ツイッターで商品化、#激怒T シャツはSNSマーケの新時代を作ったのか?/日野 照子
誤字ツイートから1日で商品化決定。「面白そう」と「スピード」、「話題作り」でニッセンの激怒Tシャツはソーシャルメディアマーケティングの未来を拓いたのか。
個人的にツイッターを使いはじめてかれこれ4,5年になるが、ずっと気になっていたことがある。ツイッターが果たしてビジネスツールとして有効なのか、ということである。その一つの答えとして、「面白そう」なことで「話題作り」をし、早い「スピード」で実現する、というソーシャルメディアマーケティングを目の当たりにしたのでご紹介したい。
そもそも、総務省の平成25年調査結果*1を見ると個人のソーシャルメディアの利用目的は『従来からの知人とのコミュニケーション』が年代で差があるものの73%〜83%と圧倒的高ポイントである。ついで『知りたいことの情報を探す』が33%〜44%で続く。個人としては、オフラインでのつながりがネットより優先、情報源としてはある程度使える、というところであろうか。このユーザー像に対して、どう働きかければ有効だろうか。単純に考えれば、オフラインでの知り合いに近いコミュニケーションをとり、自社の情報提供を積極的に行うということになる。
現に、ツイッターには企業公式アカウントというものが多数存在していて、その目的は直接的な商品広告や宣伝というよりは、『企業全体のブランディング(50.2%)』『広報活動(33.9%)』を主目的としている。そのために『担当者のキャラクターに工夫し好感をもってもらうように努める(44.9%)』とともに、ツイッターだけでは情報量が限られるので『自社サイト・自社ブログへのリンク付きつぶやき(38.8%)』で自社サイトへ誘導する。経年変化を見ても、この広告・宣伝より広報、という使い方は定着しつつあるように思われる。*2 やはりそんなものか、と思いつつも、なんだかつまらない。これだけ普及してきたSNSをもっと他にも使えないものなのだろうか。
そんな中で起こったのが、通販カタログのニッセンの激怒Tシャツ商品化なのである。簡単にまとめれば、ニッセン(@nissen)の担当スミス氏が「激怒した」を「激怒T」と誤ってツイートし、パイン(株)(@pain_ame)の担当氏が激怒TってTシャツみたい、と拾ったことから、激怒と胸に書いたTシャツの商品化が決定された、というだけの話である。友達との他愛のない会話からTシャツのデザインを思いついて、会社に提案したら採用された、というのとあまり変わらない。違うのは、これがツイッターという公開の場での会話であり、無関係の人々からの「面白そう」という反応が即時にあったことだけなのだ。そして、この「面白そう」がコンテンツを後押しする。
もう一つ、重要なファクターが「スピード」である。この激怒Tシャツは驚くべき速さで商品化の意思決定がされる。2015年1月8日14時頃に発端となった誤字ツイートがあり、翌1月9日12時前に商品化決定のツイートがあるのである。あたりまえながら、商品化するためには、「どれくらい売れるのか?」という問いに答えなければならない。通常の企業ならそれなりの市場調査をしてから上申するのではないだろうか。今回スミス氏はおそらく、数百人レベルのツイッターでの反応があった時点で商品化を企画している。Tシャツのプリントデザインであれば比較的商品化しやすいとは思われるが、それにしても次の日に「上司の承認とったぞ」はさすがに驚く。
「面白そう」なだけの企画を異例の「スピード」で意思決定する。なぜ、そんなことができたのか。これは、あくまでも想像だが、ニッセンが企業公式アカウントたちによる「話題作り」の力を信じたからではないだろうか。彼らはすでにツイッター契機での異業種コラボをいくつか実現していて、「面白い」ものに人が集まることを経験値として持っている。この #激怒T に企業公式アカウントたちが便乗し、拡散される様をほぼリアルタイムで見ていたが、企業ブランディングや広報を担当しているのであろう彼らの「面白そう」に対する感度は、さすがなのである。この企業公式アカウントたちの反応を見て、ニッセンは商品化を決意するのだ。
