主食用米が値上がりしているのは、今日まで続く農業政策の欠陥が関係している(写真:和尚 / PIXTA)

米(コメ)の値上がりが止まらない。消費者物価上昇率は日本銀行が目標に掲げる2%に満たず、「インフレ目標」が達成できてないのに、コメ(主食用)の価格は最近3年で3割も上昇した。その影響は家庭で食べるご飯だけでなく、牛丼の値上げや、値段を据え置くおにぎりや米菓でコメの分量を減らすなどの形で及んでいる。なぜコメは値上がりしているのか。


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天候不良や生産地での自然災害ばかりが原因ではない。コメの作況指数は、2015年産米が100で平年並み、2016年産米が103でやや良、2017年産米が100で平年並みだったから、不作が原因ではない。実はそこには財政がかかわっている。

コメが値上がりしている根本原因は、稲作農家が、「主食用米」(家庭用や業務用)ではなく、「飼料用米」(多収性専用品種)に作付を振り替えてしまったからだ。簡単に言えば、人が食べるコメを作るのをやめて、家畜の餌にするコメを作ることにした農家が増えたからである。

農家が飼料用米を作りたがる理由

農家が、人が食べるためのコメを作りたがらないから、値段が上がり、それが追い打ちをかけ、日本におけるコメの需要をますます減らしている。コメにこだわりのない人は、値段が高ければ、パンやパスタなどに替えてもいいと思うだろう。このところ、日本での主食用のコメの需要は、年平均で8万トンずつコンスタントに減っていて、今や754万トンとなっており、今後さらに減るという予想もある。

では、どうして主食用米でなく、飼料用米に振り替わっているのか。それは、飼料用米への補助金が手厚いからだ。これまでの半世紀にわたる経緯を順を追って説明しよう。

そもそも、コメの供給過剰が恒常化したことから、1971年に減反が本格的に始まった。減反とは生産調整のことである。

減反政策の本質は、コメの生産量をいかに減らすか。だから、減反政策は、米の生産数量目標を農家に国が配分し、その目標に従わせることで生産量を抑制する方策と、米農家に転作助成金を支給する方策という、2本立てである。

前者についてはコメの作付面積を政府が配分していた時期もあったが、要するに、政府が農家ごとに目標量を決め、それを超えないように生産することを各農家に求めた。後者はコメ以外の作物に転作した農家に対して国が補助金を出すというものである。

減反政策は生産数量目標をいかに達成するかがカギなので、生産調整に応じてコメを作らなかった農家に補助金を出すだけでなく、生産数量目標を達成できなければ、転作助成金をはじめもろもろの補助金は出さない、という罰まであった。

そこに、2009〜2012年の民主党政権による、戸別所得補償制度の導入が加わった。これとあわせて2010年から、生産数量目標を達成できなかった農家にも、主食用米以外の飼料用米などへの「転作助成金」を支給することにした。これがやがて冒頭のコメの値上がりと関係してくる。こうして、生産数量目標を達成しようがしまいが、国から補助金がもらえる状況になった。

2012年に自民党政権へと代わり、第2次安倍晋三内閣は戸別所得補償制度を廃止。といっても、農家への補助金を全廃するわけにもいかないので、民主党政権期の補助金をどう見直すかが焦点となった。その際、行政による生産数量目標の配分を2018年度以降、撤廃することを決めた。この「行政による生産数量目標の配分」の撤廃を、減反廃止と評する向きもあるが、実質的には廃止とは言えない。なぜなら前述のとおり、減反政策は、生産数量目標の配分だけではなく、転作助成金もあるからである。

安倍政権が2013年に決めた見直しで、行政による生産数量目標の配分を廃止するのに合わせて主食用米への補助金はなくすことにしたが、転作助成金を残すこととした。しかも、転作助成金は、民主党政権期に生産数量目標に関係なく補助金を出すことにしたのを踏襲している。

農家が「経営判断」で生産調整

行政による生産数量目標の配分はなくなったが、農業者の経営判断による生産調整は残る。生産調整は必要と認識する当事者も多いため、農林水産省が2015年に策定した「食料・農業・農村基本計画」では、食料自給率を維持すべく生産努力目標を主要品目ごとに示した。

