『クズの本懐』大ヒットは予想外だった!? 漫画家・横槍メンゴインタビュー
校内の誰もが憧れる理想の高校生カップル。しかし、ふたりには誰にも言えない“秘密”があった――。あまりにも純粋で歪んだ恋愛ストーリーが話題を呼び、累計140万部を突破した『クズの本懐』が、2017年1月よりアニメ化される。同作を描く新鋭の漫画家・横槍メンゴは、どのように漫画家を志し、この作風を身に着けたのか? 驚きの創作スタイルから、『クズの本懐』制作秘話までたっぷりと語ってくれた。

撮影・取材・文/照沼健太
(C)mengo yokoyari/SQUARE ENIX

始まりは『ぷよぷよ』 早熟なオタクへの道のり



――「小さい頃から漫画家になりたくて、高校を中退して漫画家のアシスタントになった」とお伺いしました。具体的にはいつ頃からですか?

明確に漫画家になろうと思ったのは、小学3年のときですね。それまでもずっと絵が得意で、クラスではお絵かきポジションだったんです。私の時代は、「絵で仕事したいなあ」って思う子どもって、まずゲームかアニメか漫画で進路を迷う感じだったんです。私が漫画に決めたのは、冨樫義博先生の漫画を読んでからです。

――冨樫先生の作品というと?

『HUNTER×HUNTER』、『幽☆遊☆白書』、『レベルE』……全部です。「こんなにスゴい作品があるなら漫画の道に進みたい!」と思いました。それと、同人活動をしていたときに知り合った人たちがみんな口を揃えて「アニメとか集団制作の場には行かないほうがいいよ」と言ってきたのも大きいですね(笑)。

――どういうポイントでそう言われたんですか?

どうもマイペースらしく、集団行動が向いていないようで……去年くらいにようやく自覚したんですけどね(笑)。ひとりで完結できるのが漫画の魅力だと思います。

――そもそも漫画を好きになったキッカケは?

それが、キッカケがないくらいナチュラルボーンオタクなんですよ。

――ご両親や家族の影響とかは?

両親は漫画を読むほうではあったけど、コミケも知らなかったし、弟は…たぶん私と同時にオタクになっていった感じですかね。どうしてだろう?(笑)……(しばし考えて)あ、『ぷよぷよ』かな?

――『ぷよぷよ』ですか?

幼稚園のときに、デパートの屋上のゲームコーナーで『ぷよぷよ』するのが好きだったんですよね。『ぷよぷよ』って登場するキャラが漫画っぽいんですけど、それが異常に好きで。小学生のときにお小遣いを貯めて、コンパイルクラブっていう、その会社が発行していた有料会報誌を購読するようになって。そしたら、そこがもう魔の入り口みたいな感じで……(笑)。

――魔の入り口(笑)。

文通コーナーみたいなところには、「会員制サークルやってます。お便りください」とか「合同誌メンバー募集」とか謎の単語がいっぱい並んでて、そこから同人の道に入りましたね。小5くらいでした。うん、全部コンパイルのせいかもしれない(笑)。

――あれは濃いコミュニティでしたよね(笑)。

コンパイルでオタクになった人、けっこういると思いますよ(笑)。

――そうしてオタク道を進んでいくことに対して、家族や友だちの反応は?

たぶん、みんな引いていたと思います。今ならわかります(笑)。でも、当時は周りが一切見えていなかったんですよね。中学を卒業するまでは「服を買うんだったら漫画を買いたい!」みたいな感じで、ずっとアシックスのジャージを着てましたから(笑)。

――当時は今ほどオタク趣味がオープンではない時代だったと思うんですが……

隠してましたね。隠さなきゃいけない気配があったので、なんとなく隠してたけど、バレてたんじゃないかなぁ(笑)。私は完全に“高校デビュー”なので、隠したのは高校からですけどね。

――隠そうと思ったキッカケがあったんですか?

