中国人は、なぜコンビニバイトに殺到するか
4月に行われた経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議において、安倍晋三首相は外国人労働者の受け入れ拡大に向け、大きく舵を切った。従来受け入れてきた高度外国人材だけでは、労働人口減少への対策として不十分であるという判断を下したのだ。不可避かつ逼迫した議論が慎重になされるよう見守ることが重要だろう。ところで、そういった国の在り方を左右する議論がどのように決着しようとも、すでに日本では留学生をはじめとする多くの外国人アルバイトが働いている。特に都市部であれば、彼らの姿を見ずに1日を終えることはごくまれだろう。彼らの実情に肉薄すべく、中国人留学生である李陳平さん(仮名)にインタビューをした。
「新橋の居酒屋と住宅地のコンビニでバイトしています」
李さんが流暢な日本語でそう話す。日本にやってきたのは2年前。当時は日本語をほとんど話せなかった。
「まず工場で6カ月働きました。工場なら日本語ができなくてもOKですけど、ずっと立ったまま同じことを続けるからとても疲れます。そのあと中国人が経営する中華料理店で8カ月働きました。わからない言葉があってもすぐに助けてくれます」
李さんのバイト遍歴は留学生にとっては典型的コースだ。日本語が上達するにしたがって選択肢が増えるが、大抵は居酒屋やコンビニといった業種に落ち着く。日本語が上達しなければ接客なしの単純作業に従事するしかないので留学生にとって日本語学習は語学習得以上の意味を持つ。
現在、李さんは時給1000円の居酒屋で午後5時から12時まで週に3回、時給900円のコンビニで5時から11時まで週に2回働いているという。なぜ今のバイトを選んだのか。
「居酒屋はやらないといけないことが多いし、たくさん動くし、皿洗いが特に大変。だけど、お給料がいい。コンビニはとても楽ですけど、みんなそのことを知っていて応募するので、シフトを増やすのは無理です。ただし、セブン−イレブンはお客さんに人気があってとても忙しいから、留学生には人気が少ないです(笑)」
李さんは同じ学校の中国人留学生たちとバイトに関する情報を交換している。仲間内で最も人気があるのは、来客の少ないコンビニと、中国語を生かせるデスクワークだ。
「貿易会社でバイトしている友達は時給1200円です。座ってパソコンで仕事するだけなのにお給料がいいから、うらやましい。牛丼屋の友人は『疲れた。死ぬ』と言っているから私はやりたくない」
しかし李さんは週に30時間以上働いていることになる。就労制限に抵触しないのか。
「留学生は1週間に28時間までしか働けません。内緒ですけど、個人営業のコンビニでは、労務管理がいい加減で私の労働時間は公にはバレません。お給料はもらっても、税金はかからない、そういうコンビニはたくさんありますよ」
(ジャーナリスト 唐仁原俊博=文 村上庄吾、原 貴彦、市瀬真以、奥谷 仁=撮影)