戦略性が加わった市立松戸。我孫子東とのタイブレークを制し、ベスト8進出!

先発・原島康平(市立松戸)

 木更津総合(試合レポート)を破った市立松戸。一言でいえば、相手の神経を揺さぶる好チームだ。つまり戦いにくいのだ。まず守備は内外野ともに安定しており、特に三塁で主将の中嶌陽太(3年)のバントシフトとチャージの速さは特筆すべきものがあり、フォースアウトを決めた場面がいくつもあった。そして木更津総合を破った立役者であるエースの原島 康平(3年)はまさに嫌らしいと表現できる投手だ。

 左サイドから投げ込む直球は、110キロ台。だが右肩をオーバースローの投手のように高々と上げてから、サイドで腕を振るギャップの違いに、タイミングが取りづらい上に、開きも遅いので、出所が見難く、打ちにくい。何より良いのはボールが高めに浮かないこと。左の軟投派は、右打者のアウトコース高めに浮いて痛打されることが多い。このコースにバットの軌道がバッチリ合ってしまうケースが多いからだ。

 だが原島はそのリスクを知っているからこそ、アウトコースは徹底的に低めに投げるか、沈むスクリューを投げる。高めに投げる場合はインハイと攻め方が徹底している。揺さぶりが上手く、木更津総合が苦しむのも納得できる投手であった。

 我孫子東は、エース・岩田 裕生(3年)、豪腕・宮城 正規(3年)、強肩捕手・恩田 綾(3年)と1年から試合出場経験のある選手を中心に着実にレベルアップしてきたチーム。試合は接戦となった。

まず先制したのは、我孫子東。3回裏、9番武山 昂太(3年)の四球、1番草刈 拓臣(3年)の内野安打で無死一、二塁のチャンスを作ると、二塁走者の武山が捕手の二塁けん制の送球ミスの間に三塁に達する。2番坂巻の併殺で1点を先制。だが4回表、市立松戸は3番田中雄大(3年)が中前安打で出塁するうと、4番中嶌の犠打で一死二塁とすると、5番中嶋大輔(3年)のセーフティバントで一死一、三塁のチャンスを作ると、6番小野翼(3年)のスクイズで1対1の同点に追いつくと、6回表、市立松戸は二死一塁から7番原島が右中間を破る適時三塁打を放ち、2対1と1点を勝ち越す。だが、6回裏、我孫子東も、市立松戸の2番手右腕・上村修介(3年)から恩田の二塁打でチャンスを作り、4番岩田の適時打で同点に追いつく。

 上村は小柄な右腕で、速球は120キロ台。原島と比べると、打ちにくさという点ではどうしても劣ってしまうが、素晴らしかったのは、高めに浮くことなく、コーナーに投げ分けることができている。我孫子東打線はやや焦りが見え、初球から手を出す姿が見られた。上村もうまく相手の心理をついた投球ができていたのだ。上村は3イニングを投げて1失点。再び9回から原島が投げることになるが、勝ち越しを許さなかったことが大きな価値をもたらすことになる。

先発・岩田裕生(我孫子東)

 一方で、我孫子東のエース・岩田も良かった。岩田も、ここにきてだいぶ成長を見せている。地区大会に比べ、フォームがゆったりとしたリズムになった。上げた左足をゆったりと下ろし、そこから一気に振り下ろす緩急が取れたフォームから投げ込む速球は常時130キロ前半(最速133キロ)だが、コントロール良く速球が決まり、市立松戸打線をしのいでいく。両チームのエースの好投で、試合は9回まで決着がつかず、試合は延長戦に。千葉県では規定により10回からタイブレークが適用となる。

 10回表、市立松戸は二塁走者の牽制アウト、三振で二死二塁となったが、3番田中の右前適時打で勝ち越しに成功する。そして10回裏、一死二、三塁で4番岩田を迎えた。市立松戸バッテリーは勝負を選択し、岩田は浅い中飛。三塁走者はスタートを切り、センター・水本北斗(3年)がバックホーム。見事な返球で、アウト。市立松戸が堅い守備で、ピンチを脱し、ベスト8進出を決めたのだ。

 随所で市立松戸の守備の堅さを実感したが、ただ守りが良いだけではなく、今年の市立松戸は攻撃も、守備も、選手起用も、意図があり、戦略を持って試合運びができるチームへ変貌した。

 この場面でアウトを決めたい。ならばこういうシフトをしよう、こういう攻めをしよう。この場面で、得点を入れたいから、こういう攻めをしよう、ここで犠打を入れたり、盗塁すると、相手が焦りそうだから、揺さぶっておこう。この場面はなんとしてでも守りきりたいから、こういう選手を起用しようなどと、戦い方に意図をしっかりと感じ取れる。選手たちもそれを理解しているからこそ迷いなく試合運びができているのだ。この試合のポイントとしては、市立松戸は2番手の上村が勝ち越しを許さず、9回裏にあまり疲れていない状態で原島に再びバトンタッチできたのが大きかった。9回以降でも元気な状態で勝負できる状態で送り出すことができたからだ。

 これまで市立松戸は攻守でまとまりのあるチームを作り上げてきた。今年はそこに戦略性が加わった。相手が攻めてきてピンチを招いても、そこを凌ぐだけの守備力が今の市立松戸にはある。

それが木更津総合、我孫子東と言った力のあるチームを破る原動力となっているのではないだろうか。次は私学に負けない力強さが出てくれば、夏でも躍進が期待できそうなチームになりそうだ。 

(文=河嶋 宗一)