大黒将志のイタリアでの挑戦は、およそ順調とは言い難い。11節を終了した時点での出場は4試合のみ。そのうち、90分間ピッチに立っていたのは、8節のフィオレンティーナ戦だけだ。

しかし、トリノを率いる名将アルベルト・ザッケローニ監督は、大黒を決して見切ったりはしていない。むしろ、その潜在能力、順応性、意欲の高さを歓迎している。
「実際のところ、大黒将志という選手は知らなかった。だから、彼がトリノへ来て間もない頃、じっくりと観察させてもらったんだ。彼は実に勤勉で、どんな指示に対しても理解を示す。労働を美徳とする文化の中で育った青年、という印象を受けた。チームのために良く働くし、スペースを探し出す動きも機敏で鋭い。これは本心から言うのだが、彼にそうした点を見出せたのは、私としても予期せぬ驚きだった。まさにゴールゲッターとして欠かせない素質を備えており、そのアグレッシブなスタイルが、日本のファンに愛されていたのだろうと思う」

少しばかりリップサービスが過ぎる印象を受ける。驚きの存在である割には、出場機会を与えていない。だが、ザッケローニはなおも日本の小柄なストライカーに言及する。
「常にゴールを狙うマサシの姿勢は、シェフチェンコに通じるものがある。シェフチェンコのような力強さはないが、間違いなく彼と同じ特徴を持った選手じゃないだろうか」

シェバ(シェフチェンコの愛称)にとってイタリアで初めて出会った監督であり、シェバにセリエAの奥深さや狡猾さを教えた本人であるザッケローニが、大黒をシェフチェンコに例えたのは、見逃せない事実である。

ただ、もちろんザッケローニは大黒とシェフチェンコを同列と見ているわけではない。あくまでも“飛躍的成長を遂げれば”という前提で、そう評価している段階だ。
「マサシはもっとテクニックを磨く必要がある。例えば、相手を引き付けてパスを出す時など、雑なプレーをすることがある。パスの精度はあまり高くない。初めてスタメン起用したフィオレンティーナ戦でも、彼は多くのミスを犯した。とにかくテクニックの向上が必要不可欠だ。彼は現在ではイタリア語で不自由なく会話をしている。通訳なんて大抵いらないほどだ。そうした面も含めて、彼の上達への意欲は旺盛だから、もっと成長できると信じている。そうなれば、自然と出場機会も増えてくると思うよ」