昨今では企業も従業員の健康を守るべく「禁煙の日」を設けたり、タバコを吸わない方にも配慮し分煙対策を推し進めたりしていますが、喫煙者にとっては「体に悪いよ!」と言われても、すぐに止められるものではありません……。

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 そんな喫煙者たちに朗報と言っていいかはさておき、これを見たらタバコを止めようという決心がつくかもしれません。それが、大阪天神橋筋商店街の電子タバコ専門店「禁煙屋」の店頭に置いてある「たばこの墓場」。

 口をだらしなくあんぐり開けたタバコのマスコットが印象的なオブジェです。なんでも、製作者も喫煙者だったようで、禁煙には興味があったものの、意志が弱くついつい吸ってしまう……。そんなタバコの呪縛から逃れられない、情けない自分を思いながら作っていたら、この表情に仕上がったとか。

 こちらを製作したのは、看板の製作及び施工を行っている「カムソン・アート」の吉本裕司さん。ツイッターでも度々話題に上るほど、大阪天神橋筋商店街ではちょっとした名物マスコットのようです。こちらの何とも言えない表情の「たばこの墓場」について製作者の吉本さんにお話を伺いました。

―「たばこの墓場」はいつ頃製作を依頼されて、作られたものなのでしょうか?

2010年7月に禁煙屋さんに納品したものです。

―依頼された内容はどのようなものだったんですか?

当時、禁煙が世間でも話題にはなっていましたが、禁煙グッズのお店はまだまだ少なく、認知度が低かったので、通行人がお店の前で足を止めるようなインパクトのあるものを店頭に欲しいという依頼でした。

自分の持っているタバコを捨てる場所、いわゆるタバコの墓場的なものがテーマとして与えられました。数点案を作りましたが、中でも「たばこの墓場」は一押しの案で、相当プッシュしていたと思います。店頭にお墓なんてちょっとやりすぎという意見もあり、その時は結果保留になりましたが、数日して社長さんから「これでいこう!」と連絡をいただきました。社長さん悩まれたようで「お前に任せた!」みたいな感じでした。私の中では完成したオブジェを見た人の顔が想像でき、作る前からワクワクしていました。

―ちなみに、たばこの墓場のキャラクター名などはあるのでしょうか?

特別な呼び名はついていません。芸能人ブログやツイッターなどでもたくさん取りあげてもらっていて、写真を撮りに来たという人もいるくらいなので、名前ぐらい付けてあげたいですね。名前募集も提案してみます。

―たばこの墓場の口からタバコを入れると下のクリアボックスに落ちる仕組みだと思うのですが、自分で入れたタバコがすぐ目の前に見えるので、喫煙者の方も勿体ないことをしたな…と思って「やっぱり取り出してもらってもいいですか?」みたいなことは今までありませんでしたか?

「さっきこの中にタバコ入れたんやけど、返してくれへんか」みたいなことが、これまでに数回あったらしいです。でも本人の物かどうかは確認がとれないので返却はお断りしているようです。

―クリアボックスにたまったタバコの行方を教えてください。

本当かどうかは分かりませんが、社長さん自らが、お祓いをしてお焚き上げしているらしいです。

―これだけタバコがクリアボックスに入っているところをみると、勝手に壊して持っていかれそうな感じがするのですが…、そのようなことは無かったんですか?

看板はよくいたずらされたり、酔っぱらいに蹴られて壊されたりするのですが、さすがにお墓の形をしているので、撫でられることはあっても壊されたり、勝手に持ち帰るなど罰当たりなことをする人はいないようです。

―こちらの「たばこの墓場」は、依頼→立案→製作→施工完了まで期間は、どのぐらいかかりましたか? ちなみにお値段はおいくらで作られたものなのでしょうか?

1カ月半くらいです。「たばこの墓場」のお値段ではないですが、オブジェですと企画/設計からで30万円〜になります。

―その他、イラスト看板やねぶた風看板、垂れ幕やテントのデザイン、幅広く製作されていますが、それぞれテイストが違うものなので、作る方の得意分野でデザインの振り分けをされているのでしょうか?

