「ホスピタリティ」とは何か?−石丸雄嗣さんインタビュー/松尾 順
独自の「ホスピタリティ・ロジック」を開発された、プレディーカ・マネジメント代表取締役社長の石丸雄嗣さんに「ホスピタリティとは何か?」について解説していただきました。
独自の「ホスピタリティ・ロジック」を開発された、プレディーカ・マネジメント代表取締役社長の石丸雄嗣さんに「ホスピタリティとは何か?」について解説していただきました。
インタビューをまとめたものですので、「対話形式」でお伝えします。(石:石丸さん 松:松尾)
松:「ホスピタリティ」と「サービス」とは同じような意味合いを持つ言葉として受け止められているように思います。しかし、石丸さんが提唱されているホスピタリティのロジックから見ると、両者は違うものなんでしょうか?
石:全く違います。ホスピタリティとサービスは対義語の関係にあります。両極にある概念なんですよ。
松:そうなんですか!「ホスピタリティ」と「サービス」は似ているどころか、両極にある概念なんですね。今日は、石丸さんから、両者がどのように違うのか詳しくお聞きしたいと思いますが、その前にまず、ホスピタリティの「目的」や、「ホスピタリティとは何か」という基本的なところを教えてください。
石:ビジネスにおけるホスピタリティの目的は、ひとことで言えば「顧客」づくりです。ただ、私の言う「顧客」とは、単なる購入者という意味ではありません。「あなた(の会社)の製品・サービス(無形の便宜提供)を買いたい」と思ってくれているお客様のことです。お客様がそのように思ってくれているからこそ、結果として実際に自社の製品・サービスが売れることになります。
松:「あなた(の会社)から買いたい」というのは、企業に対するお客様のロイヤルティ(忠誠心)、すなわち「顧客ロイヤルティ」が強いということだと言えますか?
石:はい、そう言えます。ただし、ロイヤルティがあるという表現は、企業の立場でお客様を見たものですね。お客様自身が、ある企業や製品・サービスに対してロイヤルティがあると自覚しているわけではありません。
松:確かにそうですね。お客様としては、他の誰からでもなく「あなたから買いたい」と思っているだけ。そんなお客様の気持ちを企業側から説明すると「そのお客様のロイヤルティは強い」といった説明になるのですね。
石:ええ。そもそも製品・サービスは「売れる」のものではありませんよね。無理に売りつける「押し売り」は別として、基本的にはお客様が「買いたい」と思ったからこそ、財布を開いてお金を支払ってくれる。ホスピタリティ・ロジックにおいては、売ることを第一目的に置くのではなく、お客様が「あなたから買いたい」と思ってくれるようになることに取り組むのです。
松:「あなたから買いたい」と思ってくれてる顧客はしばしば、繰り返し購入してくれる固定客、つまりリピーターとなっていきますね。
石:その通りです。でも、ホスピタリティ・ロジックにおいては「リピーター」という言葉も基本的には使いません。お客様が買いたいと思ってくれている。その結果としてリピート、すなわち繰り返し購入してくれるという現象が起きているに過ぎず、「リピーターを増やす」といった発想で考えることはしないのです。
松:では、ホスピタリティ・ロジックにおいて、「あなた(の会社)の製品・サービスを買いたい」と思ってもらうために、どのようなことをすべきなのでしょうか?
石:ひとことっで言えば、ホスピタリティは、基本的には、お客様がうれしい、ありがたいと感じてくれるようなことを'頼まれていなくても'行うスキル(技術)です。
松:頼まれてもいないことを行う・・・?
