「夢は正社員」が不評だった本当の理由(わけ)/日野 照子
民主党CM女性の味方編「夢は正社員になること」に疑問を抱いた人は多いが、実際はどうなのか。イメージ論より、データを見てみよう。
2014年12月、にわかに降ってわいたような衆議院議員総選挙の選挙戦さなか、テレビ放映された民主党CM女性の味方編。(https://www.youtube.com/watch?v=-ZegL8KOtTM)
「夢は正社員になること」「安心して子育てしたいです」「お金を貯めて結婚したいです」という3人の若い女性が出てくる。結婚して子育てしたい、という女性がいてもいいが、"働く女性"に「夢は正社員」と言わせるのは、いくらなんでもセンスが悪い。
案の定、放映直後から、いろいろなところで批判コメントが続出したので、目にしたこともあると思う。いわく、多様性を否定している、非正規をダメなものと決めつけている、正社員を理想化しすぎている、云々。「小さい夢だな」と嘲笑う高度経済成長世代に、「夢が正社員で何が悪いのか」と反論する若者、という派生型も見かけた。
いまさら、そのまま蒸し返しても仕方がない。このCMは、ターゲットが狭すぎたということと、本質的な問題からズレているという二重苦でダメだったというだけのことだ。それよりも気になったのは、当のCMもネット上の反応も、あまりにもイメージ論に過ぎないか、と言うことだった。
総務省の「労働力調査」*1によれば、2013年平均で非正規の職員・従業員は全労働者の36.7%、1906万人おり、その内68.0%、1296万人が女性である。確かに人口の1割もいるのだから無視はできないと思うかもしれない。しかし、この中で「正規の仕事がないから非正規」という人は172万人(14.1%)しかおらず、「転職等希望者」も290万人(22.4%)しかいない。素人目にも、テレビCMでアピールするには少ないような気がする。
そもそも、非正規雇用の女性が、現在の雇用形態についた主な理由を見ると最も多い「家計の補助・学費等を得たいから=328万人(26.8%)」以外の主だった理由は、552万人(42.6%)の人が選ぶ"時間的な自由"*2なのである。非正規雇用の女性の半数以上が35歳以上であり、家事・育児・介護等を支える人が多いと言うさらに根本的な社会問題のせいもあるが、働き方の問題で重要なのは賃金より勤務形態に見える。どうしても拘束時間が長くなる正社員が夢にはなりえない。
結局、正社員が夢、という発想が生まれるのは、非正規雇用者の待遇が悪いというイメージだけなのだ。同一労働同一賃金とはほど遠い賃金格差で年収は低く、教育機会も与えられず、虐げられているというイメージ。実際には、女性は正社員でも248万人(24.2%)が年収200万未満であり、雇用形態の問題ではないことがわかる。(ちなみに男性の正社員で年収200万未満の人は160万人(7.1%)しかいない。)夢のはずの正社員の長時間拘束される働き方や、根強い差別待遇の方がよほど問題なのである。
一方の企業にとって、人件費は地代家賃と共に、非常に重くのしかかるコストである。実際、この10数年のコンサル経験の中で、人件費削減を求められないケースはまずなかった。IT導入と作業の効率化で要員数を減らす、携わる要員を正社員から契約社員や派遣社員へ変えることで人件費単価を下げる、あるいは地方や海外の企業へ委託して安くかつ流動費化する。こんな手法ばかりだった。
人件費を圧縮したい企業の立場からすれば、「夢は正社員?やめてくれ〜」ということでしかない。派遣法の改正で派遣社員を直雇用の契約社員にするだけでも社会保障負担が重くなった。この上、せっかく下げた人件費を上げろというのか。だったら、日本での雇用を減らして海外へ出すけど、本当にそれでいいの?というところだろう。
民主党CM「女性の味方編」はことほど左様に、いろんな面から残念なものだった。
これから先、人口減少・超高齢化がどんどん進んでいく中での働き方は、こんなイメージ論でなく、多様なデータを集めて、多方面からきちんと考えた方がいいと思う。
注記*1) 文中の数字は、総務省『労働力調査』平成25年平均結果の概要?詳細集計から転載、または実数から比率を計算したものです。(http://www.stat.go.jp/data/roudou/report/2013/pdf/summary2.pdf)
