北朝鮮を脱出し中国に滞在中だった脱北者10人が、中国の公安当局に逮捕されたと韓国メディアが報じている。10人は今後、北朝鮮に強制送還され、拷問をともなう取り調べなど深刻な人権侵害にさらされる可能性が高い。

韓国の民放SBSによると、脱北者は男性3人、女性7人で、2015年に脱北した夫の後を追って韓国行きを目指していた女性と4歳の息子も含まれている。2人は咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)出身で、17日に国境を流れる豆満江を渡り中国にたどり着いた。

夫婦は携帯電話でやり取りしていたが、4日に「連れて行かれる」との通話を最後に妻からの連絡が途絶えたため、夫が瀋陽の韓国領事館に通報した。10人と案内人は、瀋陽のバスターミナルのそばのアジトで公安当局に逮捕され、派出所に勾留されている。

夫はSBSとのインタビューで「北朝鮮に強制送還されれば殺される、中国で毒を飲んで自殺するほうが人間らしい最期を迎えられるほどだ。韓国に無事来られるように助けてほしい」と韓国政府に救援を求めている。

これに対して韓国外務省は「いかなる場合でも脱北者が北朝鮮に強制送還されないように努力している」としつつ「動向を把握し、人道主義的な観点から脱北者の希望する場所に行けるように要請している」と明らかにした。

一方で、中国外務省は「週末に発生した事案で、正式に報告を受けていない、事実関係を確認中」と述べるに留まった。

中国は、10月の共産党大会を前に脱北者の取り締まりを強化し、中朝国境地帯のみならず、主な脱北ルートとなっている南西部の雲南省でも多数の脱北者を逮捕している。

北朝鮮の元党幹部の脱北者一家は、雲南省で公安当局に逮捕され、北朝鮮に強制送還されることになったが、護送中に服毒し、全員が死亡する悲劇的な事件が起きている。

(参考記事:金正恩氏に追い詰められ死を選んだ、ある一家の悲劇

高高度迎撃システム(THAAD〈サード〉)の配備を巡り悪化していた中韓関係が改善の兆しを見せ始めた中で発生した今回の事件。中韓両国の対応が注目される。

脱北者を強制送還する中国の姿勢については、北朝鮮の人権侵害を助長しているとして、米国も問題視し始めている。