挑発は「表現の自由」か?/純丘曜彰 教授博士
/いまのフランスは、ユダヤ系・ネイティヴ系・クレオール系の三層構造で、EU不況が加わり、解決の難しい問題を抱えている。その背景を知らずに、一方のメディア戦略に乗せられると、日本まで無用の敵意を受けることになる。/

毎日、毎日、貧乏なイジメられっ子を執拗にからかっていたら、ある日、窮鼠猫を噛む、で、そいつがいきなり反撃してきて、逆にフルボッコにされ、それで、ボクはボーリョクには屈しないぞぉ、って、そりゃ暴力はいけないし、死んだ人には哀悼の念は抱くけど、そんなマンガを地で行くようなのって、やっぱり、あまりにバカじゃないの。おまけに、そーだ、そーだ、団結だ、連帯だ、って、なにか怪しくないか。最初から、誰か全体の絵図画いた悪いやつがいるんじゃないか、と勘ぐりたくなる。

モンマルトルの丘の東、パリ18区と19区。あまり観光では行かないだろう。というより、行かない方がいい。いま、フランスは、どうにもならない問題を抱えている。ニュースで「移民」などと言っていたが、「クレオール」は、れっきとしたフランス人だ。かつてフランスは、中南米やアフリカに広大な植民地を持っていた。しかし、戦後のフランスの国力低下で、これらが独立した結果、クレオール、つまり、植民地生まれのフランス人(白人、アフリカ人、中南米人、その混血などなど)が大量にフランス本国に引き揚げてくることになった。くわえて、本国では、スペインやオランダから移り住んだユダヤ系(セファルディム)が戦前から強力な支配人脈を作っており、これにナチスドイツ崩壊後のドイツや東欧のユダヤ系(アシュケナージュ)が加わった。

雑に言えば、いまのフランスは、ユダヤ系、ネイティヴ系、クレオール系の三層構造の社会になっている。しかし、EU統合で既得権者が強大な富を得る一方、ドイツ製品の流入で、クレオール系はもちろんネイティヴ系まで、若者を中心に未曾有の失業不況にあえいでおり、その敵意は、パリ市西部の高級住宅街16区パッシー、中央のユダヤ系街4区マレに向かっている。さて、この情況で、クレオール系を挑発し、ネイティヴ系と分断して、「国際社会」に団結を呼びかけているのは、いったい誰だ?

ドイツやイタリア、オーストリアでも、情況は似たようなもの。南イタリア(旧ナポリ・シチリア王国)や旧東ドイツ、ウィーンなどには中国系やトルコ系、東欧系が大量流入しており、ネオナチやマフィアが、一般市民にまで、ひそかな支持を得てしまっていて、政権中枢まで入り込むほどの勢いだ。

かつてパリ市では、地下レジスタンスの連中が武装し、ナチス(多くのフランス人ファシストを含む)の支配を打破すべく、文字通りの「テロ」を繰り返した。昨年夏からイラクやシリアでは、「テロ国家」のイスラム国を空爆し、事実上の焦土化で、その拡大を食い止めている。かつて「特攻」というテロをやった大日本帝国に対する東京や大阪の大空襲、広島や長崎の原爆もまた、本土の一般国民が震え上がる「テロ」でしかなかった。

頭の軽い連中は、すぐメディアに乗せられる。うまく情報を流そうとする連中は、もっともらしい大義名分とスペクタクル(見世物)を抱き合わせにする。だが、だれが挑発し、だれがニュースを流しているのか、そこに隠された意図はないのか、メディア・リテラシーとして、よく自分の頭で考えてみた方がいい。

ものごとは、一面からだけ見ているとよくわからない。よくわからないことは、よくわかるまで静観するのも、知恵というものだ。自分の国ですら、周辺にいろいろ面倒な問題を抱えているのに、ヨーロッパの内情も知らない垂れ流しメディアで調子に乗せられているうちに、いつのまにか、彼らの「連合国」の側に入れられ、関係も無いのに、パレスチナや中東利権の問題にまで巻き込まれ、余計な敵意を受けることになってしまうぞ。

(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。著書に『悪魔は涙を流さない』などがある。)