全て、私が作ったり描いたりしております。お客さんの求めているものが個々で異なるので、看板屋はそれぞれに合った看板作りの対応が必要なのです。また23年もやっていますと、何でもできるようになります。しかし、時代が変わってきましたので、若い人の感性に委ねていくことも大切だと思っています。
これから、新しいものを創造していく上で、私に無いもの、特に若い人の感性を取り入れていくことが必要だと思っています。自分の物差しで考えていてもそれ以上の発想は生まれませんので。

先日、イラストレーターを目指しているという20代の女性が作業場を訪ねてきました。作品集を見て、この方のデザインで何かを作ってみたいと思い、さっそくデザインを依頼しました。新たなスタートになりそうです。
ちなみに、現在スタッフは雇ってはいないのですが、私の作業場に遊びに来ていた小学生の男の子が大人になって(現在27歳)、今アルバイトに来てくれています。

―吉本さんが一人で製作されていると伺い、かなり驚きました。さまざまなテイストのオーダーにこたえなければいけないという点で、かなり難易度の高いものを求められると思うのですが、どちらでデザインを学ばれたのですか?

1988年大阪芸術大学映像学科卒業後、大阪の映像制作会社に就職し、企業ビデオやCM、TV番組のディレクターをしておりました。
三年後その会社を退職しぷらぷらしている時に、お祭りのパレードカーの製作依頼があり、未経験ではありましたが、物作りは子どもの頃から得意でしたので請け負うことに。さて、何をどう作ろうかと悩みながら、ふと見た旅行パンフレットに青森県の「ねぶた」の写真があり、直感でこれを作ろうと決め製作。それが現在に至る始まりでした。

―主に大阪を中心に受注をされているのですか?

活動の拠点は大阪ですが、ネットの普及で全国各地から問い合わせがあります。ねぶた風オブジェを1カ月間依頼先で製作したこともありました。

―今まで製作されてこられた中で、この依頼は難しかった、面白かったなどのエピソードがあれば教えてください。

広島県の洋菓子屋さんから店内にメリーゴーラウンドのオブジェを展示したいという依頼があり、お城の屋根の周りをペガサスが翼を羽ばたかせて舞う「天空のメリーゴーラウンド」をプレゼンしました。面白そうと製作が決定。企画はイメージが大切なので技術的なことは後から考えるのが常。動きを伴うオブジェなので製作は大変でした。作っては改良し、を繰り返し搬送の前日までかかって仕上げました。それからまた改良はあったものの今ではお店の顔として活躍してくれています。


もうひとつは、警告看板でゴミの不法投棄を無くしたいというマンションのオーナーさんからの依頼です。普通に警告だけしても投棄は無くならないと思い別路線を提案することに。考えに考え抜いて「地面が平だから置かれる」という単純なことに気付きました。

名曲が生まれる前ミュージシャンが悩み抜いて極限に達したとき天から降りてきたとよく喩えていますが、これがそうかと感じました。その場所全体に傾斜を付けた看板を設置しました。題して『斜め看板!』それ以後不法投棄は完全に無くなりました。アイデアを生み出す醍醐味を味わえた仕事でした。

 ひょんなことから「ねぶた」のパレードカーの製作を皮切りに、現在では幅広くさまざまな種類の看板を製作し続けている吉本さん。今後の展望を聞いてみたところ「差し当たっては、たばこの墓場が言葉をしゃべるようにしたいですね。聞けば、気持ち悪いと感じながらも大笑いするような言葉を。これからも他の看板とはちょっと違った方向で人の心を刺激するいたずら感たっぷりの看板を作っていきます」とのこと。

 「たばこの墓場」のように、人間心理をくすぐる発想は、いつまでも子ども心を忘れずに「好きなデザインと向き合ってきたからこそ生まれたもの」なのかもしれませんね。

<取材協力>
カムソン・アート

(黒田芽以)