猫と出会い、命を救える場所――「猫の譲渡会」に行ってみた

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空前の猫ブームに沸く日本。テレビや雑誌が猫を飼う楽しさ、手軽さを伝える一方で、いまだ殺処分される猫は年間8万匹(平成26年度)にものぼる。そうした中で殺処分ゼロを目標に活動する団体が全国各地にあり、譲渡会を開催して猫の引き取り手を探している。

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今回は、犬猫の保護活動を行う「ちばわん」に許可をいただき、保護猫の譲渡会――“ねこ親会”を取材してきた。

「ちばわん」とは?

「ちばわん」は千葉県を中心に活動する非営利団体。2000年代初頭に犬のレスキューを目的として数名の有志で発足し、今では250人を超えるボランティアが参加している。

譲渡会として2005年に「いぬ親会」、2009年には「ねこ親会」をスタートさせ、これまでに犬3,900匹、猫1,330匹を超える譲渡実績がある。2015年に公開されたドキュメンタリードラマ映画『犬に名前をつける日』にも出演した。

自治体や他ボランティア団体とも連携しながら、動物愛護センターに収容された犬猫を引き取って里親とのマッチング・譲渡を行い、“犬猫と人間が共生できる殺処分ゼロの社会”を目指し活動している。ちなみに「ちばわん」では、犬を迎えてくれるご家族を“いぬ親さん”、猫を迎えてくれるご家族を“ねこ親さん”と呼んでいる。

参加メンバーの役割は大きく3つに分かれる。

譲渡会の運営に携わる「運営ボランティア」、犬猫の移動に関わる「運搬ボランティア」、そして犬猫が譲渡完了するまで責任をもって面倒を見る「預かりボランティア」。

こうした人々の努力によって支えられる譲渡会のスケジュールは、同団体のサイト内で公開され、多くの来場者で賑わっている。

「ねこ親会」会場の様子

取材のためお邪魔した4月の「ねこ親会」は、千葉県市川市にて開催。来場者は会場の入り口でスリッパに履き替え、受付に猫を見に来たことを伝えるだけで良い。予約が必要なわけでもなく、誰でも気軽に参加できる。

この日は生後11ヶ月から6歳(推定)まで、14匹の猫が出会いを待っていた。各ケージに1〜2匹が入り、性格や年齢、病気の有無などを書いた紙が添付されている。その猫の面倒を見てきた預かりボランティアが書いたものだけに、内容は詳しい。

預かりボランティアの世話が行き届いているためか、猫はいずれも毛艶が良く、健康的な印象を受けた。動物愛護センターから引き取られたと聞けば、衰弱した猫をイメージする人もいるかもしれないが、その心配はないようだ。中には、そのまま雑誌のグラビアに出演できそうな美形猫もいた。

もし気になった猫がいれば、会場奥に張られたテント内で直接ふれ合うことができる。預かりボランティアからさらに具体的な話を聞けるので、飼い始めてから「こんな性格とは思わなかった」といったマッチングのミスが起こりにくい。この仕組みは、品種や生年月日くらいしか情報がないペットショップに比べて大きなメリットだ。

会場を訪れるのは、完全にフリーな人だけではない。あらかじめ「ちばわん」サイト経由で預かりボランティアの書いたブログを読み、「この子が欲しい!」と決めてから来る人もいるそうだ。また、本人の提示した条件にぴったり合った猫がいた場合、「ちばわん」側から紹介してもらえることもある。

飼いたいと思った猫がいたら、会場内でアンケートに記入する。そして住宅環境、飼育条件に問題がないと判断されれば、譲渡の流れに移っていく。完全室内飼育や健康管理、近況報告の約束事を盛り込んだ契約書にサインして、まずは1ヶ月間のお試し飼育(トライアル)を行う。実際に猫と暮らしてみて、このまま飼い続けることができるかどうかを判断する大切な期間だ。トライアルで問題がなければ、正式な譲渡が成立する。

譲渡にあたっては、身分証の提示、集合住宅や賃貸の場合、ペット飼育可の契約書などの提示、自宅までのお届は必須となる。「ちばわん」では譲渡までにかかった医療費の一部を新しい家族にも一部負担してもらっている。譲渡時にかかる費用は約2〜3万円(2016年5月現在)。助けを待つ保護犬・保護猫にこのお金が使われる。

