時は元禄、戦乱も絶えて久しく、上方を中心に商人たちが大きな屋敷を構えるようになる。京の長者町、七つの蔵、九つの座敷、千木万草に囲まれ、七五人もの手代を使う染物の大店(おおだな)が居並ぶ。だが、桔梗屋ばかりは、爪に火を灯すほど貧窮に喘いでいた。 だんなも、おかみも、元来、正直な働き者。なのに、働けど働けど、まったく実りがない。大晦日の遅くまで仕事に精を出し、餅をつくこともままならず、初夢には宝船の刷