「海外で普及しない」が定説の飲料自販機を中国で広めた日本企業

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企業の中国進出の難しさを物語る「チャイナリスク」という言葉がある。

取引先の倒産や契約不履行、日本人スタッフと現地採用スタッフの気質の違い、そして反日感情の高まりによる暴動など、これまでにも幾多の日本企業が、あらゆる意味で不安定な中国という国の実情を前に、撤退を余儀なくされてきた。

だが、それでも中国は日本よりはるかに巨大で、成長を続ける魅力的な市場であり、そこで荒波にもまれながらも「勝っている」日本企業もある。

■飲料自販機ビジネスを可能にした中国の飲料事情

『本当は中国で勝っている日本企業 なぜこの会社は成功できたのか?』(谷崎光著、集英社刊)によると、飲料などの自動販売機を製造する富士電機が「自販機は中国で売れるんじゃないか」と、現地の企業と合弁で大連に自販機の工場を作ったのは2004年のこと。

身の回りにある飲料自販機を思い出していただきたいが、日本では「コカ・コーラ」「アサヒ」「伊藤園」など飲料メーカーが、自社製品を売ったり、認知を高めるために全国各地に自販機を置いているケースがほとんど。この勢力図がそのまま業界シェアになっていると言っていい。

だが、中国の飲料業界はそうではない。無数の地元企業が乱立し、大手に集約されていないため、日本でもお馴染みの「青島ビール」でさえ、どこででも手に入るわけではないという。他所の街に行くと、自分の街では見たことのない無数の「ご当地商品」が売っている、というのが中国の飲料業界なのだ。

■おつりが出ない、商品も出ない中国の自販機

自販機に話を戻そう。

もともと中国にも飲料自販機はあるが、著者の谷崎さんによると、「どうせ商品、出ないんじゃないの?おつり、出ないんじゃないの?」と疑いながら、それでもチャレンジ精神でお金を入れると、やっぱり商品が出なかったり、おつりが、なかったり、という代物。メーカー側も、販路として自販機を重視していなかった。

こうした業界事情や自販機事情から、2014年、中国のミネラルウォーター大手・農夫山泉が富士電機の自販機を導入すると、翌年の同社の売上は激増した。たしかに、中国に自販機の需要はあったのである。

しかし、2016年に入ると事態は急転する。自販機に飲料を補充するルートマンが、商品在庫どころか自販機ごと持ち逃げする事態が多発、農夫山泉は自分たちの自販機がどこにあるかわからなくなってしまった。農夫山泉側に自販機の管理ノウハウがなかったために、富士電機への自販機のオーダーが止まってしまったのだ。

■簡単そうで難しい海外での自販機ビジネス

本書によると、自動販売機で飲料を売るビジネスは、きわめて「日本的」なのだという。

自販機が持ち逃げされず、中の商品やお金が盗まれず、そして商品の補充員が在庫管理をごまかさずに正確に行うのが大前提だが、これは日本でこその「当たり前」であって、海外ではそうもいかないのだ。

また、一台の中に温かい商品と冷たい商品を同時に保存するのも、湿気でさびて、底が抜けないようにするのも高い技術を要することもあり、海外企業が真似をしようと思っても簡単にはいかないのが実状となっている。

こうした技術的ハードルの高さもあり、富士電機のもとには自販機の共同開発のオファーが別の飲料会社からきていた。中国飲料大手・友宝と共同で製作したスマホ決済や交通カードにも対応している最新鋭の自販機が、スマホ決済の流行もあって広く普及しはじめたおかげで、富士電機は、先述のオーダーストップによる売上減を乗り切れそうだという。



『本当は中国で勝っている日本企業 なぜこの会社は成功できたのか?』には、この他にも中国に進出し、着実に地歩を固めている日本企業が多く登場し、その足取りや取り組みが明らかにされる。

前年比で5倍になった売上が、翌年は10分の1になることも珍しくない中国は、日本のビジネスパーソンからすればリスキーではあるが、ビジネスの醍醐味を味わえる市場でもある。

著者の谷崎氏が「優位性を強く持てるのはあと10年」と語るように、日本が技術力やノウハウの面で、成長著しい中国に先行できる時間はもう長くない。その意味では、日本企業の中国進出は「今が最後のチャンス」といったところだが、先達たちの失敗談や成功体験が詰まった本書は、現地でビジネスを成功させる格好の教材になってくれるはずだ。

(新刊JP編集部)

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