石:はい。例えば、私がちょっと飲み過ぎた日の翌日に、いつものスターバックスに行って「今日は二日酔い気味なのでコーヒーじゃなくてジュースにしようかな」とバリスタに言うと、「(ひょっとして)お薬飲まれるようだったら・・・」と白湯を添えてくれたことがありました。そのバリスタは、頼まれてもいないのに、私の顔色や体調を気遣ってわざわざ白湯を出してみた。私としてはその気遣いがうれしい。こんなバリスタがいるから、人々はスターバックスに足しげく通ってしまうというわけです。
松:お客様の立場としては、頼んでもいないことだからこそ「気が利くね」と感じられるのですね。
石:そうなんです。あとで詳しく説明しますが、ホスピタリティは技術なんですよ。相手が嬉しい、ありがたいと思うこと、要するに「良いと思うこと」を頼まれもしないのに勝手にやるスキルです。顧客に「白湯をください」と言われて出すのは誰でもできるし、それは単なる「サービス」に過ぎません。
松:つまり、ホスピタリティは、言われてもいないのにすること、一方、サービスは言われたことをするというのが両者の違いですね。
石:はい、両者の違いはたくさんありますが、そのうちのひとつはそれです。またホスピタリティは、お客様が言われた以上のことをしてあげることを含みます。「ここまでやってくれてすごい」と感じてもらえるようなことをやる。
松:しかし、ホスピタリティ・ロジックにおける「サービス」は、そうではない?
石:はい。サービスは「言われてからする」行為であり、基本的には「言われたことしかしない」のです。しかも、しばしば「言われるまでしない」、さらには、「言われてもしない」という状況になりがちです。混んでいる飲食店での店員さんの対応でこんな経験ありますよね?
松:確かに。人手が足りないということもあるかもしれませんが、グラスが空になっていても「おかわりいかがですか?」なんて聞いてこなかったり、あるいは呼びかけても無視するとか・・・
石:そうやってお店としては、せっかくの増収の機会を失っているわけです。
松:なるほど。したがって、収益維持・向上を目指すなら、サービスではなく、ホスピタリティの技術を学び、現場で発揮できるようになることが有効となるんですね。
ところで、ホスピタリティは基本的に、言われてもいないこと、あるいは言われる前に、お客様が喜ぶことをする、あるいは言われた以上のことをするということでしたが、これは「おもてなし」とは違うのでしょうか?
石:実は、ホスピタリティ・ロジックでは、「おもてなし」という言葉も使いません。ひとを「もてなす」ことは、必ずしも相手にとって喜ばしいとは限らない。なぜなら、自分が「良かれ」と思ってやったことが、相手にとってはありがた迷惑ということもあるからです。ホスピタリティとは、相手が良いと思うことをするのであって、自分が良いと思うことを相手にするのではないのです。
松:「おもてなし」というのは自分ありきの発想になっているということでしょうか?
石:そうですね。「自分がしたいことをする」というという発想を「主語論理」と呼びますが、現代において一般的に多用されている「おもてなしをする」という考え方は主語論理になってしまっています。ホスピタリティは、「相手が良いと思うことをしてあげる」という述語論理なのです。あくまで、「相手が主語」なのです。
松:再確認しますが、自分が良いと思うことを相手にするのが主語論理であり、相手が良いと思うことをするのが述語論理ということでしょうか?
石:はい、その通りです。「おもてなしをしよう」と考えるのではなく、相手が良いと思うことをしてあげる。それがホスピタリティです。その結果としてお客様が「もてなされている」と感じるかもしれません。つまり、こちらが駆使すべきなのはホスピタリティの技術(スキル)であり、おもてなしではない。「おもてなしをする」というのは、ホスピタリティ的には間違った表現です。
松:たとえば、自宅に訪ねてきたお客様に対して、おもてなしをしようと思って、自分がおいしいと思う料理をたくさん作ってお出ししたとします。しかし、もしもその料理があまり好きではなかったら、表面的には喜んでくれるかもしれないけど、内心ではがっかりしてますよね。「おもてなし」の発想にはこんな押しつけがましさがあるかもしれないということでしょうか?
石:そうですね。ホスピタリティスキルを活用するなら、そのお客様がどんな料理を好きかを関係者などにさりげなくに聞いておく。そして、その料理を作ってお出しする。すると、「どうして私の好きな料理を知ってたの?」と驚き、とても喜んでくれますよね。
松:すると、ホスピタリティスキルを発揮するためには、お客様の好みや欲求、思いを様々な方法で的確に'察知すること'が大切なんですね。
石:はい。お客様がしてほしいこと、してあげたら喜ぶことが何かを口に出して言われなくても、「お客様はこんな問題やニーズを抱えているのでは?」「(だから)こうしてあげたら喜んでくれるのでは?」と想像することが必要です。
松:そうした想像は、お客様の表情や声のトーン、しぐさ、過去のやり取りなどを総合的に勘案してやるものですよね?
