2018年1月1日付けの新体制発表にあわせて、豊田章男社長は「大変革の時代に立ち向かっていくという意志を込めた」とコメントした(撮影:尾形文繁)

「100年に一度の大変革の時代に入った。『勝つか負けるか』ではなく、まさに『生きるか死ぬか』という瀬戸際の戦いが始まっている」

トヨタ自動車は11月28日、豊田章男社長の危機感が表れたコメントとともに、異例ずくめとなる新役員体制を発表した。従来の役員人事は4月就任が慣例だったが、1月1日に前倒しするとともに、グループ会社や社外からも、「高度な専門性を有する多様な人材を配置した」と強調した。

豊田通商や三井住友銀行からも初起用


トヨタ幹部への起用が初となる豊田通商。常務役員に就く今井斗志光執行役員はアフリカ事業のキーマンだ。豊通はトヨタが進出していないアフリカの多くの国でトヨタ車を販売しており、将来有望な市場での展開で知見を得たい考えだ。

財務関連では三井住友銀行から常務役員を初起用。同行幹部は「トヨタから強い要請があった。たいへんありがたい」と話す。その福留朗裕常務執行役員は海外経験が長く、為替や金利動向の知識も豊富だ。かつて銀行と距離を置いていたトヨタだが、方向転換する。

グループとの連携強化では、アイシン精機傘下のブレーキ大手、アドヴィックスの小木曽聡社長が2年半ぶりにトヨタに戻る一方、アイシン精機にトップ2を送り込む。社長には先進技術開発トップの伊勢清貴専務役員が就き、副社長には水島寿之専務役員が2年半ぶりにアイシン精機に戻る。


トヨタが今年の東京モーターショーに出展した「コンセプト・アイ」は人工知能(AI)を搭載。電動化や自動運転の広がりで、自動車メーカーにはよりスピーディーな経営判断が求められている(撮影:鈴木紳平)

トヨタは電気自動車や自動運転の開発をグループで進めるが、競争が激しい中、「一段の再編が視野に入っている」(グループ会社首脳)との見方も出ている。

また、高岡工場副工場長の三瓶潔氏など生産現場の計3人を常務理事に起用するなど、現場を重視する豊田社長の信念が大きく出た。

内規違反でも副社長を登用

一方、副社長は4人から6人に増員する。中でも異例となるのがデンソー副会長で69歳の小林耕士氏の起用だ。トヨタで人事・経理畑を歩み、2003年にデンソーへ移っていた。

小林氏はトヨタの内規で定める副社長の年齢上限65歳を大きく上回る。ただ名古屋商工会議所副会頭を務めるなど、政官界とのパイプが太く、今年4月からはトヨタの相談役も兼務。豊田社長のかつての上司で「守り役」との評判だ。

同じく豊田社長が役員になる前からの付き合いがある友山茂樹専務役員も副社長に昇格する。コネクティッドカンパニーなど2カンパニーのトップに加え、事業開発本部など3本部の本部長も兼務するなど業務範囲は広く、社長との信頼関係の強さが表れている。


当記事は「週刊東洋経済」12月9日号 <12月4日発売>からの転載記事です

反面、米国から帰国し今年就任した永田理副社長はわずか半年で退任する。トヨタ関係者は「優秀で社長にもはっきり物申す人だった」と話すが、同じ財務担当ラインの大竹哲也専務役員などとともに一新される。

トヨタ有力OBは「“お友達人事”が増えている印象。社長周辺にイエスマンばかり増えないか心配だ」と話す。こうした批判には結果で応えるしかない。後継者育成も含めて、豊田社長の手腕が問われる。