27日開催 事業売却承認のはずが、問題続出・・・

 「こういうことになるとは予想できるはずもないが・・・」

 サムスングループ幹部は、顔を歪める。2016年10月27日、サムスン電子が臨時株主総会を開くのだ。事業売却の承認が主目的だったが、次々と想定外のことが起きてているのだ。

 臨時株主総会の開催が決まったのは9月12日。この日、サムスン電子は、複写機事業を米HPに10億5000万ドルで売却すると発表した。

複写機事業売却で総会を開くが・・・

 同社の複写機事業の売上高は2兆ウォン(1円=10ウォン)。サムスン電子の全体売上高(200兆ウォン)からみればさほど大きいとは言えないが、重要事業の売却ということで株主総会の開催が決まった。

 この臨時株主総会の開催でサムスン電子はもう1つ重要な決定をする。

 李健熙(イ・ゴンヒ=1942年生)会長の長男である李在鎔(イ・ジェヨン=1968年生)副会長を日本の取締役にあたる「登記理事」に選任する事を提案するのだ。

 病床にある李健熙会長に代わって李在鎔副会長が代表理事に就任して名実ともに後継者になるための重要な総会になる。

 実は、この総会の日程が決まったとき、サムスン電子はすでにスマートフォン(スマホ)「ギャラクシーノート7」の発火問題を抱えていた。

 サムスン電子は8月に「最高の機能」を自負するこの新製品を出荷した。ところが、発火事故が続出し、深刻な品質問題を抱えていた。サムスン電子は、バッテリーに問題があったと見てサムスンSDI製から他社製に全面的に切り替え、9月2日に全量回収措置を決めた。

ギャラクシー7問題、早期収拾はかったが

 この10日後にHPへの複写機事業の売却と臨時株主総会の開催を決めたのだ。スマホの品質問題を早期に解決したいという思いが強かったことは間違いない。

 ところが、交換した製品でも発火事故が相次いでしまった。単純なバッテリーの問題ではなかったのだ。10月11日、サムスン電子は、「ギャラクシーノート7」の生産・販売の停止を決める。発売から50日で、戦略スマホの大失敗を決断する羽目になった。

 韓国の一部メディアは、9月2日の全量回収措置以降、「李在鎔副会長の果敢な決断」などと評価していた。実際に、李在鎔副会長がどんな役割を果たしたのかは不明だが、臨時株主総会を前に、大きな汚点になってしまったことは間違いない。

 逆に言えば、臨時株主総会で「登記理事」になることが決まっていたために、拙速で対応したとの見方も出ている。

  スマホ事業はもちろん、サムスン電子の収益源の1つだ。2015年決算でも、10兆1000億ウォンもの営業利益を叩き出した。12兆8000億ウォンの半導体と並ぶ2本柱なのだ。

 そのスマホ事業にどれほどの影響があるのか。サムスン電子は、10月14日に、2016年10月から2017年3月までに営業利益に3兆ウォンのマイナス要因なるとの見通しを示した。

 韓国の産業界では、かなり堅めの見通しだと評価する向きもあるが、果たしてこれだけなの か?

 「ギャラクシーノート7」だけでなく、「ギャラクシー」ブランド全体への悪影響を指摘する声も少なくない。

 何よりも、発火事故の原因が分からないことが不安を駆り立てている。

米投資会社の厄介な注文

 サムスン電子にとってもう1つ厄介なのは、米投資会社、エリオット・マネジメントグループがサムスン電子株0.62%を取得し、グループの再編などを求めたこと。

 エリオットは、サムスン電子に株主提案書を送った。それによると、サムスン電子を持ち株会社と事業会社に分離してそれぞれを米ナスダックで株式公開する。さらに持ち株会社は、公開買い付けで事業会社の株式を取得するよう求めた。

 その後、持ち株会社は、株式交換などを通してサムスン物産と合併するように提案した。

 サムスン電子持ち株会社とサムスン物産を合併させた会社の傘下に、サムスン電子事業会社やサムスンSDIなどグループ企業をぶら下げる形で、企業統治を透明化するように求めた。さらにエリオットは、株主のために30兆ウォン規模の特別配当を実施するように求めた。