石:はい、そのようなものを手がかりにして、お客様の問題・課題、欲求を推察する。そして、お客様の抱えているであろう問題の解決や欲求充足の助けになるような対応をしてみる。これは、一種の「仮説思考」ですね。
松:言い換えると、「お客様の心理を深読みすること」だと言えますかね。お客さまが口に出されたことではないので、想像したことは、あくまでこちら側の仮説になる。
石:そして、その仮説が正しかった場合、頼んでもいないのに「気が利く対応をしてくれた」とお客様は感じます。こうしたことが積み重なると「ぜひあなたから買いたい」という気持ちになっていくというわけです。
松:なるほど。では、相手の隠れた問題・課題、欲求を的確に想像する、つまり、正しい仮説を立てられるようになるためにはどうしたらいいでしょうか?
石:それは、相手の状況について強い関心を持つこと。そして、相手のことをとことん心配して、相手はどうしてほしいか、自分はどうしたらいいかを想像することです。端的に言うと、「相手以上に相手のことを考える」ことです。
松:相手の立場に立って、自分だったらどのように感じているか、自分だったら何をしてもらいたいかを考えるということになりますかね?
石:はい。あくまで相手が主語である、主体であるという前提の下、「相手が良いと思うことが何か」を真剣に考えるのがホスピタリティ・スキルの基本です。
松:そうやって考えた仮説、例えば先ほどのスターバックスのケースだと、バリスタは「石丸さんは二日酔いに困っていて薬を飲むつもりなのかもしれない(自分もそうするだろうから)」「だから、白湯をお出ししてみよう(白湯があると薬が飲みやすいから)」という仮説が間違っていて、「いや、白湯はいいよ」と言われたらバリスタはがっかりですね。
石:いえ、がっかりするのではなく、「薬を飲むほどではないんですね、良かったですね」とむしろ喜んでくれるでしょう。心配したけれど、心配するほどのことはなかったわけですから。
松:たとえ白湯が不要であったとしても、石丸さんも、バリスタの心遣いには感動したでしょうし。
石:その通りですね。ホスピタリティにおいては、相手を心配してやってあげたことが結果的に不要なことであっても、がっかりすることではないのです。もし、「せっかくしてあげたのに・・・」と感じてしまうようであれば、それは押しつけのサービスであり、ホスピタリティではありません。
松:自分が良かれと思うことをやろうした場合、それに相手が応えてくれないとがっかりしてしまう。ホスピタリティは、相手が良いと思うことをするのだから、仮説が外れてしまってもがっかりすることはない。むこうはそうしてくれなくても良かったわけだから。
石:飲食店のウェイターが、コップの水がなくなりそうなお客様に「水をお注ぎいたしましょうか?」と聞いたとき、「もう結構です」と言われたからと言って、がっかりすることはないですよね。そのお客様にとって、水分は不要だったのですから。「あ、水はもう要らないんだな、良かった」とウェイターは思えばいい。
松:なるほど!そこでウエイターが、「せっかく水を注いであげようと思ったのに」とは思わないですものね。もしそう思うとしたら自分本位のサービス押しつけになってる。
石:そういうことです。私が、ホスピタリティ・ロジックを通じて世の中に広めたいのは、「サービス化してしまったものをホスピタリティにしていく」ことなんですよ。
松:いわゆる「サービス」の現場で、ホスピタリティのスキルが提供されることが増えればお客さまはとてもハッピーですね!
石:お客さまだけじゃなくて、提供する側の従業員・スタッフもまたハッピーでいられますよ。
松:お客さまも従業員もハッピーになれるのがホスピタリティなんですね。では、ホスピタリティとは何かがおおむね理解できたところで、さらに理解を深めるため、サービスとホスピタリティの違いについて詳しく解説してもらえますでしょうか?
