化球。ストレートも制球に苦しんでいたとはいえ、昨年秋と比べると勢いがあるストレートだった。

 プレッシャーのかかる公式戦では本来の投球ができないことが多い。今までリリーフでの登板が多かった吉田が、このように不調でも我慢しながら試合を作れることを証明したのは、大きな試合だったといえるだろう。夏に向けてピークを持っているか注目だ。

 また桐光学園打線では吉田から2安打を放った1番大工原のバットコントロールの良さ、またスイングの鋭さは中々で、甘く入ればスタンドインさせるほどの鋭いスイングはできており、また守備力は高かった選手なので、夏へ向けて注目をしていきたい選手。2番を打つ俊足巧打の二塁手・根本郁也も、バットコントロールが良く、フットワークが良い守備を見せており、今後も桐光学園打線のキーマンとなるだろう。

  1年春から登板を重ねてきた3番恩地 偉仁も、打者として存在感を示してきた。この選手の魅力はやはり積極的な打撃姿勢と狙い球を逃さないバットコントロールの良さと、好投手相手にも対応ができること。秋から春へ向けてさらに打撃に磨きがかかってきた。また投手としても、120キロ後半の速球、スライダー、カーブをテンポよく投げ分けて、相手の間合いにさせず、淡々と自分の投球ができるところも良く、今年の桐光学園の投打のカギを握る存在となるだろう。

 また新戦力では東京北砂リトル時代、清宮 幸太郎(早稲田実業)とチームメイトだった逢坂も、いきなり吉田から安打を放ち、また三塁守備でも再三フットワークが良い守備と、さらに捕球してから送球するまでの移行の速さ、スローイングの安定性、肩の強さも披露。まだ1年生ではあるが、非常に落ち着いた様子でプレーしていたのが印象的だった。彼も夏へ向けてさらに注目度が上がる選手となっていくだろう。

 やはり桐光学園、夏へ向けて怖いチームであることは間違いない。

(文=河嶋 宗一)