ちゃんと“擬態”しなきゃいけないと思ったのは、中3くらいです。錦糸町のアニメイトでラミカ(ラミネート加工したカード)を買い漁っているときに、いきなりハッと気づいて(笑)。なんかもっと、普通のこともちゃんとしないと、と。それからは徐々に“普通のコ”たちと同じように思春期を過ごすようになりました。視野が広がっていく過程で見えていなかったことに気づいたし、そこは意図的に見ていかないと、冨樫先生のような深みのある漫画は描けないだろうと考えるようにもなりましたね。



漫画家まで一直線! 高校を中退し、アシスタントへ



――“擬態”しつつも、漫画はずっと描き続けていたんですね。

はい。通っていた高校が美術の学校で、油絵をやっていたんですけど、油絵ってお金がかかるんですよね。絵の具に筆にキャンバスに…。で、同人誌を作るのにもお金がかかるわけです。「果たして、本当にやりたいのはどっちなんだろう?」と思ったときに、私は美術で一生やっていくつもりはないなと気付いて、漫画一本にしようと決めました。

――高校を中退することに迷いはありませんでしたか?

ありませんでした。アシスタントを募集していて、家から通えるところをすぐに探して、『週刊ヤングマガジン』で『空手小公子 小日向海流』を連載していた馬場康誌先生のもとへ行きました。もちろん家から近いのだけが理由じゃなくて、いちばん作画が難しいところに行こうと思っていたんですけどね。

――身につくであろうスキルも考えていたんですね。

私の描きたい漫画は、背景が写真のような写実的な漫画でもなかったんですけど、今後、少女漫画を描くにしても少年漫画を描くにしても、最初に難しいところをやっておかないとダメだという思いがあったんです。アートの分野でも「具象画が描けないから抽象画をやる」みたいな考え方が嫌いで。最初に上手な絵が描けたうえで、デフォルメをしないといけないんじゃないかと。

――ピカソですね。

そう、ピカソはまさにそれで。ピカソが14歳のときに描いた絵が、本当に写真みたいでヘコみましたね。まぁピカソをライバル視するなんて、おこがましいなと思うんですけど(笑)。

――馬場先生のところではどんな技術を学びましたか?

商業誌における見栄えの大切さやクオリティ、心構えなど、一通り馬場先生のところで教えてもらいました。それまでずっと我流で同人誌を作っていたので、最初に面接のときに「君は合格だけど、独自の世界で描けているし、うちに入るとこの作風はある意味死ぬから、それでもいいか考えてね」って言われたんですよ。それは私もよくわかりました。当時はもっと尖ってたから、独自路線で行きたいと思っていたし。

――でも、それでいいと思ったんですね。

『ガロ』とか『アックス』系の尖った漫画が好きなんですけど、私はもっとメジャー路線や、ある意味媚びたものも描けるタイプだから、そういう人がわざと尖ったものを描くのも失礼じゃないかなと。メジャー路線に行こうと決めて、雑誌で他の作品と並んだときに見栄えさせる技だったり画面構成だったりを磨かせてもらいました。

――横槍さんの漫画が支持される理由のひとつとして、美しい絵柄と生々しいエロ描写とがハマっているところが挙げられると思うんですが、それは意図的なものだったんですか?

同人でもともと描いていたこともあって、エロは抵抗なく自然とやっていました。同人誌って必ずサービスシーンみたいな感じでエロが入っているから、描かなきゃいけないと思ってましたし。でも、エロって画力がすごく必要で難しいから、最初はいやいや描いてましたね。

――自信もなかった?

なかったです。「描きたくないけど、コレを入れないと読んでもらえないし…」みたいな気持ちで描いてたからパッションもないし、「正直、私のエロはダメだろう」と思ってたんですけど、高1のときにそのジャンルで知り合った人からめちゃくちゃ褒められたんです。そのうちに「もしかしてエロの才能が?」とは思うようになりましたね。

――エロ描写の技術を伸ばすために、意識したことはありますか?