 サムスングループが、李在鎔副会長への後継体制作りのためにさまざまなシナリオを考えていることは事実だ。だが、グループ企業はどれも大きくなって、株式の買収を進めて支配構図をすっきりさせるには巨額の資金が必要になる。

 また、個別企業の株主の利害関係も複雑で、エリオットの提案がすんなり通る可能性はほとんどない。

 エリオットも今回の臨時株主総会で、再編案を無理やり推し進める意向はないという。だから、エリオット案をめぐって総会で激論になる可能性は低い。

 それでも、株主提案だけに、サムスン電子は、何らかの見解を整理する必要はある。

 スマホ問題に加えて、企業統治や支配構造の問題で投資会社に揺さぶられる。それだけでも大変なのに、さらに気になる話が出てきた。

サムスン悩ます「乗馬問題」

 「乗馬問題」だ。実は、グループ内部では、10月半ば以降、この話が最も厄介で、対応に苦慮しているのだ。いったい、何の話なのか。

 韓国では、10月半ば以降、朴槿恵(パク・クネ=1952年生)大統領周辺のスキャンダルを野党などが猛烈に攻撃している。

 この中で最も関心を呼んでいるのが、朴槿恵大統領と「長年、親しい関係だった」といわれるある女性のことだ。

 野党などはこの女性が「陰の実力者」とみる。全国経済人連合会(全経連)が大企業に呼びかけて資金を出させて、文化やスポーツ関連の財団を設立させ、これが問題になっているが、このときも、裏で動いていたと連日批判している。

 身辺が清潔なことで知られてきた朴槿恵大統領だが、この女性の周辺には、「不思議な話」が多い。

 政権批判に発展してきたことで、朴槿恵大統領も、財団設立などに絡んで問題があれば厳正に捜査すべきだと述べ、検察の捜査も始まっている。

 この女性をめぐるミステリーは多い。そのうちの1つが、女性の娘をめぐる話だ。女性の娘は大学生だが、乗馬選手として国家代表にも選ばれている。

 この大学生が「サムスン乗馬チーム所属」を自称していたため、大騒ぎになったのだ。「サムスンが支援しているのでは・・・」という尾ひれがついてしまった。

 サムスン電子は長年、乗馬を支援してきた。李在鎔副会長も乗馬選手として鳴らしていた。

 サムスン電子には現在、乗馬チームはない。だから、この大学生がサムスン電子のチーム所属であるというのはあり得ないことだ。だが、今も、大韓乗馬協会の会長はサムスン電子の社長が努めている。

 こうしたことから、「サムスンとの関係」に疑惑の提起が続いている。

 サムスングループ、サムスン電子は疑惑を全面否定するが、「謎の女性」がかなりの資産家であることも明らかになってきた。こうなると、韓国ではとかく「サムスンが絡んでいるのではないか」と見られがちだ。

 10月27日の臨時株主総会。当初は、複写機事業のHPへの売却を承認するはずだった。それが、登記理事選任、スマホ問題、支配構造問題、大統領をめぐるスキャンダル・・・話題には事欠かなくなってしまった。

 こういう総会に限って「しゃんしゃん総会」になるという見方もある。

 李在鎔副会長も、エリオット側の代表も出席しない方向だ。それでも、これだけ話題が多いため、産業界の関心がきわめて高い。

 サムスン電子の株価は、スマホの発火事故が起きて一度下がったが、エリオットが提案書を出すと、配当への期待などで10月7日には、170万6000ウォンをつけた。

 しかし、その直後に、「ギャラクシーノート7」の生産・販売停止を発表したことで急落し、10月24日の終値は、160万8000ウォンだった。2週間あまりで10万ウォン下がった。株主総会直前の株価としては痛恨だ。

 それにしても、総会担当者は本当に大変だ!

筆者:玉置 直司