同計画で示されたコメの生産努力目標は、2013年度の872万トンから2025年度に872万トンとした。要するに2025年度でも2013年度と同じ生産量を維持することを努力目標として掲げたのだ。中でも飼料用米は、2013年度の11万トンから2025年に110万トンに増やすことを、努力目標としたのである。

これが飼料用米への手厚い補助金の裏付けとなっている。全体のコメの生産量を維持しつつ、飼料用米の生産量を増やすということは、主食用米の生産量を減らして飼料用米を増やすことにほかならない。そうした計画になっているのである。

飼料用米を増やすためにとった手立てが、転作助成金(水田活用の直接支払交付金)であり、主食用米から飼料用米に転作した場合、この助成金を手厚く出すことだった。


どれほど手厚いか見てみよう。作物別にみた10アール当たりの所得と労働時間だ。主食用米だと、販売収入は10万4000円、経営費は7万1000円で、差し引き、3万3000円の所得が得られる。その主食用米にはもはや2018年度以降に補助金がなくなった。

これに対して飼料用米は、販売収入が9000円、経営費が6万8000円だが、転作助成金が11万7000円もらえるので、差し引き、5万8000円の所得が得られる。同じ10アールの水田でも、所得は、主食用米だと3万3000円、飼料用米だと転作助成付きで5万8000円なのである。

これをみた農家は、飼料用米へと転作を進めている。主食用米の国内需要は、前述のように中長期的な減少傾向が続いているから、主食用米の生産が過剰になってはいけないのはわかる。だが、冒頭で指摘したように、主食用米の価格が最近3年で3割も上昇するという事態は、やはり飼料用米への転作が過剰に誘導されているといわざるをえない。

そこまでして飼料用米が必要なのか

おまけに飼料用米への転作が、手厚い転作助成金によって誘導されているということは、そのために多額の税金が使われていることを意味する。財務省の機械的な試算では、もし飼料用米で前掲の生産努力目標の110万トンを達成するならば、この転作助成金は2016年度の676億円から2025年度には1160億〜1660億円程度に増額しなければならないという。

そこまでして飼料用米が必要なのか。飼料用米では、補助金なしに自力で稼げる販売収入が10アール当たり9000円と、主食用米の10分の1未満しかない。

国内で畜産用に飼料が必要なら、コメにこだわる必要はまったくない。飼料用のトウモロコシを作れば、同じ10アール当たり3万1000円の所得が得られる。この所得は主食用米とほぼ同じだが、労働時間は主食用米の7分の1で済む。財政面から見ても、転作助成金は飼料用米の約3分の1で済む。

他の穀物に転作する方法だってある。小麦に転作すれば、10アール当たり4万3000円の所得が得られ、主食用米より労働時間は少なく所得は多くなる。小麦だと転作助成金(畑作物の直接支払交付金を含む)を飼料用米より少なく抑えられる。


たまねぎやキャベツを生産すれば所得はもっと増える(写真:ニングル / PIXTA)

さらには、同じ10アールの土地があるなら、水田を畑地化して、たまねぎやキャベツを作れば、所得は飼料用米を作るよりももっと増える。しかも国から補助金をもらわずに、だ。

確かに労働時間はコメを作るより多くなるが、機械化してたまねぎやキャベツを作れば、コメを作る時間とほぼ同じで済む。補助金に頼らず、コメを作るときと同じ労働時間で、コメを作るのよりも圧倒的に多くの所得が得られる方法はあるのだ。

適地適作で、水田を水田のまま残すな

最近のコメの値上がりは、こうした飼料用米への過剰な転作誘導が手厚い補助金によって行われていることが、原因としてある。それを改めるにはこの手厚い補助金の配分を抜本的に改めることだ。行政による生産数量目標の配分は廃止されたものの、減反政策の残滓である「転作助成金」のひずみという問題は、依然として残っている。

確かに、これまで減反の象徴だった「行政による生産数量目標の配分」を廃止するところに持っていくまででも、政治的な困難があり、前掲のように、コメの生産量を将来にわたって維持する計画を示しつつ、ようやく2018年度にその廃止にたどり着いた。

ただ、もう廃止されたのだから、いつまでもコメの生産にこだわる必要はない。助成金を使った飼料用米への過剰な転作誘導をやめつつ、需要減が不可避な主食用米の効果的な転作を進めていくべきだ。適地適作を見極めながら、水田を水田のまま残すことにこだわらず、今こそ生産性の高い農業を目指すときである。