注記*2) 552万人の内訳は次の通りです。「自分の都合のよい時間に働きたいから=311万人(25.4%)」「家事・育児・介護等と両立しやすいから=194万人(15.9%)」「通勤時間が短いから=47万人(3.8%)」
2014年12月、にわかに降ってわいたような衆議院議員総選挙の選挙戦さなか、テレビ放映された民主党CM女性の味方編。(https://www.youtube.com/watch?v=-ZegL8KOtTM)
「夢は正社員になること」「安心して子育てしたいです」「お金を貯めて結婚したいです」という3人の若い女性が出てくる。結婚して子育てしたい、という女性がいてもいいが、"働く女性"に「夢は正社員」と言わせるのは、いくらなんでもセンスが悪い。
いまさら、そのまま蒸し返しても仕方がない。このCMは、ターゲットが狭すぎたということと、本質的な問題からズレているという二重苦でダメだったというだけのことだ。それよりも気になったのは、当のCMもネット上の反応も、あまりにもイメージ論に過ぎないか、と言うことだった。
総務省の「労働力調査」*1によれば、2013年平均で非正規の職員・従業員は全労働者の36.7%、1906万人おり、その内68.0%、1296万人が女性である。確かに人口の1割もいるのだから無視はできないと思うかもしれない。しかし、この中で「正規の仕事がないから非正規」という人は172万人(14.1%)しかおらず、「転職等希望者」も290万人(22.4%)しかいない。素人目にも、テレビCMでアピールするには少ないような気がする。
そもそも、非正規雇用の女性が、現在の雇用形態についた主な理由を見ると最も多い「家計の補助・学費等を得たいから=328万人(26.8%)」以外の主だった理由は、552万人(42.6%)の人が選ぶ"時間的な自由"*2なのである。非正規雇用の女性の半数以上が35歳以上であり、家事・育児・介護等を支える人が多いと言うさらに根本的な社会問題のせいもあるが、働き方の問題で重要なのは賃金より勤務形態に見える。どうしても拘束時間が長くなる正社員が夢にはなりえない。
結局、正社員が夢、という発想が生まれるのは、非正規雇用者の待遇が悪いというイメージだけなのだ。同一労働同一賃金とはほど遠い賃金格差で年収は低く、教育機会も与えられず、虐げられているというイメージ。実際には、女性は正社員でも248万人(24.2%)が年収200万未満であり、雇用形態の問題ではないことがわかる。(ちなみに男性の正社員で年収200万未満の人は160万人(7.1%)しかいない。)夢のはずの正社員の長時間拘束される働き方や、根強い差別待遇の方がよほど問題なのである。
一方の企業にとって、人件費は地代家賃と共に、非常に重くのしかかるコストである。実際、この10数年のコンサル経験の中で、人件費削減を求められないケースはまずなかった。IT導入と作業の効率化で要員数を減らす、携わる要員を正社員から契約社員や派遣社員へ変えることで人件費単価を下げる、あるいは地方や海外の企業へ委託して安くかつ流動費化する。こんな手法ばかりだった。
人件費を圧縮したい企業の立場からすれば、「夢は正社員?やめてくれ〜」ということでしかない。派遣法の改正で派遣社員を直雇用の契約社員にするだけでも社会保障負担が重くなった。この上、せっかく下げた人件費を上げろというのか。だったら、日本での雇用を減らして海外へ出すけど、本当にそれでいいの?というところだろう。
民主党CM「女性の味方編」はことほど左様に、いろんな面から残念なものだった。
これから先、人口減少・超高齢化がどんどん進んでいく中での働き方は、こんなイメージ論でなく、多様なデータを集めて、多方面からきちんと考えた方がいいと思う。
注記*1) 文中の数字は、総務省『労働力調査』平成25年平均結果の概要?詳細集計から転載、または実数から比率を計算したものです。(http://www.stat.go.jp/data/roudou/report/2013/pdf/summary2.pdf)
注記*2) 552万人の内訳は次の通りです。「自分の都合のよい時間に働きたいから=311万人(25.4%)」「家事・育児・介護等と両立しやすいから=194万人(15.9%)」「通勤時間が短いから=47万人(3.8%)」