尖閣問題が顕在化する前から、欧州車に押され人気の低下が囁かれていた日本車勢。ここからどう巻き返すのか?(imaginechina/AFLO=写真)

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沖縄県・尖閣諸島を巡る中国との領有権問題に加え、中国経済じたいの減速というダブルで降りかかる「チャイナ・リスク」が、日本の自動車大手を揺るがしている。とりわけ、最大手のトヨタ自動車の衝撃は大きい。中国で100万台に据えた2012年の新車販売目標は達成絶望との見通しだ。そのうえ、かつての巨象、米ゼネラル・モーターズ(GM)もなしえなかった前人未踏の世界販売1000万台に黄信号が灯り出したからだ。

日本政府による尖閣諸島の国有化をきっかけに、一気に反日感情が高まった9月の中国市場で、日本車販売は不振が際立った。中国で日本勢トップの日産自動車が前年同月比で35.3%落ち込み、トヨタは日産の下落幅をさらに上回る48.9%減と半減した。ホンダも40.5%の大幅減を強いられ、まさに中国から日本車市場が“蒸発”してしまった。

この結果、トヨタの1〜9月の販売台数は約64万台にとどまった。残す10〜12月の間に反日感情が沈静化し、販売が急回復する望みは薄い。トヨタ関係者からは「100万台の目標達成はほとんど不可能」とのあきらめの声も漏れる。しかし、世界最大の自動車市場にのし上がった中国で、日本車排除の動きが長引けば、目標未達以上の大きな痛手となるに違いない。

中国全土に拡大した反日デモで、中国生産の一時停止に追い込まれ、日本国内でも九州での中国向けの高級ブランド「レクサス」の減産を強いられただけでは終わらない。11年通期で世界第2位に浮上し、トヨタの世界一獲りを脅かす独フォルクスワーゲン(VW)は中国市場でトップシェアを握っており、足踏みするトヨタを尻目にシェアを奪っていく可能性は否定できない。

実際、VWは9月の中国での新車販売が前年同月比20.5%増、中国市場で日産と熾烈な3位争いを繰り広げる韓国の現代自動車も15%増と、それぞれ“敵失”に乗じて勢力を拡大した。9月の中国新車販売は1.8%減と今年1月以来、8カ月ぶりに前年同月実績を下回った中での増勢だけに、不買運動などが長引けば、日本車市場が欧米、韓国勢の草刈り場となる可能性は否めない。

しかも、チャイナ・リスクは尖閣諸島問題だけにとどまらない。中国は4〜6月の国内総生産(GDP)の成長率が前年同期比7.6%増と6期連続で下降し、09年以来3年ぶりに8%台を割り込むなど、中国経済そのものの減速が鮮明になっている。景気減速から尖閣問題がなくとも新車販売の勢いは鈍り、日本車の在庫がだぶつき始めていたのは事実だ。9月の新車販売の急落から在庫は積み上がり、10月以降は中国での大幅減産は避けられない。

■技術流出覚悟のHV生産開始も……

トヨタは08年秋の「リーマン・ショック」と大規模リコール問題によって、主戦場だった米国市場で大打撃を受け、それまで手薄だった新興国市場へのシフトを鮮明にしてきた。インド、ブラジル、インドネシアなどで相次ぎ新興国専用車を投入しているのも、その表れだ。中国でも11年に88万台だった新車販売台数を15年までに倍増の180万台に引き上げる計画を打ち出したばかりだった。

これを裏付けるように、トヨタは中国への世界最先端技術の流出のリスクも覚悟のうえで、ハイブリッド車(HV)「プリウス」の中国生産を昨年12月に開始し、15年までにHVの基幹部品も生産し、中国でのHVの一貫生産に乗り出す計画だった。これは中国の環境車政策にも沿っており、世界トップを走るHV技術をテコに、中国でシェア拡大につなげる強い決意表明だった。

しかし、ここにきて一気に不確実性が増した中国市場の現状は、トヨタの目算を大きく狂わせかねない。ひいては今夏発表した12年の販売計画で、日野自動車、ダイハツ工業を含むトヨタグループが掲げた世界販売1000万台の目標にも暗雲が垂れ込める。

トヨタは12年上期(1〜6月期)に、グループ販売台数で2年ぶりに世界トップの座に返り咲いた。このタイミングで12年通年の目標に世界1000万台と据えたのも、リーマン・ショック、リコール問題、東日本大震災を乗り切り、復権をアピールする狙いがあったはずだ。

豊田章男社長は、反日デモで販売店が破壊されるなど尖閣問題が深刻化した後も、中国は「中長期的に強化していく市場であることに変わりない」との姿勢だ。しかし、チャイナ・リスクがトヨタの世界戦略の大きな不確定要素として急浮上したのは間違いない。

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