欧州で「大学卒」資格を得ることは、日本のそれとちがって非常に難しい。ゆえに価値ある社会的肩書きとして重用される。しかしサッカー選手兼業でそれに挑むとなれば、その困難は計り知れない。
 ヴァレリオ・フィオーリ(38)は、その偉業をやり遂げようとしている。ミランの第3GKであるフィオーリは、来月中にもローマのサピエンツァ大学で法学部卒業試験を受ける。卒論のテーマは「国家権力間における権利争議論」だ。

「若い頃からつねに大学で学びたいという願望を持っていた。通信過程を見つけることができてサッカー選手としてのキャリアと両立することができた。教授たちは私がサッカー選手だからといって試験で手心を加えることはなかったし、私もそれを望むわけがない。

 勉強を始めたのは子供も生まれた後で、ここまで8年かかった。その間何度もやめようと思った。最も難しかったのは『市民法の訴訟手続』科目で、とても複雑な上に膨大な判例を調べなくてはならなかった」

 イタリアの大学での通常試験は30点満点で採点され、フィオーリは最終的に全科目平均で28点をとった。これはかなり優秀な成績だ。ミランと新たに1年契約を延長した彼は卒業試験を前に、キャリアを終えた後、GKコーチになるか、法務のプロとしてクラブ幹部入りするか副会長ガッリアーニと話し合っているという。

「ミランは、値しない選手と契約を更新するようなクラブではない。キャンプや遠征移動の間を利用してこつこつ勉強してきた。練習でも勉強でも、私はつねに頭脳を鍛えておくのが好きなんだ」

 まさに文武両道。他に大卒資格を有するセリエA選手はFWボグダニ(経済学部卒/キエーボ)ぐらいで、甚だレアケースだと言わざるをえない。しかし「高級車と美女にしか興味がない」と思われているサッカー選手にあって、中にはこういう例外もいるのだ。

弓削高志