千本倖生・レノバ会長

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■再生可能エネルギーを育てるのは国家的な使命

――2012年にイー・アクセス(現ワイモバイル)をソフトバンクに売却し、千本倖生さんはハッピーリタイヤメントをしたわけですが、なぜ通信業界から今度は、再生可能エネルギーの開発運営を行うベンチャー企業、レノバの代表取締役会長に就任したのですか。

再生可能エネルギーの業界というのは、実は私にとっては全く関係のない事業ではないのです。私が慶應義塾大学の教授をしていたときには、風力発電のエコ・パワーという会社を学生とともに共同で創業をしました。ですから再生可能エネルギー事業には昔から関心は深かったのです。ビジネスモデルを見てみると、携帯電話事業と再生可能エネルギー事業は、実は非常によく似ているんです。大きな設備投資をして償却をしつつ、売り上げを立てていくというモデルです。ソフトバンクだって再生可能エネルギー事業をやっているじゃないですか。ある種のシナジー的な効果があるんですよ。だから、私にとってはプラットフォームがモバイル事業から再生可能エネルギー事業に移ったというだけなんです。

――どのような経緯でレノバの会長に就任したのですか。

レノバという会社は、2000年の5月にできた独立系のベンチャー企業です。モバイル事業で人生を一段落したので、どうしようかと思ったときにこの会社から社外取締役をやってみないかという話があり、引き受けることにしました。そうこうするうちにもう一歩踏み込んで、経営陣と一緒に働いたらどうかという話になったのです。それで私も、社外取締役という立場ではなく、もう少し中に入った形で事業を見てみようと思いました。この会社は素晴らしい若手たちが作った会社で、しかも独立系です。再生可能エネルギーの会社というのはだいたい大手の傘下にあるわけじゃないですか。独立系でチャレンジしている会社を支援したいという思いで会長を引き受けることにしたのです。自由にリスクをとってチャレンジするような若い集団がいれば助けてやることが私の役割だと思っていますから。

――今回は、これまでのようにゼロから立ち上げるというステージではなく、若い経営者たちを支援し、育成するということを目指しているわけですか。

今やっている若い人たちを後ろからバックアップし、元気づける。そのプロセスの中で、今まで私がやってきたことを、マネージメントに注入していくという役割があるのではないかと思っています。

――かつて学生たちと風力発電を一緒にやったということも底流にありますか。

原発が再稼働し始めていますが、日本の将来、10年後、20年後を考えると、再稼働しても新たに作られる可能性はきわめて少ないと思います。原子力エネルギーはそれなりに大事なエネルギーだと認識していますが、いずれは欧州と同じように主力となるエネルギー源は再生可能エネルギーを移していかないと、日本の将来にとってクリティカルな問題となっていくと思います。そういう意味で再生可能エネルギーをきちんと育てていくというのは国家的な使命としても重要だと思っています。

■日本人はものの考え方を変えた方がいい

――ベンチャー経営者が生まれてこないことには新しいものが生まれてこないわけです。寄らば大樹の陰という発想では日本はダメだと思うのですが。

「寄らば大樹」といいますが、頼ることのできるような大樹が日本の産業界に本当にあるんでしょうか。アメリカを支えているのは、グーグルやアマゾンのような躍動感のある会社で、"大樹"ではない"新樹"ですよ。若いベンチャー企業がアメリカの経済のダイナミズムを支えているんですよ。日本人のものの考え方をそろそろ変え、自分の足で立って、自分で自ら挑戦して新しい地平線を切り開いていくという方向に重心を移していかないと日本の将来は暗いですよね。

――レノバというベンチャー企業の特徴は。

ディ・エヌ・エーを創業した南場智子さんなどもご出身のマッキンゼーで働いていた2人が中心となって作られた会社です。当初はリサイクル事業をコンサルティングする「リサイクルワン」という会社としてスタートし、その後リサイクル事業などを手がけ、今は再生可能エネルギーに焦点を合わせています。ただ再生可能エネルギーといっても太陽光発電、風力発電、地熱発電、バイオマス発電などいろいろあるわけですが、複数の再生可能エネルギー電源を開発して、電気を供給しようとするベンチャー企業は日本にはまだあまりありません。風力は風が吹いていないときには発電量は落ちるし、ソーラーも太陽があたっていないときには発電できません。再生可能エネルギーといっても、ひとつの電源だけに頼っていると全体として安定性を欠くこともあるけれど、複数の種類の電源があれば、お互いに補うことができる。それに地熱発電やバイオマスなどの安定電源をもっていれば、24時間発電できますから安定度を増す。そんな新しいエネルギー供給体制を作ることを、レノバは目指しているのです。

――現在、売り上げは55億円程度ですが、これから10倍、あるいは100倍ぐらいにできそうですか。

きわめて元気に成長しています。もともとプラスチックスのリサイクルではじめて、メガソーラーで成長してきて、今後数年はメガソーラーが主力のエネルギーになります。そのあとは、陸上の大型風力、洋上風力、地熱・バイオマスなどでぐっと成長性を上げる形にあると思います。

■若いベンチャー経営者が生まれることを期待

――千本さんの最も大きな役割は何ですか。

彼らは非常に優秀な人材の集まりです。おそらくマネージメントとしては日本でも屈指の優秀さをもっている。しかし、もっと大きなスケール感が必要。私が昔、イー・アクセスやイーモバイルをスタートしたのもレノバが設立された時期と同じぐらいの時期でした。イーモバイルは4000億円のファイナンスをしてやってのけてきたわけです。レノバも同じぐらいの年限で何千億円のスケールのファイナンスをすることができるようになると思います。米国のベンチャー企業は強力な成長力や突破力をもっていますが、そんな力をもつことがこの会社の課題なのではないかと思います。

――50メートの山しか登ったことのない人と、5000メートルの山に登ったことある人ではその見える景色全く違います。それを伝えるのは大変なのではないですか。

たとえていうなら、レノバは15年かけて50メートルの山に登っているのですが、たしかに5000メートルの山に登らなければわからないことがある。そのためにはレノバとしてはこれから一皮むけて5000メートルのところにいくマネージメントにしていかなければならない。そのために私が入ってきたのだと思います。

――ベンチャー企業が成長をするためには何が必要だと思いますか。

ベンチャー企業というのは、経営思想、ミッションを明確に示して、共有していくことが大切です。そのためには会社を貫く「経営哲学」を全社員に沁み通らせなければいけない。

――以前、千本さんは大学で研究していたときに、米国では一番優秀な人がベンチャーの経営者になり、その次がそのナンバー2に、そしてその次がコンサルタント会社、そしてあまり優秀ではない人間が公務員になると話をしたことがありました。

アメリカ人というのは、基本的にはキリスト教精神と西部開拓史、フロンティア精神があると思います。常にフロンティアの開拓をしたものがその果実を得ていかなければいきていけなかったという精神が流れていると思います。だからアメリカのベンチャー企業の経営者は会社を作ったときから社会的な視点をもっているし、はものすごい突破力をもっています。日本にもそんな若いベンチャー経営者がどんどん生まれてくることを期待したいし、応援していきたいと思っています。

(ジャーナリスト 松崎隆司=文)