ついに北朝鮮が核実験を行い、大陸間弾道ミサイルの発射実験という情報も流れている。一部では開戦前夜のような雰囲気すらある。

 筆者は4月より一貫して「米国の北朝鮮攻撃はない」と主張してきたが、やはり年内の攻撃は「現時点」ではまずないと見る。それは各種の動きを見れば明らかだ。

1)超党派で北朝鮮の「核武装容認論」が高まっている


金正恩 ©共同通信社

 そもそも米国では北朝鮮の核武装容認論が、民主党、共和党主流派・保守派という米国政治の主役たちの内部で高まっている。

 例えば、共和党主流派であり、ブッシュ・オバマ両政権の国防長官を務め、トランプ大統領とも関係の深いロバート・ゲーツ氏はウォールストリートジャーナル(7月10日)のインタビューに対し、「北朝鮮の核武装と体制を容認すべきだ」と驚くべき発言を行っている。

 その趣旨は、「北朝鮮への先制攻撃は論外であり、新たな選択肢を取るべきだ。キューバ危機の解決に倣い、米国は北朝鮮の体制を容認し、体制転換を放棄し、平和条約に調印し、在韓米軍を削減する。その代わりに、北朝鮮は核・ミサイル開発計画を凍結させ、核戦力は短距離弾道ミサイルや12〜24発程度の核弾頭の保有に限定させる」というものであるという。そして、この提案を北朝鮮が拒否した場合は、日米韓はミサイル防衛網で包囲し、北朝鮮が大陸間弾道ミサイルを発射すれば迎撃すると宣言すべきだとした。

 彼の発言で注目すべきは、ついに共和党の重鎮からも北朝鮮の核武装を容認すべきという見解が出たことである。しかも、それは北朝鮮が大陸間弾道ミサイルの保持さえしなければよいというもので、日本と韓国が核の威嚇下に置かれることは容認するものなのだ。しかも、この提案が拒否されても武力行使を否定していることはよくよく留意すべきだ。

 また、オバマ政権の国家安全保障担当大統領補佐官を務め、リベラルホーク(積極的人道的介入論者)として知られるスーザン・ライス氏も、8月10日のニューヨークタイムズにて、「先制攻撃は米国民を含む数十万人の死者と世界経済への大打撃を生み出す大惨事につながりかねない。金正恩は悪質だが合理的であり、抑止力を理解している。これは同盟国への核使用や核兵器の流出が北朝鮮の崩壊を招くということを理解しているということだ」と北朝鮮の核武装容認論を訴えた。

 そして、トランプ政権の中核的支持層とされる共和党保守派でも攻撃論は盛り上がっておらず、最大限の対応として海上封鎖論が上がっている程度だ。トランプ政権の政権移行チームや閣僚・スタッフに多くの人員を送り込み、今年の予算教書の下書きを書いたヘリテージ財団が運営するメディア「デイリー・シグナル」は、ホワイトハウス特派員による興味深い記事を載せた。

 それによれば、ネオコンで知られるボルトン元国務次官の側近である、大量破壊兵器問題の専門家フレッド・フリッツ氏は、「先制攻撃以外にも軍事的選択肢がある。北朝鮮のミサイル実験に対してミサイル防衛システムで撃墜する。第二は、海上封鎖である」と語ったという。

 実は、この海上封鎖案こそ、トランプ政権が「最後の手段」として検討している可能性が高いのである。というのも、本年4月22日の産経新聞も、米政府から日本政府にこれに合わせた要望があったと推測可能な記事を掲載しているからである。

 このように、民主党、共和党主流派・保守派を見渡しても、北朝鮮への攻撃どころか、日本を見捨てた米朝和平を唱えるばかりで、もしくはせいぜいが海上封鎖どまりなのである。

2)空母の展開が攻撃時のものではない

 空母の動きからも北朝鮮への攻撃がないことは明白だ。かつてビル・クリントン大統領が「危機が起きた時に、ワシントンで誰もが最初に口にするのは、『最も近い空母は今どこにいる?』だ」と述べたことがある。空母打撃群こそが米国の武力行使の先駆けであり、その動きに注目すべきである。

 ここで理解しておかねばならないのは、限定攻撃であっても、米軍は最低でも3隻の空母を用意している点だ。実際、リビア空爆(1986年)は空母3隻、湾岸戦争は空母6隻、ユーゴ空爆は空母1隻+同盟国軽空母2隻、アフガン攻撃は空母4隻程度、イラク戦争は空母6隻で攻撃を実行している。また、ブッシュ政権末期にイラン攻撃がささやかれた際は空母3隻がペルシャ湾に集結したが、攻撃には至っていない。

 しかも、北朝鮮の防空網はイラクやリビア以上であり、相当強力だと米国の専門家からも評価を受けている。彼らの航空戦力はなきに等しいが、イラン製の新型フェイズドアレイレーダーを装備している他、ロシア製S-300のコピーとされるKN-06対空ミサイルを複数装備している。また、低空攻撃であれば、携帯式対空ミサイルや対空砲が数千門を超える数を展開している。これを叩くには最低3〜4隻の空母は必要とみるべきだろう。実際、古い事例だが1969年にニクソン大統領が北朝鮮への懲罰的攻撃を検討した際は、空母4隻が投入される予定だった。


