普段、仕事にプライベートにと大活躍のジャケットやシャツですが、男性用は自分から見て右側にボタン、左側にボタンを通す穴「ボタンホール」があり、女性用は逆に、左側にボタン、右側にボタンホールがあります。このように、ボタンとボタンホールの位置が男女で異なるのはなぜでしょうか。

 オトナンサー編集部では、モード学園(東京・大阪・名古屋)でファッション史を教える塙恵子さんに聞きました。

欧州の上流階級に起源があるという説

 塙さんによると、古代は男女共に「一枚の布」を体に巻いたり、穴を開けてかぶったりすることで「衣服」としていたため、デザインに大きな差は見られませんでした。しかし、11〜12世紀ごろから欧州の上流階級の世界で、男女の衣服に明確な違いが現れ始めます。その後、13世紀ごろにボタンが誕生したといわれています。

「当初はボタンホールがなく、装飾品として洋服のあらゆる場所に取り付けられており、多いものではフロントボタンだけで30個以上の服もあったようです。その後、装飾としてだけでなく、着装しやすさを求めた結果、ボタンホールが生まれたのではないかと考えられています。ボタンホールの細工は14世紀欧州の宮廷服が起源であるといわれています」(塙さん)

 しかし、ボタンとボタンホールが男女逆であることについては諸説あるそうです。

【欧州の上流階級説】

 14世紀ごろの欧州において、縫製に手間のかかるボタン付きの服は、上流階級の人々しか身につけられない非常に高価なものでした。当時の裕福な女性たちは自分で服を着ず、使用人に服を着せてもらうのが一般的な習慣。そこで、対面から留めやすいようにボタンが左側(男性の逆)に付けられていたという説があります。

「絵画などにも描かれているように、当時の上流階級の女性が着ていたのは華やかで複雑な洋服であり、自分で着用するのが難しかったのではないかと考えられています。ボタンが左側に付いているのは、その頃の名残であるという説です」

 なお、男性は自分で服を着ることが多かったこと、そして人口の大部分が右利きであるという想定から、着る側から見てボタンを右側に付ける形式が広がり、やがて一般化したとされています。

「軍服」「授乳」「乗馬」などの説も

 そのほか、男女それぞれについては以下のような説もあります。

【軍服由来説=男性】 

 男性用ファッションの要素は軍服に由来していることが多いとされます。懐に入れた武器を右手で取り出しやすいように作られていた軍服にならい、男性の衣服は右にボタンが付けられるようになったという説です。

【授乳用説=女性】 

 ほとんどの女性は授乳時、利き手の右手をフリーにして左手で赤ちゃんを抱っこします。その際、シャツのボタンを右側からスムーズに外して授乳できるように、左側にボタンが付けられているという説です。

【乗馬用説=女性】 

 昔の女性は乗馬する際、馬の左側に両足を垂らして横座りする「サイドサドル」という乗り方をする人が多かったとされます。サイドサドルで乗ると体の右側が前方を向くため、前から吹く風が服に入り込まないようにボタンを左側に付けたという説です。

「このようにボタンの由来には諸説ありますが、一般的には『欧州の上流階級説』が広く知られています。ただし、ファッションは流行や時代によって変化するもの。近年話題となっているノージェンダーなファッションの流れによっては将来、ボタンの位置における男女差もなくなっているかもしれません」

(オトナンサー編集部)