今後も人口増加が予想されている

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「戸建て中古なら1000万円くらい。探せば800万円台も。中古マンションなら500万円くらい。探せば300万円台もあるかもしれない。もっともそれも今年限りでしょうが……」

 都内のある不動産業者は東京都足立区・北千住の不動産事情をこう話す。今、北千住のある足立区の人口は近年増加傾向にある。1995年の人口増加率はマイナス1.4%だったが、以降、増加の一途を辿り、2005年には1.2%とプラスに転化。2010年には9.4%と爆発的な伸び率をみせた。

 北千住は都心のオフィス街・大手町まで約16分という好立地に位置し、JR常磐線、東京メトロ日比谷線、同千代田線など多数の路線乗り換えも容易でアクセスもいい。駅界隈には江戸っ子情緒溢れる雰囲気の商店街と、マルイ、ダイエー系列トポスの各北千住店といった大手流通が混在、それが絶妙な具合でマッチングしている。その町並みは北千住の今を象徴しているかにみえる。

 その北千住のメインストリーム、北千住駅西口に程近いトポス北千住店近くには大型マンションの建設も囁かれている。2017年春にはフィットネスクラブ大手・ルネサンスによる大規模スポーツ施設「(仮称)スポーツクラブ ルネサンス 北千住」をオープン予定だ。

 このように開発が進む北千住は、今後も「北千住地域の人口増加による地価・住宅価格上昇傾向は続く」と国内金融機関の不動産担当者も太鼓判を押す。事実、北千住駅周辺の公示地価平均も2011年には60万400円、1坪当たり198万4793円だったが、2014年には63万7500円、1坪当たり210万7438円と上昇が続く。ゆえに今、世代を問わず“終の棲家”を求める人たちからの熱い視線を集めている。

駅から4分の好立地に1000万円の中古戸建て

 そんな北千住に今、中古といえども1000万円以下の戸建て住宅や300万円以下のマンションが存在するとはにわかに信じがたい。地元不動産業者はその事情を次のように明かす。

「築年数が古い。それに尽きます。それでも昭和60年代の建築ですから。もちろんリフォームなどしなくともそのままお住まいになれます」

 だがいくら北千住という街が魅力的でも駅から何十分、さらにバスを乗り継いでと劣悪な条件なら物件購入には二の足を踏む。では北千住のリーズナブル物件の立地はいかなるものなのか。

 価格1000万円のある中古1戸建て物件は、不動産業者の広告によると北千住駅から徒歩4分の距離に位置するとしていた。なるほど実際に歩いてみると男性の足ならば3分もかからない。女性がゆっくり歩いても5分の距離だ。物件を目にしてみたが築年数相応とはいえ、特別、リフォームの必要性も感じない。



不動産サイトに掲載されていた、北千住駅徒歩4分の1000万円の中古一戸建て

 北千住駅の周辺で徒歩10分圏内は、ショッピングモール、商店街のほか歓楽街が犇く“繁華街”だ。日常生活では都心とほぼ変わらないサービスが受けられて、とっても便利だ。

 最近、結婚により北千住に越してきたという主婦(30代)は、「高級店と安売り店が1つ街に同居しており生活しやすい」と語る。食料品ひとつとっても「肌感覚だが、物価は都心に比べて約2割安い」(同)と話す。事実、惣菜屋が売る弁当ひとつとっても220円から300円以下の低価格帯のものが目に付く。歓楽街に目を向けても、いわゆる「せんべろ」の店が充実し、キャバクラ相場も30分・6000円と都心に比べてリーズナブルだ。

下北沢や吉祥寺のような文化発信都市を目指す?

 ともすれば住宅地といえば、営業する商業施設は夜閉店が早いとのイメージがあるはず。だが多くは深夜、明け方まで営業が行なわれており、生活上では都心のそれと何ら変わらない。これは近年、観光都市としての性格を帯びてきたことが大きい。東京スカイツリーが見える立地と眺望のよさ、今や全国的な観光イベントにまで成長しつつある「足立の花火」などがそれだ。

 文化面でも充実している。北千住駅近くには収容人数700人規模の「シアター1010」や「天空劇場」といった劇場がある。大学キャンパスもあり一定数の若い世代が住み続ける北千住は、将来的には「下北沢や吉祥寺のような文化発信の拠点都市となる可能性を秘めている」(国内金融機関不動産担当者)という声も多々耳にする。実際、カルチャーセンター、文化教室など「学びの場も充実している」(30代主婦)ことも、地価、住宅価格高騰に拍車をかける要因といえよう。

 北千住地域の人口流入増加は2004年2月の駅西口の再開発事業完了、千住ミルディスの開業以降と符合する。公示地価は2005年を境に以降上昇が続いている。

 さてその北千住を象徴する北千住駅といえば、漫画『クレヨンしんちゃん』の主人公の母・野原みさえがプロポーズを受けた場所とされている。その時期は2002年。平成の「理想の家族」像とされる野原家は、今、東京のベッドタウンである埼玉県在住だという。

 もし野原家が2002年に北千住に家を買っていたら、今、かなりの高騰が見込めた筈だ。この地価高騰と物件高に、「オラ、信じらんねぇ」と嘆くのはクレヨンしんちゃんだけではないだろう。

(取材・文/大越冴子)