WBC(WORLD BASEBALL CLASSIC)予選第1ラウンド、カナダ代表チームメキシコ代表チームで、両軍入り乱れての大乱闘が勃発した。過去3回の大会で、乱闘は初めて。

 9対3と、カナダの6点リードで迎えた最終回。メキシコの投手、アモールド・レオンの投球が、カナダのレーン・トソニの背中を直撃。これが乱闘の引き金になり、両軍合わせて7選手退場になった。
 試合は10対3で、カナダが勝利した。

 今回の大乱闘では、両軍の言い分がわかる。まずは、乱闘のきっかけを作ったメキシコ。カナダはこの回、トニソの前を打つクリス・ロビンソンが3塁へのセーフティバントで出塁したが、このことがレオン以下メキシコ代表チームの逆鱗に触れた。
 この時点で、カナダがメキシコに6点リードしており、試合の対局はほぼ決まっていた。そんな状況で、リードしているチームがセーフティバントをするのは、米メジャーリーグではご法度。弱っている敵をさらに痛みつける行為とみなされ、報復の対象になる。
 この試合は国際大会であって、メジャーリーグではない。だが、ロビンソンはボルティモア・オリオールズ傘下の選手。2005年のドラフトで、デトロイト・タイガースから3巡目に指名され、入団した。マイナー生活が長いとは言え、この不文律を知らないはずが無い。

 一方、カナダの言い分。カナダは前のイタリア代表チームとの試合で、14対4と大量得点差で敗れている。対メキシコ戦では、試合の対局は決まったとは言え、大会ルールで1次ラウンド敗退になった韓国代表チームのことを思えば、出来る限り得点を積み重ねたかった。その結果が、ロビンソンのセーフティバントだった。

 かくして、怒りを込めたレオンの投球が、打席のトニソの背中を直撃。納得のいかないトニソはマウンドに向かい、大会初の大乱闘に発展した。

 ただ、WBCのような国際大会でこのような事件が起きたのは、残念だ。野球の世界的な発展に、今回の乱闘はマイナスのイメージを残した。両軍には、大いに反省を求めたい。

 と、ここまでは優等生的な意見。乱闘は褒められた行為ではないが、一方でファンをヒートアップさせる。米国でアメリカンフットボールやバスケットボールが人気なのは、大男たちが真っ向からぶつかり合うためとも言われている。
 メジャーリーグの不文律をまとめたポール・ディクソンの「メジャーリーグの書かれざるルール」(朝日新聞出版)にも、「たまの乱闘は、野球には必要な要素である」「実際に怪我をする選手はほとんどいない。乱闘は儀式的なもので、ストリート・ファイトよりもバレエに近い」と紹介している。

 選手も、このことをわかっている。乱闘が始まれば、ブルペンに控えている中継投手陣を含め選手はみな参加しなくてはならないが、実際に相手と激しくやりあっているのは一部。多くは遠くで戦局を見守っている
 どうしても困ったときは、選手同士取っ組み合ったままでいるのが一番だ。これはドック・パイルと呼ばれているが、メジャーではこのような状態が一番安全と言われている。
 一見乱闘に参加しているように見えるから味方から非難されないし、相手も無用な怪我をしたくないから、実際に殴り合いになるケースも少ない。

 乱闘、特に他人が原因の乱闘で退場処分を下されたり、怪我をするのはばかばかしい。両軍とも仲良く、もめているふりをするのが一番だ。