中国では、ノーベル賞が強い関心を持たれている。2012年の受賞者発表についても、各メディアが競って報道を続けている。医学生理学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授については「イケメン」などと評する記事もある。大手ポータルサイトの新浪網は、中国中央電視台(中国中央テレビ、CCTV)幹部の許文広氏の、「日本人のノーベル賞受賞が相次いでいることの秘密は、日本円に描かれている肖像を見れば分かる」との論評も紹介した。

 新浪網はその他のポータルサイトと同様に、2012年のノーベル賞についての特集ページを設けた。ニュースだけでなく、各界の論評も掲載されている。

 許文広氏は、「2000年以来、日本からは米国に次ぐ10人が科学関連のノーベル賞を受賞した」と指摘。「その国家的秘密は日本円にある」と主張。最高額の1万円札にある肖像は福沢諭吉で「日本では近代教育の父と呼ばれている」、次の5000円札の肖像は新渡戸稲造で「近代女子教育の開設者」と紹介。通貨にも反映されているように、教育重視の考え方がノーベル賞受賞に結びついているとの考えを示した。

 なお、中国では現在、すべての紙幣で毛沢東の肖像を採用している。

 山中教授については、人工多能性幹細胞(iPS細胞)という学術成果と共に、「受賞決定の連絡を受けた時には、自宅で洗濯機を修理中だった」などのエピソードも紹介。また、同教授の「日の丸の支援がなければ、こんなにすばらしい賞を受賞できなかった」との言葉を、「栄誉は日本に帰すると語った」と紹介した。

 中国では尖閣諸島の領有権を巡って、日本に対する強い反発が続いている。自らの受賞を日本という国に結び付けて理解する山中教授の考えを、メディアとして紹介したことが注目される。山中教授については「イケメン」と評する紹介記事も相次いだ。

 新浪網は、ノーベル賞について「愛国的」に騒ぐ風潮を批判するジャーナリスト・評論家のトウ海建氏の意見も紹介した。(トウは「登」におおざと)

 トウ氏は、2012年のノーベル文学賞受賞者が中国の莫言氏か日本の村上春樹氏になるとして、中国国内で興奮が高まっている現象を批判。崇高な文学作品そのものの価値に比べれば、ノーベル賞受賞は副次的な意味しかないと指摘するなどで、文学賞の受賞者選定を「日中対決の場」と受け止める風潮に警戒した。

 トウ氏は、「ノーベル賞について騒ぐよりも、しっかりと作品を読むべきだ。文学における憤青になるより、ずっと意義があることだ」と指摘した。「憤青」とは「怒れる青年」の意。社会に対して不満を持つ若者を指し、反日デモなどにおける破壊活動をする者も、多くが「憤青」とされている。

◆解説◆

********** 日本の現在の5000円札の肖像は、樋口一葉(2004年発行開始)。いずれにせよ、日本では紙幣に文化人の肖像を用いることが、ほぼ定着したと考えてよい。

 戦後も聖徳太子、伊藤博文、岩倉具視、板垣退助ら政治家の肖像が用いられていたが、1984年発行の1万円札で福沢諭吉の肖像が用いられて以降は、同時に発行された紙幣における新渡戸稲造、夏目漱石(1000円札)、紫式部(2000円札)、樋口一葉、野口英世(1000円札)と、すべて科学者を含む文化人になった。(編集担当:如月隼人)