「日本企業にはチームがない」 - 顧客ロイヤルティ向上に不可欠なチーム力アップ/松尾 順
顧客ロイヤルティ向上のためには、カスタマージャーニーを構成するあらゆるタッチポイントにおいて、最大の顧客満足を提供することが必須です。

このためには、それぞれのタッチポイントの間の相互連携性の高さ、一貫性の高さが求められますから、様々な部門・部署間での「顧客データ」の共有と、円滑なカスタマージャーニーを可能にする部署間の相互協力体制を確立する必要があります。

「顧客ロイヤルティ向上」は、今や企業の全部門が一丸となって取り組むべき重要な経営課題のひとつです。

従来のように、コールセンターなどの既存顧客との人的なタッチポイント(顧客接点)を担当する顧客サービス部門だけの課題ではもはやありません。

顧客ロイヤルティ向上のためには、カスタマージャーニーを構成するあらゆるタッチポイントにおいて、最大の顧客満足を提供することが必須です。

このためには、それぞれのタッチポイントの間の相互連携性の高さ、一貫性の高さが求められますから、様々な部門・部署間での「顧客データ」の共有と、円滑なカスタマージャーニーを可能にする部署間の相互協力体制を確立する必要があります。

ただ、こうした全社一丸となっての顧客ロイヤルティ向上の取り組みを阻害する要因として最も大きいのは、硬直化した「縦割り組織」です。

それぞれの部署がかっちりとしたピラミッド構造に組み込まれていると、他の部署との交流があまり行われず、それぞれの部署だけでの部分最適化を目指してしまいがち。すなわち、部署はそれぞれ個別のKPIで成果を追求するため、KPI間での利害対立が起き、協力しあうどころか、部署間で反発しあうことさえ起こりますね。

したがって、縦割りの上意下達的な関係だけではなく、他の部門間との横の関係性を強化し、「チーム」として機能するような組織運営を目指すことが、全社共通の課題である「顧客ロイヤルティ向上」のためには必要なのです。

さて、従来、集団主義の傾向が強い日本では、同僚との協力関係形成は得意領域だと考えられてきましたが、近年はそうでもないようです。

実際、日経MJ(2015/01/5)記事「マーケッター3トップ座談会」において、資生堂社長、魚谷雅彦氏は、「マーケティングが経営そのものにならない日本企業が多い。何が壁でしょうか。」という問いに対して、次のように答えています。

"米国もそうかもしれないが、日本企業の多くは縦割りが障害になる。日本企業にはチームがない"(コメント一部割愛しています)

魚谷氏の言う「チーム」とは横の部署間連携のことだと思いますが、技術系ベンチャーを支援するコンサルティング会社、「インテカー」社長、斎藤ウィリアム浩幸氏もまた、

「日本にはチームがない」

と指摘しているのです。

斎藤氏によれば、日本には「グループ」はあっても「チーム」はないと感じています。

チームとグループの違いは、パッション(情熱、魂)の有無です。チームは、共通目標をパッションを持って達成するため、お互いに積極的に助け合う関係なのです。

ところが、今の日本企業、とりわけ伝統的な大企業では、それぞれの部門において設定された目標だけを考え、与えられたそれぞれの役割をたんたんと遂行するだけのことが多い。このため、「顧客ロイヤルティ向上」といった全体目標を共有して積極的に助け合おうとする「パッション」が足りないのです。そうした仕事の進め方は、一見協力しあっているように見えるが、単なる「グループ」にすぎないと斎藤氏は感じるわけです。

また、チームにおいては、リーダーはいてもメンバーに階層的な上下関係はなく、みんな対等なパートナーというのがチームの本質ですが、上下関係を重視しすぎる日本においてはチーム化が難しいとも、斎藤氏は指摘するのです。

では、日本企業においてチーム力を高めるためには具体的にどんなことが必要なのでしょうか。

そもそも日本企業において近年、部署間の相互交流が薄まり、チームとして機能しにくくなったのは、「社員旅行」や「運動会」といった組織の枠を超えた全社的な活動が経費削減という目先の目的のために減ったからだとも言われています。

そこで、近年は再び、運動会のような親睦行事の意義を見直し、復活させる、あるいは新たに施策として取り入れる企業が増えてきています。

そして、JTBでは「職場旅行3.0」、JTBモチベーションズでは「超運動会」というサービスでこうした動きを支援する企業も出てきています。また、企業内ではなく、複数企業間の対抗戦を行う、世界的な取り組みである「ザ・コーポレートゲームズ東京」が開催されるといった動きも出てきています。

また、親睦行事的なものだけでなく、レゴブロックなどを用いたワークショップスタイルの研修に対する人気も高まりつつあるようです。

個々人としてではなく、チームとして成果を出すためにどう仲間と協力し、コミュニケーションを取るべきかを学ぶことのできる施策は、今後ますます重視されるようになってくると思います。

●関連リンク:

"真のチーム"がないから日本は勝てない(東洋経済オンライン)

社員旅行に運動会 企業の親睦行事、なぜ復活?(2014/01/11)

「職場旅行3.0」(JTBコーポレートセールス)

「超運動会」(JTBモチベーションズ)

ザ・コーポレートゲームズ東京2014

●参考図書:

『ザ・チーム 日本の一番大きな問題を解く』(斎藤ウィリアム浩幸著、日経BP社)