プレジデント 2017年6月12日号の特集「お金に困らない生き方 2017年版」の中に、「働き方の社風別 給与のいい会社ランキング」の記事が掲載されている。

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■「給与が高く、社員の自社評価も高い」企業の上位は?

就職先を決める上で「給与」は最も重視する項目のひとつだろう。

雑誌『プレジデント』(2017.6.12号)の特集「働き方の社風別 給与のいい会社ランキング」では、上場企業の「年収」をただ多い順に並べるのではなく、「ワークライフバランス」や「社員の自社クチコミ評価」などの観点にからめて格付けしている。

ランキングの詳細は本誌を読んでほしい。ここで興味深かったことは、「給与が高く、社員のクチコミ評価も高い」企業が、労働時間などワークライフバランスの観点では必ずしも“優等生”とはいえないことだ。

上位には、三菱商事、伊藤忠商事、三井物産、住友商事、丸紅といった40歳以上の推定年収が1000万超の総合商社が名を連ねている(ランキングは本記事の最後に記載)。このうち三菱商事の月平均残業時間は47時間、有休消化率は49%でしかないのに社員のクチコミ評価は3.76点(5点満点)と高い(Vorkers調査)。

 

▼なぜ、あの電通の社内クチコミ評価が高いのか?

もっと驚いたのは広告業界最大手の電通だ。

記事では、クチコミ評価が3.5点以上の企業を対象に「40歳推定年収ランキング」を掲載している。電通は、このうち40歳推定年収が1235万円で、第5位にランキングしている。 今回の調査は、同社の新入社員の過労死事件がマスコミで盛んに報道された後のものだった。それにもかかわらず、電通社員によるクチコミ評価は3.51点となっている。

3.5点という基準は、私見ではかなり高い水準だと感じた。たとえば記事のなかには「高給与なホワイト企業ベスト20」というランキングもある。ここで1位の三菱地所のクチコミ評価は3.52点、2位の生化学工業は3.07点、3位の日本たばこ産業は3.36点となっている。

■残業はしたくないが、高給与なら話は別

就職先選びで、長時間労働かどうかなど労働時間や休日を指標にする学生は最近増えている。

日本生産性本部は、今年春に入社した新入社員に「残業は多いが、仕事を通じて自分のキャリア、専門能力が高められる職場」と「残業が少なく、平日でも自分の時間が持て、趣味などに使える職場」のどちらがよいか、アンケート調査を行っている。この結果、74.0%が後者の「残業が少なく――」という後者を選んだという。

にもかかわらず、給与は高いが労働時間も長い企業の評価が高くなったのはなぜなのか。「それは年収の高さにある」と指摘するのは電通と同業他社の人事課長だ。

「給与が低くて長時間労働だと不満も出るが、30代で年収1000万円をもらえるとタワーマンションにも住める。どんなに忙しくても仕事が面白ければみな納得するし、長時間労働でも不満を口にする人は少ない」

▼破格の給与で、目をつぶる社員つぶらない社員

記事では、クチコミ評価がいい企業だけでなく、クチコミ評価が悪い(5点中2.7点以下)の企業の40歳推定年収ランキングも掲載している。これをみると1000万円を超えているのは1位のファナック(1537万円)だけで、2位以下は1000万円に届いていない。やはり、クチコミ評価の良し悪しは、給与の多さ次第ということだろうか。

労働の究極の目的がお金である以上、破格の給与をもらうと、それ以外の要件には目をつぶるのもわかるような気がする。

しかし、それでも最近は常軌を逸した長時間労働に我慢できない若い人たちが出てきているようだ。

「いくら高い給与を払っても、仕事のストレスを感じている若い世代の中には違法労働はよくないと考え、労働基準監督署に告発する人がいる。昔は高給をもらっている人が告発するということは考えられなかったが、最近は仕事に対する価値観も変わっている。電通もそうした企業の典型だろう」(前出の人事課長)

■95%は高給与もらえぬ。で、企業選びの基準は?

