バロンドール候補に3選手を送り出しているフランス代表。ファンが懸念するのは投票が割れたうえでの“全滅”だ。(C)Getty Images

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 バロンドールを巡るレース(10〜11月に投票)はいつになく活気づき、主宰する『France Football』誌のお膝元、フランスでは議論が白熱しはじめている。
 
 今回のバロンドールには、フランスから3人の候補者がエントリー。1人目は、自ら2ゴールを決めてヨーロッパリーグ決勝を制し、4ゴール・2アシストの活躍でワールドカップ優勝も牽引したアントワーヌ・グリエーズマン(アトレティコ・マドリー)。2人目は、やはり4ゴールでワールドカップ制覇に大貢献し、世界的センセーションを巻き起こした19歳のキリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)。そして3人目は、チャンピオンズ・リーグでビッグイヤーを掲げたうえ、ワールドカップでは本業の守備のみならずゴールでも優勝に寄与したラファエル・ヴァランヌ(レアル・マドリー)だ。
 
 このうちエムバペは、ワールドカップ直後の『France Football』誌による独占インタビューで、「もし審査員の立場だったら、君が選ぶ5人のバロンドール候補は誰?」と訊かれ、こう答えた。
 
「クリスチアーノ・ロナウドはもちろん入れるし、(ルカ・)モドリッチもいるし、すべてに勝利したヴァランヌもいる。ネイマールも“ダイブ男”だなどと過小評価されるべきじゃない。で、最後の仕上げに自分もそこに入れるのかな。ただフットボールを愛するなら、(リオネル・)メッシをリストから外すのは複雑だよね」。代表でチームメイトのグリエーズマンには言及もしなかった。
 
 この時点でフランス人は「ん? 内紛か!?」と息を呑んだが、グリズーは反応しなかった。

 
 ところが胸をなでおろしたのも束の間、8月末には『Le magazine L’EQUIPE』誌が、アトレティコのフランス3人衆(グリズー、リュカ・エルナンデス、トマ・ルマール)の対談インタビューを掲載。ここでリュカが、「今年はハッキリかつクッキリ、第1候補はムッシュー・アントワーヌ・グリエーズマン!」と元気いっぱいに強調した。しかも当のグリズーは、「エムバペは宇宙人?」と問われ、冷ややかに「イレ・ボン(彼はいい選手)」。「それ以上ではないと?」と念を押されると、「トレ・ボン(とてもいい選手)」と付け加えてエムバペのクオリティーを持ち上げ、「経験を積めばシーズンに50ゴールだって決められる」と褒めたのだ。
 
 しかし9月5日、今度は『L’EQUIPE』紙がダミアン・ドゥゴール記者のグリエーズマン独占インタビューを載せる。「エムバペが君を5候補に挙げなかったのは忘れただけかな?」と尋ねられると、「かもね。あるいは僕のフットボールが好きじゃないとかね」と爆笑した。
 
 一方、ヴァランヌを育成したRCランスのジェルベ・マルテル元会長は、「チャンピオンズ・リーグとワールドカップの両方を制したのは彼だけ!」と断固ヴァランヌを推挙。このようにバロンドール問題は、フランス人の頭痛の種となってきたのだ。
 候補者乱立で全滅の可能性もあるため、こんな声も挙がった。
 
「親愛なるフランス人同胞のみなさん、大統領選挙同様、予備選挙に似た世論調査をして絞り込もう! 2006年のイタリア・サッカー連盟は、(ジャンルイジ・)ブッフォンとの共倒れを防ぐべく(ファビオ・)カンナバーロに投票を一本化するロビー活動をし、バロンドールをゲットしたのだ!」(France Football誌のナビル・ジェリット記者)
 
 もっとも、TV討論会でのご愛嬌。真剣に記事で提唱したわけではない。
 
 これに対し、オピニオンリーダーのヴァンサン・デュリュック記者はと言えば、『L’EQUIPE』紙の社説で、「もしかしたらトップ3をフランス人が独占するかもしれないのだから」と候補一本化の不自然さと難しさを指摘。「お国」が上から決めて個人を泣かせるのは理不尽だからだ。ただ、さりげなく、「誰かが自発的に諦めれば別だが……」と示唆するのも忘れなかった。