ハマの大エースへ。井納翔一が語る「2年目の飛躍のワケ」
今季開幕前は評判の高かった横浜DeNAベイスターズだが、6月1日時点で21勝30敗、セ・リーグ最下位に甘んじている。開幕と同時に、三嶋一輝、三浦大輔、山口俊らの投手陣が揃って不調に陥(おちい)ったことが大きく影響している。そんな中、2年目の井納翔一が投げるたびに存在感を示している。ルーキーイヤーの昨年は5勝に終わったが、今季ここまでリーグ最多の7勝(2敗)をマーク。5月23日の日本ハム戦ではプロ初完封を果たすなど、低迷するチームにあって大きな希望の光となっている。今季の活躍を井納はどう捉えているのか。本人を直撃した。
―― 今季は開幕から順調に白星を重ね、チームの勝ち星の3分の1を井納投手が挙げています。好調の理由はどこにあると思いますか。
「ストライクでどんどん勝負できているところだと思います。あと、結果も出るようになって、少しずつですが自信になってきた部分もあります。課題は、ランナーを出した時と追い込んでからのボールですね。そこの精度をもう少し高めていきたいです。自分の持ち味はテンポなのですが、ランナーがいると少し崩れてしまうんです。気持ち的には変わっていないと思うんですけど......。今年は開幕前に自分の中でこれだけは守ろうと決めたことがふたつあります。ひとつは先程も言いましたが、テンポ良く投げるということ。これは調子が良くても悪くてもできることなので。そしてもうひとつが、ストライクで勝負すること。このふたつだけはしっかり守ろうと、マウンドに上がっています」
―― テンポを大事にする理由とは?
「昨年、2度目のファーム落ちの時に木塚敦志ピッチングコーチに『お前の持ち味は何だ?』って聞かれたんです。それで『テンポです』と答えたら、『お前がテンポ良く投げることで、野手はいいリズムで攻撃に入れるんだ』と。それはアマチュアの時から考えていましたが、木塚コーチからもう一段階上の考え方を教えていただきました。相手打者からすれば、テンポ良く投げられると次にどんなボールを投げてくるのか頭を整理しづらくなる、と。そうなれば、少々ボールが甘くなっても打ち損じる確率が高くなる。それから、テンポ良くどんどんストライクを投げることにこだわるようになりました」
―― ただ、開幕から4試合は初回に失点を許してしまいました。
「甘いところへ投げちゃいけないと、強く意識しすぎてしまいました。自分でも窮屈に投げているなとわかっていたのですが、際どいコースを突きすぎて、結局カウントを悪くして打たれてしまった。確か4月26日の阪神戦だったと思うのですが、立ち上がりの考え方を変えたんです。2回、3回の時と同じように大胆にストライクを投げて、とにかく打たせることを心掛けました。そこでようやく初回を0点に抑えることができて、今もそれを続けられています」
―― 他にも、食事の管理にも気をつけていられると。
「昨年はどうしてもお腹が空いて、ロッカーに置いてあるおにぎりやパンをついパクッと(笑)。登板前もお腹いっぱい食べていました。そのことを(当時投手コーチの)デニーさんに2度ぐらい注意されてからは食べていません。昨年は体が重くなったことに途中まで気づかなかったんです。ある時、どうも自分の理想のフォームで投げられなくなったので体重計に乗ってみると、87キロから94キロになっていました。入団してから7キロも太っていたんです。それでトレーナーの方と相談して3キロほど落とそうということになって、91キロになったのが9月ぐらい。それから腰のキレが戻ってきました。9月は(3勝1敗と)成績が良かったので、自分は91キロがベスト体重なのかなと。だから、今は91キロを維持しています」
―― あと、昨シーズン終盤から登板前に相手打者の映像を見て、研究するようになったそうですね。
「相手チームの試合のDVDを見て、自分の持っている球種を考えながら、『こういうボールで抑えよう』『こう攻めれば抑えられるんじゃないか』と研究しています。情報があるのとないとでは、気持ちの部分で違います。試合に入って、自分の考えと違っていたとしても『じゃあ、こうなのかな』と余裕を持って攻め方を変えることができる。最近は高城(俊人)とバッテリーを組むことが多いのですが、自然と首を振る回数も増えています」
―― 高城選手の反応は?