石:サービスとホスピタリティを対比してお話しましょう。一つめの違いですが、サービスは同じ価値を、コストを下げて提供しようとします。一方、ホスピタリティでは、同じコストでも異なる価値で提供します。
松:サービスの場合、「安くすることが善」と考えているんですね・・・?
石:はい。基本的には、均一の価値をできるだけ安く提供する、という考え方ですね。しかし、ホスピタリティは、コストを下げるというよりは、お客様によって求めるものが違う価値を提供することに注力します。
例えば、ホテルの場合、ビジネスパーソンが出張で求める価値と、家族連れがレジャーで泊まる場合では、ホテルに期待する価値が違いますよね。こうしたお客様個別の価値を大切にするのです。
松:ホスピタリティはお客様1人ひとりで異なるニーズに個別対応するということですね。
石:はい、そうです。2番目の違いは、すでにご説明しましたが、サービスは、自分たちが「良かれ」と思ってします。一方、ホスピタリティは、相手が「良い」と思うことをするのです。
松:サービスは自分本位、ホスピタリティは相手本位ということですね。
石:そうです。3番目の違いは、サービスは「お得ですよ」と先に言ってしまうけど、ホスピタリティは、「相手が得した」と思うことをします。
松:お得であるかどうかは、自分たちではなく、お客さまが決めることだと。
石:価格が安いからといって、かならずしもお得と感じるわけではありませんし、価格が高くても、それを上回る素晴らしい体験をすることができたら、お得と感じることがありますから。
松:こちらが「おもてなし」をしたからといって、お客さまが「もてなされている」と感じるかどうかは、お客さま次第であるのと一緒ですね。
石:はい。そして4番目の違いは、サービスでは'より多く売れる'ためのニーズを探しますが、ホスピタリティでは、相手のニーズが満たされることを探します。
松:あくまで、自分たちの製品を売ることが目的なのがサービスであり、そのために自社商品が解決できるニーズを探そうとするということですね。一方、ホスピタリティでは、お客さまのニーズを解決することに注力する。もし自社製品がお客さまのニーズを充たさないということがわかれば、他社製品をお勧めすることもありますね?
石:はい。他社製品をお勧めするような誠意ある対応をしたとすると、目先の売上にはならないかもしれません。しかし、お客さまの信頼を得て、長期的な売上には確実につながっていきます。
松:本当の意味での「顧客志向」を実践するのがホスピタリティと言えますね。
石:はい。次に5番目の違いです。サービスは勝手に売れるための評判を重視します。一方、ホスピタリティでは、1人ひとりのお客さまの評判の積み重ねで売れると考えます。「評判」、言い換えると自社製品に対する高い評価や賞賛といったものは、漠然と生まれるものではない。一人ひとりのお客さまの個別ニーズに丁寧に対応した結果、お客さま個々に高い評判が確立される。そんなお客さまを1人ずつ増やしていけばいいのです。「自社の評判を高める」という全体的なアプローチはそもそもありえません。
松:広告で見せかけの評判を作ることができますが、本当の評判は1人ひとりの中に形成されるものと言えますね。
石:はい、その通りです。6番目の違いは、サービスは負いたくない責任を相手に負わせます。一方、ホスピタリティは負いたい責任を自ら負います。
松:例えば・・・?
石:飲食店で、注文したメニューをウェイターさんが復唱して「よろしかったですか?」と聞くのは、注文したのはそちらであり、何かあっても責任はあなたにありますよ、と責任を転嫁するためのものであることが多いです。注文されたものをしっかり聞いてお持ちすることは自分たちの責任と考えていれば、わざわざ再確認する必要がないはずです。
松:「言われたことしかやらないよ」という意思表示のようにも感じられますね。
石:そうですね。7番目も同じような違いです。サービスは時間まで働く、言い換えると時間外は働きたくない。一方、ホスピタリティは相手の望みが叶うまで働きます。
松:サービスの場合、人々はできるだけ働きたくないということですね。
石:はい、サービスは賃金労働になっているのです。「苦役」なんですよね。だから、言われたことしかやらない、言われてもやらない、といったことになっていきます。
松:8番目の違い、サービスは「せねば」をするというのは、しなければならないことは仕方がないから、いやいやするという感じですね。
石:そうです。しかし、ホスピタリティは、お客さまに喜んでほしいから、役に立ちたいから、つまり8番目の「したい」をするから、就業時間内、時間外といった区別はしないのです。
松:ホスピタリティを実践できれば、もはや仕事は「苦役」ではなく、楽しい、わくわくするものになるんでしょうね・・・
石:はい、やらずにはいられないという感じです。9番目の違いにあるように、ホスピタリティでは「する」ためを考えて、します。つまり、「こんなことをしたらお客さまは喜んでくれるのでは?」と常に考えてやる。一方、サービスはしなければならないことをやっているので、なるべく「しない」ことをするようになります。お客さまから呼ばれても返事をしない、対応しないというのは、「しない」ことをしているのです。そのほうが楽だから。
松:ファストフードチェーンではそんな感じですかね?
