NPBでの始球式に参加したブルック・ロペス【写真:Getty Images】

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NBAのスター選手ロペスも“登板”…西武に聞く始球式の実情とは

 NBAファンとしては日本の球場にブルック・ロペス(ブルックリン・ネッツ)が現れるというのは驚きと共に嬉しさがあった。ロペスは日本のファンにはあまり馴染みがないかもしれないが、世界最高峰のバスケットボールリーグのNBAではすでに9年のキャリアを歩んでおり、オールスター選出も誇るビッグマンだ。数多くのスターがひしめくリーグで1シーズン20得点以上を4度もたたき出しているなど、安定した成績が計算できる選手の1人だ。

 米国では始球式にタレントを起用することもあるが、どちらかと言えばチームのOB、そしてチャリティー要素を含めた人選、さらにはスポンサー企業の人間が登板することも多くみられる。そして、他競技のアスリートが始球式を投げることも少なくない。私の記憶に残っているものでも地元出身のNBA選手が始球式に登場したり、ゴルファーが始球式ならず “始球スイング”をグラウンド上で放ったり、斬新なものもあった。NBAドラフト指名を受けた選手が同じ地元を共有する球団の試合で始球式に登場するなど、他競技選手にとっては“ホームへのお披露目”の場としても活用されている。

 さらには、粋な演出の場としても活用されることがある。アメリカ兵士が帰還した際に、子供へのサプライズとして捕手になりきり、防具を完全フル装備し、娘の始球式を受けたこともあった。そのシーンは多くの人を感動させ、話題となった。

 一方でプロ野球でも色々な始球式がみられるものの、どうしても目立つのはタレントや著名人などの起用だ。では、一般的に始球式の人選はどのようにして行われるのだろうか? 今回は埼玉西武ライオンズにその実情を伺ってみた。

 まずは始球式には投球のみのものとトークなど演出を含めた3〜4分ほどで行う「セレモニアルピッチ」が存在しており、ゲストの特性や目的に合わせて使い分けている。では、一体どのような選定基準があるのだろうか? 埼玉出身やゲスト本人がライオンズファンであるなど、ライオンズと紐づくストーリーを持っている人は選定対象として確度が高まる。

シリーズの象徴的なゲスト登場で盛り上げ&メディア露出の側面も

 さらには、当日のゲームやシリーズの象徴となる者を選定する場合も多い。例えば、先日開催された「やきゅウーマンシリーズ」では、野球女子を代表して茨城ゴールデンゴールズの監督兼選手である片岡安祐美さんがセレモニアルピッチを行った。象徴となるゲストが登場することで当日のゲームまたはシリーズを盛り上げてくれる。特にインフルエンサーとなる影響力のあるゲストが来ることで事前告知によるゲストファンの来場促進や事後でのメディア露出にもつながる。

 もちろん著名人でなくても、一般ファンから募集するなど身近なファンに特別な体験を提供することの重要さも理解しており、球団としては実施に務めている。特に野球人口減少がささやかれる中、少しでも子供たちに特別な体験をしてもらうことは今後も貴重な場となっていくだろう。

 では、埼玉出身でもなく、シリーズの象徴としては考えられにくい現役NBA選手がなぜメットライフドームのマウンドに上がることになったのだろうか?

 実はNBAシーズンを締めくくる最後の戦いであるファイナルのプロモーションで来日したロペスがプロモーション活動の一環として、希望していたことだったのだ。それが、あるエージェントを通して、埼玉西武ライオンズの協力会社を経由して話が来たのだった。

 本当に直前に決まったことで、球団内でも「なぜ、NBAのプロモーションをうちで?」という反応も多かったようだ。だが、球団の中にいたNBAファンのスタッフたちはロペスがやってくることの重大さに興奮を抑え切れなかったようだ。

 直接野球に興味がなくても、その人選によって新たなファンが生まれる可能性を持つ始球式という特別な儀式。あの特別な空間をどう彩るかによっても、球場そして試合全体に違った風を吹かせることができる。始球式という場から今後どんなストーリーが生まれるだろうか。球場に足を運ぶ際には、ぜひこの始球式からお楽しみいただきたい。

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

「パ・リーグ インサイト」新川諒●文