金額も非常に大きかったですし、国債の買い入れる期間というのも、今まで2〜3年のものを買ったり、一部中期国債をオペレーションで買っていたりしていたわけですが、40年債という長いものまで買い入れるということが決定されました。日銀としては、リスク資産を購入し、長期的なところまで日本の金利を下げるという政策なんです。そうすると、日本の機関投資家や生損保、銀行などにとって運用する先が日本国債ではなくなるという状況になり、もう少し金利が付く外国債券や株式に資金が流れやすく、よりリターンの高い運用先にお金が向かいやすくなるような環境(これをリスクオンといいます)になっているところです。そうすると、国外にお金が向かいやすくなりますから、円安が進みます。

最初の質問に戻りますが、安倍政権が誕生してなぜ円安になったかというと、「アベノミクス」の政策がそもそも円安的であるということと、米国の出口政策が近づいているということ、それに加えて、安倍首相が選んだ黒田日銀総裁の政策がかなり思い切っていたということに尽きます。

――わかりました。安倍首相の発言もさることながら、黒田総裁の政策のインパクトが決定打になったというか、それほど衝撃的なものだったわけですね。

就任された直後ということもあって、国会やいろいろな場面で事前に黒田さんがご発言される機会が非常に多かったので、市場の期待は政策発表前の段階で相当高まっていました。そもそも、以前、リスク資産を買い入れることは難しいと言われていたにもかかわらず、リスク資産を買うという話が突然出回って、ETFを含むリスク資産を買い、さらに、期間の長いものを買って量も増やすということは事前に相当期待されていました。マーケットでは、こうした状況を”折り込み済み”と言いますが、そういう状況だったので、その期待を裏切らない、もしくは期待を超えることするということは難しかったと思います。

ですが、黒田総裁は有言実行で、我々が想定していたよりも緩和の規模が大きかったということに加え、分かりやすさという面でも、市場参加者のみならず、一般の人がワイドショーで報じられてもわかるような政策を示しました。

学者肌だった白川前総裁に比べ、今回の決定は非常にシンプルでした。2年で2%のインフレターゲットを達成するために、マネタリーベースという日銀の資金供給量を2年で倍にし、保有資産も国債もリスク資産も2年で倍にすることを決定しました。このように、「2年でインフレ率2%、マネタリーベース2倍」というように「2」という数字にこだわったことで、一般の人でも、「日銀はすごいことをやっているんだ」ということを分かりやすくしているというのが非常に大きなポイントです。規模、発表方法などあらゆる面で市場関係者の想定を超えていたので、これだけマーケットが反応したということです。

――マネタリーベースとか、市場に資金を供給するとか、そういうことを、普通の人でも理解できるようにプレゼンしたというのが大きかったということですね。

余談になるかもしれないのですが、何が問題かというと、日米ともにほぼ政策金利がゼロなんです。日本は今回「政策金利」という考え方自体取っ払ってしまいました。金融政策を実行するといった時にこれ以上金利を下げられない。金利を下げられなくなった時にどうするのかというと、どれだけ資金を供給するかということで、米国ではバーナンキさんがとても上手だったので、大規模に実施し、さらにQE3を決定したときには無期限に資産を買い入れるというスタンスを見せました。

日本も同じ事を今までちょっとずつやっていたのですが、黒田総裁は、それを今回は大々的に実行すると発言しました。なぜかというと、政策金利は動かせないので、市場の期待に訴える政策です。インフレターゲットは意味はあるのかと思う人がいるかもしれませんが、なぜインフレターゲットを設けるかというと、インフレ期待です。今後物価が上がっていくという期待を保たせることによって、それで市場に、価格が上がるんだったら早めに買っておかなければいけないということを思わせるわけです。これから景気はよくなるのかな、投資した方がいいのかなと思うところがすごく大事なので、黒田総裁は、ああいったわかりやすいプレゼンをしたのだと思います。