この件に関して先日、面白い記事が公開された。『激怒Tシャツ騒動を可視化。話題拡散に寄与したアカウントは?』(http://buzzoo.jp/social/article/4337)というツイッター情報分析結果である*3。集計期間が1月8日から13日なので、意思決定後の動きも含まれているが、「話題作り」がどのように行われたかがわかりやすい。詳しくはこの記事を見てもらいたいが、この分析で、『実際のやり取りで楽しむ集団』と『ネットの1つの話題として楽しむ集団』の二つの集団が見られるのが興味深い。そして、個人的に注目したのは、この二つの集団を橋渡ししているシャープ公式アカウント(@SHARP_JP)の存在である。シャープ公式は18.7万のフォロワーを擁している。これはニッセン7.7万、パインアメ5.1万を足したより多い。Tシャツにまったく関係のない電機メーカーが「話題作り」に貢献するというこの事実もSNSの可能性を秘めている。
「面白そう」と「スピード」が、ソーシャルメディアマーケティングのカギになる。そして、うまく流れを作るには、「話題作り」が欠かせない。常日頃から積極的にコミュニケーションを図り、親しみやすいというブランディングに成功している企業公式アカウントをうまく巻き込むことは、かなり有用のようだ。
この激怒Tの話題が最も盛り上がった1月13日の終わりに、いわば企業公式仲間のタニタ公式アカウント(@TANITAofficial)が『今回のニッセンスミスさんの件は、企業アカに取って大きな一歩だと感じる。今後、「激怒T以前、以後」と語り継がれることだろう。2015/01/13 21:04』とツイートしている。まだ、販売日未定で、どれくらい売れるかわからないので、結論を出すのは早いが、面白い事例になったのではないだろうか。当のニッセンスミス氏のツイッターでのデザイン投票(これも5,600件超の反応があった)が終わって一段落したときのツイートが秀逸だったので最後にご紹介しておきたい。まさにオチが楽しみなソーシャルメディアマーケティング事例である。
『ツイッターの/みんなでつくる/#激怒T/オチがわからぬ/それがよし
(担当者の心中を詠みける歌)2015/01/20 17:54』
参考資料
*1 総務省「平成25年通信利用動向調査の結果」
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/140627_1.pdf
*2 NTTコムリサーチ「第6回 企業におけるソーシャルメディア活用に関する調査」
http://research.nttcoms.com/database/data/001902/index.html
*3 NTTコムオンライン・マーケティング・ソリューション(株)http://buzzoo.jp/about
*4 各アカウントのフォロワー数は、2015年1月27日調べ。
個人的にツイッターを使いはじめてかれこれ4,5年になるが、ずっと気になっていたことがある。ツイッターが果たしてビジネスツールとして有効なのか、ということである。その一つの答えとして、「面白そう」なことで「話題作り」をし、早い「スピード」で実現する、というソーシャルメディアマーケティングを目の当たりにしたのでご紹介したい。
現に、ツイッターには企業公式アカウントというものが多数存在していて、その目的は直接的な商品広告や宣伝というよりは、『企業全体のブランディング(50.2%)』『広報活動(33.9%)』を主目的としている。そのために『担当者のキャラクターに工夫し好感をもってもらうように努める(44.9%)』とともに、ツイッターだけでは情報量が限られるので『自社サイト・自社ブログへのリンク付きつぶやき(38.8%)』で自社サイトへ誘導する。経年変化を見ても、この広告・宣伝より広報、という使い方は定着しつつあるように思われる。*2 やはりそんなものか、と思いつつも、なんだかつまらない。これだけ普及してきたSNSをもっと他にも使えないものなのだろうか。
そんな中で起こったのが、通販カタログのニッセンの激怒Tシャツ商品化なのである。簡単にまとめれば、ニッセン(@nissen)の担当スミス氏が「激怒した」を「激怒T」と誤ってツイートし、パイン(株)(@pain_ame)の担当氏が激怒TってTシャツみたい、と拾ったことから、激怒と胸に書いたTシャツの商品化が決定された、というだけの話である。友達との他愛のない会話からTシャツのデザインを思いついて、会社に提案したら採用された、というのとあまり変わらない。違うのは、これがツイッターという公開の場での会話であり、無関係の人々からの「面白そう」という反応が即時にあったことだけなのだ。そして、この「面白そう」がコンテンツを後押しする。