猫を飼いたいと考えている人は、ぜひこうした譲渡会場にも足を運んでみてほしい。

来場者の顔ぶれと、意識の向上

さまざまな種類、年齢、性格の猫たちと出会える譲渡会。そこを訪れるのは、どんな人なのだろうか。取材中もひっきりなしに人々が来訪しており、その多くが夫婦や親子といった家族連れのようだった。

家族で猫を見に来るメリットはあるのだろうか。「ねこ親会」世話役の女性は次のように話してくれた。

「譲渡会には、できれば猫と同居することになる家族全員で来られたほうが良いでしょう。みんなが納得して同意を得ていないと、飼い始めた後にトラブルが起きる可能性があるからです」(世話役)

家族全員が猫を迎えるのに同意していること、そしてできれば預かりボランティアのブログにも目を通し、猫への理解を深めておくこと。この2つが、譲渡会を利用する時のアドバイスだそうだ。

なお、譲渡会は経費・寄付金などを除けば無料で猫を譲り受けられるが、この“無料”というメリットを求めてやってくる人は少ないという。

「多くの方は、行き場のない猫が殺処分されていることをニュースなどで知り、『猫を飼うのなら失われそうな命を助けたい』と考えて、譲渡会に来てくれているようです」(同)

猫がブームだから、ペットショップで買うより安いから……などという考えではなく、純粋に生命を思いやる心から譲渡会を訪れる人が増えているのは、「ちばわん」をはじめとしたボランティア団体にとって追い風と言えるだろう。

猫との新しい関わり方“預かりボランティア”

今回の取材で印象に残ったのは、「預かりボランティア」の存在だ。動物愛護センターから引き取った猫を自宅で飼育し、個性を把握してブログで情報発信しながら、新しい飼い主が決まったら譲渡する。

この日、参加した中で最年少(生後11ヶ月)となる、白黒カラーのイケメン猫・ラトルくんを無事に譲渡成立させた、石戸さん夫妻も預かりボランティアだ。

以前から猫を飼いたいと考えていた石戸さん夫妻だが、まだ結婚したばかりで生活環境の変化も大きい。これから5年、10年と猫の世話をしていけるかどうか不安があった。そこでネットを使って情報を集め、「ちばわん」の預かりボランティアに志願したという。

ペット向けの物件探しがやや難航したものの、ペット可の物件入居後に預かりはじめたラトルくんが非常に飼いやすい猫だったため、飼育そのものは順調。預かってから約2ヶ月で譲渡が成立した。

「猫を飼いたい、猫の役に立ちたいという気持ちから預かりボランティアになりました。猫の個性をすべて把握して情報提供できるのは、預かりボランティアだからこその強みだと思います。一緒に過ごしたラトルと離れるのは少し辛いですけど、また次の猫を受け入れたいです」と石戸さん夫妻は話す。

特定の猫を終生飼育するのではなく、また猫カフェなどで一時だけ触れ合うのでもなく、その中間に位置する新しい“猫との関わり方”だと感じた。「ちばわん」では預かりボランティアも含めた活動メンバーを募っているので、興味がある人は同団体の公式サイトを確認していただきたい。

ボランティアの必要ない社会を目指して

「ちばわん」を例に譲渡会の様子をお伝えしてきたが、全国にはこのような団体がたくさん存在し、犬猫をはじめとした動物たちを救う活動に励んでいる。だが冒頭にも書いたように、いまだ年間約8万匹の猫が殺処分されている。猫は犬と比較して、幼齢個体(子猫)の殺処分比率が圧倒的に高いのも特徴的だ。

千葉県では「ちばわん」などの団体が精力的に活動しているが、猫の殺処分数は2,291匹(平成26年度)にのぼる。人口比率で考えれば全国平均値より低いものの、まだ相当な数と言える。

「犬猫が苦手な、嫌いな人も当然いると思いますが、すべての人間と犬猫たちが共生していける世の中を目指しています。最終的にはそれが実現して、私たちボランティアが必要のない社会になればいいな、と願っています」

「ねこ親会」世話役の女性は、そう静かな口調で語った。