初戦の南アフリカ戦でスタメンが予想される小島。大会直前の親善試合ではブランクを感じさせないプレーを見せた。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 一度は危ぶまれた世界だった。
 
 U-20日本代表で唯一の大学生であるGK小島亨介は、大会直前の4月に左足首をねん挫した。所属する早稲田大は関東大学リーグ2部を戦っているが、そのリーグ開幕戦の3日前の出来事であった。
 
「もともと右足も痛みがあったのですが、重要な時期に左足も新たにやってしまった」
 
 右足をかばうあまりに、逆足を負傷してしまった結果となり、U-20ワールドカップ出場も危ぶまれた。しかし、「焦らず、しっかりと治せば間に合うと思ったし、キャッチングなどやるべきことをやった」と、上半身を中心に鍛えながら、キャッチングなどのボールへの感覚は鈍らないように黙々とトレーニングを続けた。
 
 復帰の目途も立ち、無事に本大会登録メンバーに名を連ねた。だが、小島にホッとしている時間はなかった。次はライバルとのポジション争いが待っている。今回選ばれた3人のGKの中で唯一、一昨年のU-19アジア選手権予選(アジア1次予選)、U-19アジア選手権(アジア最終予選)を経験し、内山ジャパンの守護神として君臨し続けて来たからこそ、待ちに待った世界の檜舞台でその座を明け渡すわけにはいかなかった。
 
 静岡での直前合宿では、別メニュースタートとなったが、徐々に全体練習に参加し、12日のジュビロ磐田とのトレーニングマッチには出場しなかったが、15日のU-20ホンジュラス代表との親善試合では、1本目のスタメンを飾った。
 
「ここまで試合を重ねることができなかったのは、間違いなく問題だと思うのですが、どれだけ自信を持って臨めるかが一番重要だと思うので、今の自分の力をすべて出し切ろうと思った」
 
 このスタメンの意味を小島は理解していた。内山監督が復帰したばかりの彼を、重要な直前試合でスタメンに起用したのは、当然絶大なる信頼の表われでもあるが、一方で「ちゃんとプレーできるのか」「試合勘は鈍っていないか」という点でのテストも兼ねていた。
 
 もちろん、そうした不安が的中してしまったら、それは即ちスタメン落ちを意味する。ただし小島はそれを自身へのプレッシャーにせず、今やれることを精一杯、自信を持ってやると、心に決めてピッチに立ったのであった。
 結果は45分間プレーし、2失点を喫してしまったが、この2点はいずれもカウンターから完全にラインを破られての1対1のシーンで、止めるのは至難の業だった。だが、その2失点以外はブランクを感じさせない落ち着いたプレーを見せた。
 
「試合勘自体は今日プレーしてみて、悪くないと感じました。2失点しましたが、自分としては良いイメージを持ってU-20ワールドカップに臨めると思います」
 
 試合後、小島は確かな手応えを得たことを口にした。そして、改めて2失点のシーンに言及すると、冷静に分析を続けた。
 
「2本とも相手に前に出られてしまった。そこは自分のコーチングのところで防ぐ必要があった。相手はどんどん前にパワーを持って出てくるので、切り替えのところは常にやっていかないといけないと感じました。1点目のシーンも僕がもっと我慢して、しっかりと面を作って対応していたら……。相手がちょっとトラップミスをして、ボールが前に流れた分、僕が飛び込みたくなる気持ちが出てしまった。でも、間合いの詰め方も間違いなく今日の試合で掴めたので、あとは止めるだけです」
 
 この言葉で小島は本大会に間に合うという確信が持てた。失点はしたが、その失点の原因、自分の対応を振り返り反省できているのは、それだけ冷静にプレーできている証拠。本番に向けて、しっかり照準を合わせて来たことを窺わせた。
 
「世界で勝つためには、ピンチの数を減らさないといけないと思います。あとは、やっぱり最終予選と違って、U-20ワールドカップに出る国はどこも攻撃力が高いので、1対1になる場面は、間違いなく最終予選より多くなる。そこは自分の力で守って、ピンチをチャンスに変えられるくらいの力を出せたらなと思います」
 
 守護神に焦りはない。5月21日の南アフリカとの開幕戦、もし小島がゴールマウスの前に立つことになっても、不安に思うことはないだろう。
 
取材・文:安藤隆人(サッカージャーナリスト)