28日、縁起物の熊手を売る「酉の市」が行われている東京・千束の鷲神社の光景(撮影:常井健一)

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「ハイ、ハイッ、家内安全、商売繁盛ぉ〜」──。11月3巡目の「酉(とり)の日」にあたる28日、東京都台東区千束の鷲(おおとり)神社では縁起物の熊手を売る「酉の市」(三の酉)が行われている。開運招福・商売繁盛を願って、江戸時代から続く年の瀬恒例のこの祭りは同日未明から始まり、午後には三世代揃って訪れた家族や商店主から若いカップルまで、老若男女でごった返した。同日深夜まで開かれている。

 大勢の客のお目当ては、あでやかな装飾で職人技やアイデアを競う「縁起熊手」。運を「かっ込む」、福を「はき込む」という江戸っ子のシャレが由来とされており、年を経るごとに大きな熊手に換えていくのが良いという。戦時中も含めて77年間、熊手商として露店に立ち続ける種田スエさん(88)によると、昔は竹や板、ワラなどを材料に装飾が作られていたが、戦後から徐々に紙やプラスチックのものが多くなった。

 境内には約200の露店が軒を連ね、中には大手企業や政治家、芸能人の名が書かれた「売約済み」の大札を店頭に掲げてアピールする店も。1000円から数十万円まで言い値から掛け合って売買を成立させる商品も多く、“意中”の商品を手に入れた客を三本締めで送り出す威勢のいい掛け声が所々で上がっていた。

 その年のニュースが熊手のデザインにも反映され、売上げも景気の影響を受けるという「酉の市」では、戦後最長の58カ月続き、「いざなぎ景気」(1965〜70年の57カ月間)をしのぐ景気拡大はいまいち手応えが薄いようだ。

 「まだまだ日銀短観は鵜呑みにはできないねえ」と語るのは、老舗「高砂家」で30年間熊手を売り続ける車田伸一さん(60)。ピークのバブル経済のころには数十万円台の商品が飛ぶように売れたが、今年も含めてここ数年の売れ行きは変わらないという。景況感について問うと「うちらのお客さんの多くは中小零細企業。その方々がもっと高く買うようになったときに『景気が良くなった』と言えるんだろね」と首を傾げながら饒舌に語り、「いざなぎ超え」は実感なさげだった。

 家族代々熊手商を営む「西野」の西野保さん(39)も「まだまだ景気回復は感じない」と話す。毎年同じ店で買い求める常連さんが多いこの商売でも、近年は会社倒産や世代交代などで来なくなってしまう客もいるという。キャラクター風の七福神を盛った熊手が若い女性の目を引きつけていた「白石」の村上悦子さん(64)は、「まだ景気があまり良くないから、こうやって縁起物を買ってくれるお客さんが大勢来てもらえるのかも」と“感触”を語っていた。【了】