「38歳以降の出産」で人生の「貯め時」消滅危機

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■人生の「貯め時」を逃すな

長い人生には、「貯め時」といわれる時期が通常3回やってきます。

「貯め時」とは、比較的お金に余裕があって、貯蓄形成しやすい時期のこと。具体的には、

(1)独身時代
(2)結婚して子供が小さい間
(3)子供が独立してリタイアするまで

の3回です。

逆に、(1)〜(3)以外は収支にあまり余裕がなく、貯蓄しにくい時期、言い換えれば「使い時」といえる時期があります。例えば、

(2)と(3)の間にある「教育費のかかる時期」
(3)の後にやってくる人生最大の使い時である「老後」

です。

▼今貯めて、あとで、使う

「収入」も「支出」も一生同じ額が続くのであれば、家計管理は難しくないでしょう。常に収入の範囲内で暮らしていけば、何の問題もありません。

しかしながら、現実は違います。

比較的一定額で推移する「収入」に対し、「支出」は住宅購入時の頭金、子供の入学金、車の買い換えなどまとまった金額が出ていくタイミングが何回かあり、その額の変動も激しい。

一生涯働くつもりでなければ、老後は年金生活になります。言うまでもなく、年金収入は現役時代の収入に比べて小さいものであり、それまでにどれだけ蓄えを形成できるかによって老後の生活の明暗が分かれます。

つまり、「収入」と「支出」が一定でないからこそ、「貯め時」と「使い時」が発生するわけです。

ということは、こうとも言えます。

「収入」をあるだけ使えないのは、将来の「支出」に備えるため。

年によって金額に変動があって、形のでこぼこしている「支出」という枠に、「収入」というピースをいかにあてはめていくか。家計管理とは、いわば「パズル」のようなものと言えるかもしれません。

■貯め時・使い時の差は「教育費」

「貯め時」や「使い時」を理解すると、月の収支で一喜一憂するのは、あまり適当でないことが分かります。「貯め時」に比べれば、「使い時」の収支はどうしても悪くなって当然です。

あるいは、本来「貯め時」であろう時期になかなか貯蓄できない、または赤字が続いているとしたら、家計は何らか問題を抱えていることを示唆しています。

相談を受けるファイナンシャルプランナー(FP)側からいわせていただくと、家計簿を拝見するとき、年収や金融資産額のみならず家族構成をうかがうのは、長い人生の中でどの時点にいるのか把握するためであり、さらにいえば「貯め時」「使い時」をおおよそ知る手掛かりにするためでもあります。

▼教育費1000万円はかかる

さて、勘のいい方はすでにお気づきかと思いますが、現役時代の「貯め時」「使い時」を二分するのは「教育費」の存在です。

一般に子供が高校・大学と進学する頃に教育費のピークを迎えます。子供が2〜3人いて、そのピークが重なればなおのことです。ここが(2)と(3)の間に位置する「使い時」にあたります。(編集部注:文部科学省の「平成24年度 子供の学習費調査」と日本学生支援機構の「平成24年度 学生生活調査」によると、子どもにかかる教育費は幼稚園から大学まで全部公立で769万円、全部私立なら2205万円)

逆にいえば、DINKSや単身者の家計には、不動産購入をした場合を別にすれば、前述の3つの「貯め時」が明確に存在しません。ざっくりいうと、「リタイア」時を境として、現役時代は長期に渡って「貯め時」であり、リタイアしてはじめて「使い時」がやってくるといった具合です。