エロで活躍している最先端の漫画家の方々は、死ぬほど絵がうまいので、同じように勝負してもダメだろうなと思いました。“正攻法じゃないやり方で、でもエロい”っていうところを武器にしようと。

――具体的には?

同人のときも、デビューしてからも、私の絵は「少女漫画っぽい」ってよく言われてて。私自身はジャンプっ子なんですけど、なぜか絵が少女漫画っぽいんですよね。たぶん、髪の毛と目を描き込むのが異常に好きだから、結果としてそうなってるだけなんですけど。でも、その少女漫画っぽい絵でエロを描くということに対して、エロ雑誌の編集さんたちからウケがよかったんですよ。「少女漫画の絵でここまでしちゃうの?」っていうギャップがいいのかもしれないですね。



スピって気をためる!? 驚きの創作スタイル



――漫画家として、1日のスケジュールは決まっていますか?

もうぐちゃぐちゃです。似たような作家さんの中でもトップレベルでぐちゃぐちゃだと思います(笑)。スケジュール管理が苦手というか、“この時間に起きて作業を開始する”“この時間までに終わらせる”というやり方で描けたことがないので、結局自由な感じに戻っちゃうんですよね。

――と言うと…?

描けなくなってきたらそれは眠い証拠なので、長時間でも短時間でも仮眠を取って、起きてやる気が出たらまた描くって感じです。

――描きたいように描いている…?

私自身、最初はそれじゃダメなんじゃないかと思っていたし、周りからも「それでよく間に合うね」「ちゃんとスケジューリングしてやったほうがいいよ」と言われてたんですけど、できないまま今に至ってます(笑)。

――でも、そのやり方でうまくいってるわけですもんね。

これはなかなか信じてもらえないんですけど、「この日からこういう動きをしないとダメ」っていうのは、たぶん本能的に察知して逆算しているみたいで、身体が自動で動くんですよ。一度、本当にやる気が出なくてずっと寝てる時期があって、「これは放っておくとどうなるんだろう?」と思ってそのまま身を任せていたんですけど……

――えっ(笑)。

実験を重ねた結果、やっぱりどれだけ怠けてみても、やらなきゃいけないタイミングでちょうどやる気が出るんです。これはもう、そのスイッチを信用しても大丈夫だと思って、そのやり方でやるようにしています。

――その「何もしてないとき」には、情報収集などのインプットを…?

してないですねぇ…。スピってる感じですけど、気をためてるとしか言いようがない(笑)。ホントに何もしてなくて、空気中に体を預けて降りてくるのを待つ、みたいな状態なんです。

――何もしてない? ストーリーを組み立てたりとか頭の中で考えたり……

いや、何もしてないとしか言いようがないんですよ(笑)。私も最初はその時間がムダだと思ってたんです。自分はサボっているだけじゃないかと思って、その時間を短縮してやってみたんですけど、何も出てこなくて。「ダメだ、もう少しスピろう」と思ってダラっとすると、突然「描けそう!」ってなる瞬間があって、そこから一気に描き始めるんですよ。

――何もしてないときは、ベッドにいるんですか?

ベッドに横になってることが多いですね。私、縦になるということが苦手なので、だいたい横になってます。縦ってちょっと無理がありません?(笑)

――たまに歩いてて疲れるとそう思いますね。死んだらみんな横になりますし、そっちが自然なんじゃないかと。

そう、みんな縦になりすぎなんじゃないかと。人として自然な形じゃない、横が基本なんですよ!(笑)

――ちなみに、仕事部屋にこだわりは?

いわゆる“漫画家の部屋”っぽくしたくなくて、普通のOLさんや女の子の部屋みたいにしようとがんばっていたんですけど……。漫画家の谷口菜津子ちゃんが家に来たときに、「そうだとしたら大失敗してますよ!」と言われて(笑)。

――(笑)。

「えっ、ここで漫画を描いているの? 普通の可愛らしい女の子の部屋じゃん!」みたいなギャップ萌えを狙ってたんですけど、やっぱり漫画が多くて異様な空気が出てるんだろうなと思いました(笑)。