「高城は『何で首を振るんですか』とは言わずに、『投げたいボールをどんどん言ってください』と言ってくれます。高城も自分もお互いに勉強しながらやれているのかなと思います」
―― 考え通りの攻めができて打ち取った時は、"してやったり"といった感じですか。
「実際は、抑えられたとしても配球に正解はありません。球数を少なくして抑えることができたら、それが自分の中では正解です」
―― 井納投手は、アドバイスを素直に聞かれるタイプですか。
「1対1の時は聞きますけど、人が大勢いる時は聞いていないですね(笑)。ただ、自分にとってためになる話の時は聞いています。興味がないと、本当にマイペースなので、聞いていない時が多いです。だからよく、三浦(大輔)さんに『話を聞いてんのか』って怒られるんです。それに、ちゃんと聞いている時でも、聞いていないように見えるみたいで......。それで怒られても、反省しているように見えないみたいで、また怒られます(笑)」
―― 井納投手はプロ2年目ですが、年齢は28歳です。プロに入るまでに時間がかかりましたが、自分の中で遠回りしてしまったという思いはありますか。
「遠回りかもしれないですけど、大学では4年の時しか成績を残していないですし、社会人でも4年目しか結果を出せませんでしたから......。その8年の間に何があったかと言えば、自分なりに苦しんだ中でたくさん学ぶことがありました。それが今、この世界に入ってから少なからず生きていると思っています」
―― 同世代の選手が早くからプロで活躍する姿に、焦ったりしたことはありましたか。
「そういう気持ちは、プロ入りする前も今もないです。自分の同世代でいちばんの選手といえばダルビッシュ有(レンジャーズ)で、彼に対しては単純に凄いなっていう憧れはあります。でも、自分は自分じゃないですか。今は年齢がいっていたにもかかわらず、自分を獲ってくれたチームに対して精一杯のことをするだけです」
―― 同じ2年目の投手を意識したりしますか? 今年はチームメイトの三嶋一輝投手、巨人の菅野智之投手、ヤクルトの小川泰弘投手、楽天の則本昂大投手が開幕投手となりました。
「三嶋については取材の時によく言われますけど、競争意識はないですね。もちろん、ローテーションに入るために、チーム内で最初に戦う必要があることは知っています。でも、それを意識するあまり、自分のやるべきことを見失ってしまう方が怖いです」
―― 井納投手にとって、三嶋投手はどんな存在ですか。
「今、三嶋は一軍にいないんですけど、早く戻ってきてもらって、自分もずっと一軍にいて、最終的にはふたりでチームを盛り上げていきたいと考えています。いつも取材では『三嶋とともに、友とともに』と答えています」
―― DeNAの投手陣には、三浦投手をはじめ、今季から加入した久保康友投手、尚成投手といったベテランもいます。
「すごく勉強になります。三浦さんはコーチ兼任ということもあって、試合後にアドバイスをくださいます。久保さんもそうです。ヒサ(尚成)さんはアドバイスにプラスして、その......なんて言うんですかね、試合前とかでもリラックスさせてくれるんです。昨年の自分は、球場入りしてから試合が終わるまで、全然余裕がなくて......。それが、ヒサさんに似てきたわけじゃないですが、今年は登板日でも普段通りにできるようになった気がします。そういうことも、今の結果につながっているかもしれないですね」
―― 精神的な部分で勉強になることが多いと。
「ヒサさんと久保さんの存在は大きいですね。昨年の僕や三嶋は1敗しただけで次の日まで暗くなっていたのですが、ヒサさんや久保さんは負けを引きずらないんです。あと、モスコーソもうまく周りを盛り上げてくれます。だからチームが連敗しても、雰囲気が悪くなることはありません。自分は負ければまだ暗くなることはありますけど、以前より気持ちの切り替えが早くなったと思います」
―― ここまでの活躍で、エースとの声が上がっています。
「エースと言われることは嬉しいですけど、まだ1年間しっかりした成績を残していないですから。たとえ、今シーズンいい成績を残せたとしても、それは1年だけですし......2年、3年としっかりした成績を積み上げれば、本当の意味でエースになれると思います。今は1戦1戦、打者ひとりひとりを抑えていくことしか考えていません」
―― エース像について考えたことはありますか。
「うーん、エースに対して特に考えたことはないですね。でも中畑(清)監督に『もちろん人間なので負けることはある。でも、コイツが投げたらチームは勝てる。そう思わせられる投手がエースだ』と言われたことはあります。今で言えば、広島の前田健太や巨人の菅野、あとはオリックスの金子(千尋)さん、西武の岸(孝之)さん、ソフトバンクの攝津(正)さんがそういう投手だと思います」
―― では、井納投手が理想とするピッチャー像はありますか。
「元ソフトバンクの斉藤和巳さんに少しでも近づければと思ってやってきました。ボールのキレや精度は違いますけど、持っている球種は似ている。自分も斉藤さんのようなピッチングをして、投げる試合はチームが勝てるようにしたいですね」
島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