つまり、家族構成を伺うことは、「貯め時」と「使い時」の時期がどうやってくるのかを把握する作業でもあるわけです。

■3回目の「貯め時」が消滅

問題はここから。

子供がいる家計で「貯め時」にお金が貯まっていないとしたら、どうしたらいいのでしょうか。将来の「使い時」への準備ができていないということです。

おもな対応策は3つです。

・収入を増やす
・教育費を下げる
・教育費以外の支出を削る

これでも対応しきれない場合、

・お金を借りる 
・奨学金を受ける

といったことが検討されます。

ここで、あることにお気づきでしょうか。

これらの対策には、通常の他の費目であれば当然にあるべき対策が1つ欠けています。ヒントは、教育費は待ったナシであること。

例えば、家を買いたいけれども、思うように頭金が貯まっていないとしたら、家の購入価格を下げることなどの他に、頭金を貯めるために「買う時期」を後ろにずらして時間を稼ぐのも一案です。

晩婚家庭は定年まで教育費かさむ

しかしながら、子供の成長は止まりません。教育費の場合、「時期をずらす」選択肢はないのです。否応なく「使い時」はやってきます。

この点を前向きに捉えれば、子供が何年後に何年生になるのかも事前に分かるわけですから、前もって計画的に資金準備しやすい費目ともいえます。

最近では晩婚の夫婦が増え、3回目の「貯め時(子供が独立してリタイアするまで)」が消滅してしまうケースも見受けられるようになりました。

子供の独立を大学卒業の22歳とし、親のリタイア時期を60歳とするならば、単純計算38歳以降に子供をもうければ、3回目の「貯め時」は事実上なくなってしまいます。

いずれにしても、(1)(2)の「貯め時」を逸してしまい、貯蓄が思うように貯まっていないとしても、教育費が必要になる時期は待ってくれません。そこを乗り切るためには、何らかの方法でお金を捻出する必要があります。さきほどの対応策をミックスさせて対応するのが通常でしょう。

■子ども独立後も労働で「貯め時」つくる

切羽詰って収支を改善させるわけですが、そこで生まれた「余裕」は教育費に消えることとなります。

ようやく子供が独立して、最後の「貯め時」がやってきても、貯蓄形成が老後に間に合わなければ、高齢期にも働かざるをえなくなるかもしれません。

家計管理の甘さが露呈するにも、時間がかかるのです。

こうならないために大事なのは、自分の家計の「貯め時」「使い時」をざっくりとでも把握しておくことです。難しくありませんね。子供が生まれてすぐに分かるものですから。

そして、「貯め時」にきちんと貯められていないとしたら、黄色信号。すぐに家計改善に取り掛かりましょう。

家計改善を始めるには、早いに越したことはありません。

年齢が上がるにつれて対応策には限りが出てきますし、効果も限定的になっていきます。考え方が硬直化すれば、柔軟に対応することも難しくなるでしょう。

▼貯められぬ理由は、使い方下手だから

そもそもなぜ貯められないのかは、お金の「使い方」に問題があります。「貯め方」ではありません。

よくいわれる貯蓄の王道的手段に「先取り貯蓄」があります。収入が入ってきたら、一定額を貯蓄として差し引き、残りでやりくりする方法です。

こうした貯める仕組みを家計に取り入れるのは、確かに貯蓄形成に一役買うでしょう。

しかしながら、先取り貯蓄をしっかり行いながらも、結局残りのお金でやりくりできず、貯蓄を取り崩しながら生活している方を何人もみてきました。残念ながら貯蓄の横滑りが起きているだけで、お金はまったく貯まっていません。

こういう方の場合、問題点は「使い方」に潜んでいます。逆にいうと、先取り貯蓄できちんと貯蓄形成できている方は、なんだかんだちゃんとした「使い方」になっている証拠です。

家計管理で大事なのは、「貯め方」よりも圧倒的に「使い方」の方です。貯めたお金ですら、将来使うためのものです。「使い方」が間違ったままであれば、一生懸命に貯めたお金ですらすぐに失いかねません。

「貯め時」「使い時」の時期を把握しつつ、現状いくらずつ貯められているかを確認することで、ざっくりと家計の健全性を測ることができます。

もし貯蓄ペースが鈍いとしたら、自身のお金の「使い方」にムダがないかもう一度見直してみましょう。

(ファイナンシャルプランナー 八ツ井慶子=文)