石:多くの場合、ファーストフードチェーンで働いているスタッフは、忙しくないほうが良いと思っている。お客さまが来ない方がうれしいわけです。仕事しなくて済みますから。サービスの発想だとこうなる。経営の立場からはとんでもないことですが。
松:だからこそ、サービスからホスピタリティへの転換が必要なんですよね。
石:その通りです。さて10番目の違いですが、「商品」を売るのがサービス。ホスピタリティは「価値」を買ってもらいます。サービスの場合、労働者は売らない(売れない)ほうがさらに働かずに済み楽ですから、「売ろうともしない」ということにもなります。ホスピタリティでは、お客さま個々人の個別のニーズを充足することができる価値を提供しようとします。製品ありきではないのです。
松:なるほど。製品そのものではなく、お客様が喜んでもらえる「体験」を提供することがホスピタリティと言えますかね。
石:そうですね。
松:これまでのお話で、サービスとホスピタリティの違いが良く理解できました。次に、ホスピタリティの技術を磨く方法について最も基本的なポイントを教えてください。
石:先ほど申し上げたように、「相手が良いと思うことが何か」を真剣に考えることがスキルを磨く出発点になります。私は、「相手のことを心配して想像する」と言ってますが、相手が抱えている様々な事情(仕事、家族、自分自身等)に深い関心を持ち、相手の中(心理状態)を想像し、相手都合で「こうしてあげたら喜んでもらえるのでは」という仮説をたてて実行する。相手に言われる前にです。
松:とにかく、自分都合ではなく相手都合でとことん考えるんですね。
石:はい、結局、ホスピタリティのスキルを駆使すべきなのは、あなたと相手(お客さま)との関係性を良くするためにやるのではなく、相手と相手自身の抱える諸事情との関係を良くすることにつながっているのです。相手の人生、生活がより幸せになるような何かをしてあげることを心がけるようにすれば、結果として感謝されることが生じ、最終的にはあなたとのつながり=きずなも強化されていくのです。
松:本日は、長時間にわたり、「ホスピタリティ」についての詳しい解説ありがとうございました!
文責:松尾順
当記事は、BUSINESS HAPPINESS BLOGからの転載版です。
⇒ BUSINESS HAPPINESS BLOG
独自の「ホスピタリティ・ロジック」を開発された、プレディーカ・マネジメント代表取締役社長の石丸雄嗣さんに「ホスピタリティとは何か?」について解説していただきました。
インタビューをまとめたものですので、「対話形式」でお伝えします。(石:石丸さん 松:松尾)
石:全く違います。ホスピタリティとサービスは対義語の関係にあります。両極にある概念なんですよ。
松:そうなんですか!「ホスピタリティ」と「サービス」は似ているどころか、両極にある概念なんですね。今日は、石丸さんから、両者がどのように違うのか詳しくお聞きしたいと思いますが、その前にまず、ホスピタリティの「目的」や、「ホスピタリティとは何か」という基本的なところを教えてください。
石:ビジネスにおけるホスピタリティの目的は、ひとことで言えば「顧客」づくりです。ただ、私の言う「顧客」とは、単なる購入者という意味ではありません。「あなた(の会社)の製品・サービス(無形の便宜提供)を買いたい」と思ってくれているお客様のことです。お客様がそのように思ってくれているからこそ、結果として実際に自社の製品・サービスが売れることになります。
松:「あなた(の会社)から買いたい」というのは、企業に対するお客様のロイヤルティ(忠誠心)、すなわち「顧客ロイヤルティ」が強いということだと言えますか?
