AMHという検査をご存知でしょうか? 卵巣から出ているAMH(抗ミュラー管ホルモン)というホルモンを測ることで「あとどのくらい排卵し続けることが可能か」が予測できる検査です。

筆者も気付けば今年で36歳。過去に妊娠の経験もナシ。“私、まだ産めるのだろうか”頭に浮かんできた漠然とした不安。

筆者同様、仕事や趣味を優先して気付けば妊娠適齢期と呼ばれる歳を越えていたという人も多いはず。そこで、ポートサイド女性総合クリニック ビバリータで実際にAMH検査を受け、院長の清水なほみ先生に妊娠経験のないアラサー女性のためのアドバイスを聞いてきました。

検査結果と「卵子の質」は別の話

――AMH検査とはどういうものですか?

清水なほみ先生(以下、清水):AMHとはアンチミューラリアン・ホルモンの略で、発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンのことです。これを測ることで卵巣内にどのくらいの卵の数が残っている数を予測することができるので、卵巣の予備能力がわかる検査といわれています。

卵子の数は産まれたときから決まっていて、年齢とともに減少していきますが、その数に「正常値」があるわけではありません。年齢別に「基準値」が設定されているので、そのレベルと照らし合わせることで自分の残っている卵子の数が実際の年齢に対して多いのか、少ないのかを見ます。検査は採血による血液検査のみで、1週間くらいで結果がわかります。

――その数値が正常ならば、まだ自然妊娠できる可能性があると思っていいのでしょうか?

清水:それは大きな間違いです。数値が高ければ排卵に向かう卵の数が多い=卵のストックがたくさんあるということになりますが、排卵する卵が「妊娠に適している質」であるかどうかは別問題。わかるのはあくまで「年齢相応又はそれ以上のスタンバイしている卵があります」というだけです。

――では、実際にどんな方が検査を受けに来るのですか?

清水
:20代の方では今すぐ妊娠を希望するわけではないけれど、生理不順や親が妊娠で苦労した方など、何かしらの不安材料がある方が検査する場合が多いです。でも一番多いのは「今後妊娠可能かどうか」を調べたいという30代の方ですね。

実際は40代の方で希望される方も多いのですが、実はその年齢になると検査の意味があまりなくなってしまいます。というのは、先にも述べた通りこの検査結果と「卵子の質」は別の話だからです。40歳以上の方はAMHの結果がよくてもすでに妊娠率は低下しているので、排卵する力があっても卵子の質が妊娠に向かなくなってきている可能性もあります。ですから、AMH検査で安心するのではなく、妊娠を希望するなら一刻も早く環境を整えて、不妊検査や治療を受けた方が現実的だと思います。

AMH検査は自分の妊娠プランを考え直す指標

――では、この検査のメリットは?

清水:早期閉経の可能性を見つけるという意味ではとても有効な検査です。この検査で数値が実年齢よりも低かった場合、卵巣の働きが失われるスピードが普通の人より早い可能性があるということです。結果が悪かったからと言って「妊娠できない」というわけではないけれど、少なくとも「妊娠を目指す時期を早めに設定した方がいい」ということは言えます。

またすでに妊娠を目指している方で、なかなか妊娠できない方へのステップアップの判断材料としても有効です。数値が低かった場合、高度な不妊治療へと進むのか、それともそこまでして子供は欲しくないのか。自分の妊娠プランを考え直す指標になります。

――将来妊娠したいと考えているけれど、今は仕事が忙しいので先延ばしにしたいと考えているアラサー女性も多いですが、その様な人にも有効な検査ですね。

清水:その通りで、検査を受ける方の中にはそういう方が多いのも事実です。そこで数値が低い場合、自分のやりたいことと妊娠のどちらを優先させるかを考えなければなりません。また今は数値が正常でも5年後はどうなるかわかりません。そのため、どうしても将来の妊娠の可能性を閉ざしたくない方には、卵子を取れるうちに採取して凍結保存するという選択肢も出てきます。

例えば、結婚していてご主人の同意がある方ならば、受精卵を凍結保存し、いざ妊娠を目指すときに体外受精に使う方法も考えられる。この検査は「子供が欲しいなら急いだ方がいい」という指標にはなりますが、「妊娠を後回しにしてもいい」安心材料には一切なりません。自分がどれくらいの強さで妊娠を希望するのか、しっかり考えることが必要です。

この年齢まで妊娠できなかったら諦めるリミットは意識した方がいい

――実際、私の数値は36歳で5.44ng/mlと年齢相応でした。ほかの検査を受けていないので総合的なことは言えませんが、この結果だけを見てどんなことがわかりますか?

清水:数値は平均的なので、今のところ早期閉経の可能性はなさそうです。ただ年齢的な妊娠率でいうと若干低下する年齢なので、妊娠を強く希望するのであれば普通に急いだ方がいい。ライフプランを考えるのであればあと1、2年のうちに妊娠できる状況を整えて妊娠を目指した方がいいですね。

――どこかでホッとしている自分もいますが、正直「もっと数値が悪かったら、スパッと子供はいらない」と決心できた気もしてモヤモヤしているというのが正直な気持ちです。

清水:子供を持つ決断を他人に委ねたいという人は少なくないです。妊娠は積極的に望まないけれど、避妊をするわけでもない。もし妊娠したら“できちゃったから仕方ない、子供を産もう”という選択を自分にさせたい心理なんでしょうね。そういう考えもありだし、悪いことではないですよ。

でも、いざできないとわかったときに後悔しないように、この年齢まで妊娠できなかったらきっぱり諦められるというリミットは意識した方がいい。例えば38歳を過ぎそうなときにもう一度自分に問いて、諦められないと思ったら40歳前には体外受精をするというところまで検討した方がいいと思います。

規則正しい生活や婦人科疾患の予防に努めることは大切

――卵子の減少を遅らせるということはできないのでしょうか。

清水:身体に組み込まれたプログラムのペースを変えることはできません。でも、卵巣機能の低下を早めないようにすることは可能です。例えばタバコは卵巣の寿命を10年縮めます。子宮内膜症などで卵巣の手術を繰り返すと正常な組織も減ってしまうため、閉経を早めてしまう可能性があります。卵巣予備能力を落とさないためにも、規則正しい生活や婦人科疾患の予防に努めることは大切です。

――妊娠を望む30代が普段から気をつけることはありますか?

清水:乱れた食生活や不規則な生活はNG。健康的でストレスのない生活を心がけることが一番です。そして定期検診をしっかりと受けること。AMH検査は自費で高額な検査ですが、子宮頸がん検診は自治体の補助を使えばそれほど自己負担はありませんし、筋腫や卵巣嚢腫の検査は場合によっては保険適応になります。いざ妊娠を目指したら大きな筋腫が見つかった……なんてことにならないように、年に1回は定期的なチェックを受けましょう(「検診」はすべて自費です)。

また30歳を越えたら乳がん検査とマンモグラフィーも必要。不妊症の原因ともなりうる性感染症検査も定期的に受けた方がいいでしょう。

――それらの検査とAMH検査の結果を合わせることで、より明確な妊娠プランが立てられるというわけですね。

清水:はい。繰り返しになりますが、検査結果は「まだ大丈夫」という安心材料には一切なりません。自分がどれくらいの強さで妊娠を希望し、もし自然妊娠が難しい場合はどこまでの治療を受けるのか。しっかりと自分と向き合った上で、検査を受けて欲しいと思います。

(根本聡子)