事件から7年後、死刑判決は確定した

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 殺人や殺人未遂などの罪に問われ、1、2審で死刑判決を受けていた加藤智大被告(32歳・事件当時25歳)。2月17日、最高裁は、上告審において死刑判決の棄却を求めた加藤の上告を棄却し、死刑が正式に確定した。

 2008年6月8日の日曜日、買い物客で賑わう東京・秋葉原の歩行者天国に、2トントラックで突っ込んだ後、居合わせた人々を無差別にナイフで切りつけた。負傷者10人、死亡者7人……まさに白昼の凶行だった。

 だが、この惨事を今改めて振り返ったとき、あまりにも不可解な点や謎が多すぎることに気づかされる。被害者の方々には言葉もないが、新聞やテレビが報道したことが、あの日、あの現場で本当に起こっただと、あなたは自信をもって言えるだろうか。

短時間で12人も殺傷……単独犯行では不可能?

「通行人が大勢いる街中、それも歩行者天国で、無差別にナイフを使って、12人も刺せるか? 時間は2分、距離は200メートル」

 事件の詳細には触れずに、いきなりこう質問した。不謹慎かもしれないが、現実的な可能性を筆者は知りたかったのである。返ってきた回答は次の通りだ。

「2分で12人も刺せるはずないだろ」(元神奈川県警捜査員)
「テレビゲームじゃないんだぞ」(元公安捜査員)
「どこかの特殊部隊に頼めば可能かもな」(元陸上自衛隊隊員)

 いずれも不可能という判断。彼らは単なる素人ではなく、事件や犯罪のエキスパートであり、数々の修羅場を潜り抜けてきた人間たちである。その彼らが「不可能」と言っているのだ。だが、実際に事件は起きた──。

 まず第一の疑問は、加藤一人であの犯行が可能だったのかという点だ。衆人環視の状況下で不特定多数の目撃者がいる以上、時間と距離の関係を否定することはできないが、加藤がトラックを降りてから2分(3分説もある)とされる犯行時間、そして加藤が身柄を拘束される瞬間までの距離はわずか200メートル程度しかない。この短かい時間と距離で、あれだけの人間を殺傷することがきわめて難しいことはすでに述べたとおりだ。

 また、トラックを降りる前に交差点で人を跳ねた後にかなりの勢いでタクシーに激突している。トラックのフロントガラスの破損や左側前部のへこみを見れば、加藤もかなりの衝撃を受けたはずだが、加藤はすぐに降りて凶行に及んでいる。「痛みを感じない」という点で薬物を使用していた可能性もあるが、薬物反応は出ていない。

「典型的な精神疾患だと思いますが、可能かもしれません。こうした状態では極度の興奮状態になり、ものすごく狭い視野と通常とは違う力が出ます。本人は痛みも何も感じません」(精神科医)

 だが、こうした専門家の指摘がある一方で、取り押さえられた瞬間の映像を観る限り、加藤が興奮しているようには見えない。むしろきわめて冷静であり、なによりも不思議なのはまったく息が切れていないことだ。

 そして、第18回の公判における検事と加藤との次のやりとりが、この事件の疑問を象徴している。

検察官「今回の事件では数分の間で12人を刺しています。多くの人の体の枢要部を刺しています。武器の素人とは思えませんが、何かゲームのなかで(武器を使う)練習をしていたのではないですか」

加藤「実際に使ったことはありません」

犯行を告知していたのに、直前に全部消した?

 ナイフの入手方法も謎が残る。福井県内のショッピングモール内のミリタリーショップで購入された「スローイングナイフ」と呼ばれる、投げて刺すナイフ1本と6本のナイフを加藤は購入したとされるが、防犯カメラには店員と雑談する加藤の姿が残っている。

「計画的な犯行であれば、極力足のつかない方法で買うはずだ。意図的に証拠を残したようにすら思える」(前出元捜査員)

 また、精神科医が指摘したように、犯行時に加藤が極度の興奮状態にあったとしても、検事が加藤に質問したように、ナイフを使いこなすことができたかという疑問は残る。

「いくら秋葉原の密集した街中で、手当たり次第とはいえ、軽く斬りつける程度でも正直難しいと思ったよ。たしか被害者は相当深く刺されているよな。素人だからたぶん目いっぱいの力で刺しているはず。でも、そこまで刺せば簡単に抜けないし、血と脂で刃もな……12人もどうだろう」(前出元自衛隊隊員)

 凶器の入手先の痕跡を残し、犯行の事前告知や犯行間際までをリアルタイムで実況しておきながら、加藤はなぜか犯行直前に携帯電話のアドレスやメールの類だけはしっかり消去するという、相反する行動をみせている。それはなぜか。

「自分で消したとは思えない。加藤の犯行は自分の存在を世間に認めさせたいがゆえの犯行だったからだ」(前出元捜査員)

 では加藤ではないとすれば、誰が消したのか。

「まず考えられるのは警察なり、その上(検察や政府機関)だろう。彼らが消したとすれば、送検後の検察や裁判に備えて事前の余計な情報はできるだけ存在しない方がいいということ。そしてもう1つの可能性は突飛かもしれないが、どこかの段階から、加藤が書き込みをしていない可能性があったということだ。加藤以外の何者かが書き込み、そして消した……と」

 だが、加藤は「事件当時の記憶はない」と供述(もちろん証言詐称の可能性は大きい)しながらも、自分が「書いた」と認めている。

「供述は、あくまでも警察が書いた供述だ」(前出捜査員)

 そして、第二の謎をめぐっては、もっとミステリアスな展開が待っていた。

(取材・文/林圭介)