大反響の宮崎駿インタビューにみる興行論|プチ鹿島コラム

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 先週はラジオの聴取率調査週間、いわゆるスペシャルウィーク。各番組の「仕掛け」が見どころ、いや、聴きどころの週。そのなかで特に話題になったのは『荒川強啓デイ・キャッチ!』(TBSラジオ)でのジブリの宮崎駿監督インタビューと、『荻上チキ・Session-22』(同)の曽野綾子インタビューではなかったか。放送後の新聞各紙の扱いもダントツ。

 曽野綾子氏についてはここでは「棲み分け」させていただき、宮崎駿インタビューの見出しを紹介する。代表的な反響はこれ。

・宮崎駿氏「異質文明の風刺画は間違い」(産経新聞・2月17日)

 他にもたくさん報道された。ここから私が書きたいのはインタビューの内容ではなく「興行論」。宮崎駿をよく引っ張り出せたなぁと思いませんか。私も出演させてもらっている『荒川強啓デイ・キャッチ!』ですが、今回の「興行」には目を見張った。

 番組の月曜に出演しているジャーナリストの青木理氏が以前にスタジオジブリが発行している雑誌『熱風』でインタビューを受け、プロデューサー鈴木敏夫氏と縁があった。そこからの拡がりだという。

仕掛け人の鈴木氏「プロデュースの基本は野次馬精神」

 さて、興行の仕掛け人と言えばまさにこの人、鈴木敏夫。『風立ちぬ』のパンフに載っていた鈴木氏の「日本人と戦争」という文が興味深い。「戦闘機が大好きで、戦争が大嫌い」な宮崎駿に『風立ちぬ』を作ろうと提案すると、「鈴木さんはどうかしている。この(ゼロ戦)漫画は俺の趣味の範囲で描いている。映画化なんてとんでもない」と拒否されたという。

「しかし、ぼくは食い下がった。プロデュースの基本は野次馬精神である。宮崎駿が戦争を題材にどういう映画を作るのか。」と鈴木氏は書いていた。

 つまりここでわかるのは、人がわざわざ駆けつけて見たくなるのは葛藤や矛盾を抱えたものこそ、というヒントである。これを乗り越えるととてつもないモノが生まれる。プロレスでも本人同士が嫌がるマッチメイクこそ客が入るし盛り上がると、かつて猪木が言っていた。

 今回の宮崎駿監督インタビューがこれだけ話題を呼んだのも、引退宣言後はあまり人前に出たくないであろう宮崎駿の「時事コメント」だからこそ人々は聴きたいと思ったのだろう。相反ぶりが「客」を集めたのだろう。

 2013年公開のジブリのドキュメンタリー映画『夢と狂気の王国』にはこんなシーンがあった。鈴木敏夫が宮崎駿に、最近メディアでできることの範囲が狭くなってきている旨を言う。そして「好きなことを自由にできるのは宮崎駿で終わりですよ」。

 この映画は「ひとつの時代を生きた3人の王(宮崎駿、高畑勲、鈴木敏夫)とこれからの時代をつくる人々をとらえた物語」だが、鈴木と宮崎の会話は今の時代への警鐘も感じた。

 私はこのふたりの生臭い話がもっと聞きたい。

著者プロフィール

お笑い芸人(オフィス北野所属)

プチ鹿島

時事ネタと見立てを得意とするお笑い芸人。「東京ポッド許可局」、「荒川強啓ディ・キャッチ!」(ともにTBSラジオ)、「キックス」(YBSラジオ)、「午後まり」(NHKラジオ第一)出演中。近著に「教養としてのプロレス」(双葉新書)。