視聴率絶好調の「とと姉ちゃん」

朝ドラことNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」の視聴率が絶好調です。放送開始以来、5月30日の第50話まで連続して20%超え。このまま順調に行くと、今世紀最高の平均視聴率を獲得しそうです。

雑誌「暮しの手帖」を創刊した大橋鎭子(おおはし・しずこ)さんをモチーフに、ヒロインの常子(高畑充希)が編集者として成功するプロセスを描くこのドラマ。5月は女学校に通う常子が卒業間近となり、母と2人の妹を養うために就職を目指すという物語が展開しました。

5月期あらすじ

母との確執はあっさり解決?

また5月は、4月分のレビューで注目した、母・君子(木村多江)と祖母・滝子(大地真央)の確執もようやく解消しました。間に立つ常子たち三姉妹も心を砕いて、すったもんだしたのですが、結局は、

君子「意地を張ってばかりで、すみませんでした」
滝子「意地っぱりなのは、お互いさまだ」

と意外にあっさりと仲直り。このドラマ、どうも肩透かし感のあるオチが多く、2ヵ月目に入り、その点が目立ってきました。第7週で展開した、当時珍しかった歯磨き粉を作って売り出すという話は、モチーフの大橋さんの自伝的エッセイにも描かれており、リアリティがあるのですが、ドラマオリジナル部分は平和すぎて嘘っぽい。

第5週で展開した、帝大生の星野が国内で未発見の植物を見つけたという話も結局、第一発見者とはなりませんでしたし、制服紛失事件も家の中にあったというオチで「なぁんだ」というがっかり感が。こういう“オオカミ少年”的な展開が続くと、見る側のテンションも下がってしまうものなのですが、現在放送中の第9週では、就職した常子が壁にぶち当たる様子が描かれていますし、今後、日本が戦争に突入していくことを考えれば、余裕のある時代だからこそ成立した心温まる人間関係として見ることができます。

【今月の名言】は、バリフェミ教師・東堂チヨの熱いアジテーション!

東堂「誰でもができることを『女性だからできない』『してはいけない』と決めつけてはいませんか? 今日からは『女だから』と境界線を引かないで、自分の気持ちに正直に挑戦する毎日にしていきましょう」

第7週で登場した、常子の新しい担任、東堂は強烈なキャラクターです。新学期の初めての授業で、この熱いメッセージを16歳の少女たちに突き付け、平塚らいてう(らいちょう)
による有名な雑誌「青鞜」の序文、「原始、女性は実に太陽であった」を読み上げました。さらに、授業で選ぶテキストは清少納言、校庭で奇声を挙げながら朗読している本はイプセンの『人形の家』という筋金入りのフェミニズム論者で、フェミの歴史を知っている人なら、思わず笑ってしまうほどのベタさかげん。

もちろん、このセリフのように、言っていること自体は正論であり、「この時代、ほとんどの女学生は卒業後、お嫁に行きました」とナレーションで説明されるような女性の選択肢が少ない時代においては、目が覚めるような言葉に聞こえたでしょう。進路に悩んでいた常子や妹の鞠子(相楽樹)も、東堂から「青鞜」を貸してもらって読み、「女でも望むように生きていいんだ」と解放された気持ちになります。そうです。ここでヒロインはフェミニズムに目覚めたのです。

片桐はいりの名演技

この東堂を片桐はいりさんがユーモラスに演じています。間の取り方、“溜め”の作り方、眉の上げ下げなどが、いちいち絶妙。大げさなほど上品なしぐさが、笑いを誘います。ちなみに、片桐さんは2年前、鉄郎役の向井理さんと共に、脚本の西田征史さんが監督した映画「小野寺の弟・小野寺の姉」に出演。西田ファミリーとでも呼ぶべき一員として、今回、キャスティングされたようです。

今月からは、就職編

この東堂が、君子と滝子の対立がひと段落し、森田屋にも家族同様に受け入れられ、ほんわかお花畑ムードになった常子の環境に、ピリッとスパイスを効かせてくれました。5月はこのキャラクターがいなかったら、きっと退屈な展開になってしまっていたでしょう。そして、6月は、常子が女学校を卒業し、就職してからの物語になりますが、引き続き、東堂先生の出番が多いことを切に希望!

(小田慶子)
(イラスト/秋山恵美)

関連リンク:NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」公式サイト