もう一つ、重要なファクターが「スピード」である。この激怒Tシャツは驚くべき速さで商品化の意思決定がされる。2015年1月8日14時頃に発端となった誤字ツイートがあり、翌1月9日12時前に商品化決定のツイートがあるのである。あたりまえながら、商品化するためには、「どれくらい売れるのか?」という問いに答えなければならない。通常の企業ならそれなりの市場調査をしてから上申するのではないだろうか。今回スミス氏はおそらく、数百人レベルのツイッターでの反応があった時点で商品化を企画している。Tシャツのプリントデザインであれば比較的商品化しやすいとは思われるが、それにしても次の日に「上司の承認とったぞ」はさすがに驚く。
「面白そう」なだけの企画を異例の「スピード」で意思決定する。なぜ、そんなことができたのか。これは、あくまでも想像だが、ニッセンが企業公式アカウントたちによる「話題作り」の力を信じたからではないだろうか。彼らはすでにツイッター契機での異業種コラボをいくつか実現していて、「面白い」ものに人が集まることを経験値として持っている。この #激怒T に企業公式アカウントたちが便乗し、拡散される様をほぼリアルタイムで見ていたが、企業ブランディングや広報を担当しているのであろう彼らの「面白そう」に対する感度は、さすがなのである。この企業公式アカウントたちの反応を見て、ニッセンは商品化を決意するのだ。
この件に関して先日、面白い記事が公開された。『激怒Tシャツ騒動を可視化。話題拡散に寄与したアカウントは?』(http://buzzoo.jp/social/article/4337)というツイッター情報分析結果である*3。集計期間が1月8日から13日なので、意思決定後の動きも含まれているが、「話題作り」がどのように行われたかがわかりやすい。詳しくはこの記事を見てもらいたいが、この分析で、『実際のやり取りで楽しむ集団』と『ネットの1つの話題として楽しむ集団』の二つの集団が見られるのが興味深い。そして、個人的に注目したのは、この二つの集団を橋渡ししているシャープ公式アカウント(@SHARP_JP)の存在である。シャープ公式は18.7万のフォロワーを擁している。これはニッセン7.7万、パインアメ5.1万を足したより多い。Tシャツにまったく関係のない電機メーカーが「話題作り」に貢献するというこの事実もSNSの可能性を秘めている。
「面白そう」と「スピード」が、ソーシャルメディアマーケティングのカギになる。そして、うまく流れを作るには、「話題作り」が欠かせない。常日頃から積極的にコミュニケーションを図り、親しみやすいというブランディングに成功している企業公式アカウントをうまく巻き込むことは、かなり有用のようだ。
この激怒Tの話題が最も盛り上がった1月13日の終わりに、いわば企業公式仲間のタニタ公式アカウント(@TANITAofficial)が『今回のニッセンスミスさんの件は、企業アカに取って大きな一歩だと感じる。今後、「激怒T以前、以後」と語り継がれることだろう。2015/01/13 21:04』とツイートしている。まだ、販売日未定で、どれくらい売れるかわからないので、結論を出すのは早いが、面白い事例になったのではないだろうか。当のニッセンスミス氏のツイッターでのデザイン投票(これも5,600件超の反応があった)が終わって一段落したときのツイートが秀逸だったので最後にご紹介しておきたい。まさにオチが楽しみなソーシャルメディアマーケティング事例である。
『ツイッターの/みんなでつくる/#激怒T/オチがわからぬ/それがよし
(担当者の心中を詠みける歌)2015/01/20 17:54』
参考資料
*1 総務省「平成25年通信利用動向調査の結果」
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/140627_1.pdf
*2 NTTコムリサーチ「第6回 企業におけるソーシャルメディア活用に関する調査」
http://research.nttcoms.com/database/data/001902/index.html
*3 NTTコムオンライン・マーケティング・ソリューション(株)http://buzzoo.jp/about
*4 各アカウントのフォロワー数は、2015年1月27日調べ。