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 さて、ここで最新の9月4日の状況を見てみよう。現状で西太平洋に展開する空母機動部隊は、ロナルド・レーガンただ1隻。これではいかにも戦力不足だ。しかも、現在、展開中の空母の内、ジョージ・ブッシュはジブラルタルから地中海へと移動中。ニミッツは中東に展開中。セオドア・ルーズベルトは訓練を終了し、今後西太平洋に展開するとされるが、いまだ北米西海岸に遊弋中である。

 その他はどうか。カール・ビンソンは長期休養から復帰し、訓練を先月開始したばかりでまだまだ。エイブラハム・リンカーンも4年間もの長期整備を5月に終え、いまだに訓練中であり、まだ実戦には投入できない。ハリー・トルーマンは整備明けの訓練中で少なくとも10月まではかかる見通しである。ジョージ・ワシントン、ドワイト・アイゼンハワーは長期整備中でとても使えない。ジョン・C・ステニスは8月に改修工事を終了したが、半年は訓練が必要という状況である。

 となると、ニミッツもしくはブッシュは中東の抑えとして必要なので、直近で投入できるのはレーガン1隻だけである。1か月以内に投入できるのはブッシュもしくはニミッツ、ルーズベルトだが、これらの動きは現状ではない(ニミッツが東インド洋へと動いている兆候はあるが)。直近での北朝鮮への攻撃はまずないと考えるべきだ。

3)軍事の常識「3倍の法則」に注目

 また、北朝鮮攻撃時には、戦後の治安維持や大量破壊兵器の確保に備えて、陸軍の動員が欠かせない。だが、トランプ政権はシリアに派兵中であり、アフガニスタンには4000人もの増派を決定した。軍事には「3倍の法則」がある。つまり、派兵した戦力以外に2倍の兵力が実任務・休息・訓練のローテーションをこなす為に必要だということであり、4000人の増派は実質的に12000人の地上戦力が拘束されたことを意味する。既にアフガンやシリア・イラクに展開する戦力を含めれば、必要戦力はさらに膨らむだろう。

 そして、アフガン増派を主導し、トランプ政権の外交安保政策を取り仕切るマクマスター国家安全保障大統領補佐官は、シリアへの万単位の派兵を模索しているともいわれる。米国ではイスラム国(IS)が衰退した今こそ、シリアへの大規模派兵を行って主導権を握るべしとの論調が強い。そうなればますます北朝鮮どころではない。


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4)ハリケーンの被害でそれどころではない!

 そもそも、北朝鮮と日本と米軍しかこの地上にないと考えるから問題を見誤るのだ。米大統領は、全世界及び米国内を見た上で判断を下している。まずは米国内だが、猛烈なハリケーンがトランプ大統領と共和党の強力な地盤である南部を襲い、熱烈な支持者たる市民とスポンサーたる石油ガス産業に打撃を与えた。過去にもブッシュ政権がイラクにうつつを抜かしている間に、ハリケーンが直撃して甚大な被害をこうむった結果、イラク戦争でもめげなかった熱心な支持者が離反したことを思えば、トランプが切羽詰まった状況に置かれていることは容易に想像がつくだろう。

 世界レベルで見ても、米ロ対立は高まりつつあり、北朝鮮と違って石油を産出し、米国に近いベネズエラはいつ政権が崩壊してもおかしくない。トランプ政権の中枢は中東専門家ばかりで、中東情勢は相変わらず死屍累々である。こうした状況を鑑みれば北朝鮮どころではない。

5)そもそも金正恩政権こそがよくわかっている

 そもそも、金正恩政権が今になって、核実験に踏み切ったことにこそ、米国の北朝鮮攻撃がまずないことを明瞭に示唆している。彼らはアメリカ側の内情をよくわかっている。同時に、これは米国の北朝鮮への抑止力がかなり低下していることを示唆しており、日韓は注意していく必要がある。

 以上を踏まえて、我々が懸念すべきは、米国による北朝鮮への先制攻撃ではなく、日本を蚊帳の外に置いた米朝和解である。為すべきは、生まれたての小鹿のようにおびえるのではなく、短期的には米国の海上封鎖に――平和安全法制も含めた現行法では何もできない――どのように対応できるようにするのか、そして長期的には安全保障環境を踏まえて、どのように効率的に予算を含めた資源を投入していくのか議論すべきである。一昨年は尖閣諸島、去年は南シナ海、今年は北朝鮮のミサイルと、思い付きのように対応するべきではない。

 今こそ、噂話やトランプ大統領の一部の発言をつまみ食いすることもなく、また希望的観測にすがることもない、確たる根拠に基づいた情勢分析の議論が必要だ。

(部谷 直亮)