韓国に住んでいた30代の脱北者夫婦が、巨額の現金を持って北朝鮮に戻ったと韓国のテレビ朝鮮が報じた。

脱北後に中国、タイを経て2014年に韓国にやって来た30代のソンさん夫婦。二人は16日夜、中国の吉林省長白朝鮮族自治県から、国境を流れる鴨緑江を渡り、対岸にある北朝鮮の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)に向かった。夫の故郷だ。

二人は韓国で仕事を見つけられず、故郷に残してきた4歳の息子のことを常に気にかけていた。

韓国政府筋によると、2人は仕事をして子どもも連れてくるつもりだったが、生活苦にあえいだ末に、北朝鮮の工作員の懐柔工作に騙されたようだと語った。二人は北朝鮮の国家保衛省(秘密警察)関係者と連絡を取り合っていたという。

一方で、2人は銀行や知人から1億2000万ウォン(約1213万円)の現金を借り、北朝鮮に持ち帰っている。また、様々な画像、文書が入った携帯電話も持ち帰ったことから、テレビ朝鮮は、2人が国家保衛省の指示に基づき、緻密な計画を立てた上で北朝鮮に戻った可能性が高いと報じている。

この報道について韓国統一省のペク・テヒョン報道官は、二人が10月中旬に中国に出国して以降に連絡が途絶えたため、関係当局が調査を行っていると述べた。

北朝鮮の金正恩党委員長は昨年、「反共和国(北朝鮮)謀略勢力を、手段と方法を問わずに捕らえよ」との指示を出した。これを受けて、国家保衛省、偵察総局、人民保安省(警察庁)などは、脱北者家族の懐柔から拉致などの強硬手段までを動員し、脱北者の連れ戻しに躍起になっている。

韓国で活躍していた脱北タレント、イム・ジヒョンさんが北朝鮮に戻り、プロパガンダメディアに登場し、韓国社会に衝撃が走った。

最近では60歳のチュ・オクスンさんが、北朝鮮のプロパガンダメディア、わが民族同士に登場した。チュさんは「人間ならば住みたくなくなるのが南朝鮮(韓国)」だと思い、今年7月に帰国したと述べた。また、脱北タレントが出演するバラエティ番組に自分の姪がチュ・チャニャンという名前で出演しているとも述べた。

(関連ら記事:北朝鮮「拉致組」が潜む「魔のホテル」で行われていること