40歳年収が1000万円超となる大企業に入社できる学生は、全体の5%もいないだろう。

新卒で入社が難しい企業に、転職するのはもっと難しい。ほとんどの学生は高給とはいえない企業を選択せざるをえないが、ここで初めて何を重視して企業を選ぶかが問われることになる。

企業を選ぶ指標は、給与だけでなく、労働時間や勤務地を含めた職場(労働)環境、キャリア(スキル)アップの可能性、社風の4つだろう。

▼単に「残業がない」企業は、実は危ない

単に残業がない、労働時間が短いという職場環境を理由だけで選ぶのは危険だ。たとえば銀行の天下り先となっている化学会社の元人事担当者はこのように語る。

「若いうちは定時に帰れるし、給与も世間並みに出るが、課長、部長ポストはほとんど銀行出身者で占められる。仕事の裁量も少なく、30歳を過ぎると上のポストに就かないと給与も上がらない。結果的に『これ以上、自分の能力を発揮できない』という理由で退職する人が多かった」

こういう会社に限ってキャリアやスキル獲得が難しく、転職するにしても苦労することになる。

■社風が自分に合うかは給与と同じくらい重要

社風も重要だ。社風には、上に逆らえないトップダウン体質、年功序列主義、体育会的体質などさまざまある。転職コンサルタントは次のように指摘する。

「不動産業には体育会体質の会社が多い。ある会社は毎朝、始業時間前に大きな声で社歌を歌わせているが、求職者にこの会社を紹介すると『そういう会社はちょっと』と敬遠する人も少なくない。社風・風土が自分に合わないと言って辞める人もいるし、会社選びでは重要なポイント」

つまり、社風・風土が合うかも含めて、給与、職場環境、キャリアアップの可能性の4つのバランスを考えて、自分のベストプラクティスな会社を選ぶことである。

▼30〜40歳のときに自分はどんな存在になりたいか

30歳、35歳、40歳のときに自分はどういう存在でありたいかを考えて4つの何と何を重視するかを選ぶのだ。

たとえば将来、転職も含めてスキル獲得を目指すのであれば、仕事はハードで残業を伴うが、好きな仕事をやらせてくれる会社を選んで経験を重ねることも必要になるだろう。

あるいは会社ではなく、マーケッターという職種のプロを目指すのであれば転職を前提に会社を選ぶ必要があるかもしれない。入社直後にマーケティング部門に配属する会社は珍しく、最初は営業部隊に配属される。マーケットに近いハードな営業で知られる会社で経験を重ね、自社のマーケティング部門に異動できない場合は、給与は安いが小さい会社のマーケティング部門に転職し、一から修業を積んでキャリアアップを図るという人が多い。

いや、自分はそうではなく1つの会社で職業人生を全うしたいという人もいる。その場合は給与に着目したい。

企業の中の賃金制度は大きく2つに分かれる。

1つは新興のIT、小売り、不動産業のように新卒入社後の賃金は比較的高いが30歳を過ぎると、選別されて一部のエリートの賃金は上がっていくが、大多数の社員は賃金カーブがフラットになり、それほど上がらなくなる制度を持つ会社。こういう会社は総じて離職率も高い。

■最後に得する「給与制度」とはどんなものか?

もう1つは製造業など古くからの老舗企業に多く、給与水準は見劣りするが、定昇などによって時間軸で見ると段階的に上がっていく年功的賃金制度を持つ企業だ。

平均勤続年数も長く、40〜50代のオジサンが自らの経験を語れるキャリアを持ち、それが競争力の源泉になっている企業だ。若いうちは給与水準が低くても社員の平均生涯賃金は新興企業よりも高い。こうした企業は隠れた給与である福利厚生も充実している。

▼市場価値のあるスキルがあれば転職に有利

一生を1つの会社で過ごしたいという人にとっては後者のタイプの会社がお勧めだが、世の中の状況でいつまでも会社が安泰とは限らない。

そのためには市場価値のあるキャリア・スキルを持っていることが必要だが、そのためにはプラスして転職に有利な業種・職種であるのかどうか、さらにキャリアアップの教育投資に熱心な会社かどうかも吟味する必要があるだろう。

いずれにしても自分の年齢や仕事に対する価値観をしっかり見据えたうえで就職先を選びたいものだ。

《「クチコミ評価」も「給与」も高い会社ベスト10》

*<データ出所・算出方法>社員の平均年収、従業員数は2016年3月決算時点の有価証券報告書データを使用(東京商工リサーチ提供)。クチコミ評価、月平均残業時間、有休消化率は、就職・転職のための企業リサーチサイトVorkers(www.vorkers.com)の2017年4月時点のデータを使用。上場企業のうち、データが利用可能な1763社についてデータを分析した(ランキングは、クチコミ件数10件以上の会社のみ掲載)。40歳推定年収は、平均年収と平均年齢の関係を回帰分析した結果から推定。

(ジャーナリスト 溝上 憲文)