石:はい、そう言えます。ただし、ロイヤルティがあるという表現は、企業の立場でお客様を見たものですね。お客様自身が、ある企業や製品・サービスに対してロイヤルティがあると自覚しているわけではありません。
松:確かにそうですね。お客様としては、他の誰からでもなく「あなたから買いたい」と思っているだけ。そんなお客様の気持ちを企業側から説明すると「そのお客様のロイヤルティは強い」といった説明になるのですね。
石:ええ。そもそも製品・サービスは「売れる」のものではありませんよね。無理に売りつける「押し売り」は別として、基本的にはお客様が「買いたい」と思ったからこそ、財布を開いてお金を支払ってくれる。ホスピタリティ・ロジックにおいては、売ることを第一目的に置くのではなく、お客様が「あなたから買いたい」と思ってくれるようになることに取り組むのです。
松:「あなたから買いたい」と思ってくれてる顧客はしばしば、繰り返し購入してくれる固定客、つまりリピーターとなっていきますね。
石:その通りです。でも、ホスピタリティ・ロジックにおいては「リピーター」という言葉も基本的には使いません。お客様が買いたいと思ってくれている。その結果としてリピート、すなわち繰り返し購入してくれるという現象が起きているに過ぎず、「リピーターを増やす」といった発想で考えることはしないのです。
松:では、ホスピタリティ・ロジックにおいて、「あなた(の会社)の製品・サービスを買いたい」と思ってもらうために、どのようなことをすべきなのでしょうか?
石:ひとことっで言えば、ホスピタリティは、基本的には、お客様がうれしい、ありがたいと感じてくれるようなことを'頼まれていなくても'行うスキル(技術)です。
松:頼まれてもいないことを行う・・・?
石:はい。例えば、私がちょっと飲み過ぎた日の翌日に、いつものスターバックスに行って「今日は二日酔い気味なのでコーヒーじゃなくてジュースにしようかな」とバリスタに言うと、「(ひょっとして)お薬飲まれるようだったら・・・」と白湯を添えてくれたことがありました。そのバリスタは、頼まれてもいないのに、私の顔色や体調を気遣ってわざわざ白湯を出してみた。私としてはその気遣いがうれしい。こんなバリスタがいるから、人々はスターバックスに足しげく通ってしまうというわけです。
松:お客様の立場としては、頼んでもいないことだからこそ「気が利くね」と感じられるのですね。
石:そうなんです。あとで詳しく説明しますが、ホスピタリティは技術なんですよ。相手が嬉しい、ありがたいと思うこと、要するに「良いと思うこと」を頼まれもしないのに勝手にやるスキルです。顧客に「白湯をください」と言われて出すのは誰でもできるし、それは単なる「サービス」に過ぎません。
松:つまり、ホスピタリティは、言われてもいないのにすること、一方、サービスは言われたことをするというのが両者の違いですね。
石:はい、両者の違いはたくさんありますが、そのうちのひとつはそれです。またホスピタリティは、お客様が言われた以上のことをしてあげることを含みます。「ここまでやってくれてすごい」と感じてもらえるようなことをやる。
松:しかし、ホスピタリティ・ロジックにおける「サービス」は、そうではない?
石:はい。サービスは「言われてからする」行為であり、基本的には「言われたことしかしない」のです。しかも、しばしば「言われるまでしない」、さらには、「言われてもしない」という状況になりがちです。混んでいる飲食店での店員さんの対応でこんな経験ありますよね?
松:確かに。人手が足りないということもあるかもしれませんが、グラスが空になっていても「おかわりいかがですか?」なんて聞いてこなかったり、あるいは呼びかけても無視するとか・・・
石:そうやってお店としては、せっかくの増収の機会を失っているわけです。
松:なるほど。したがって、収益維持・向上を目指すなら、サービスではなく、ホスピタリティの技術を学び、現場で発揮できるようになることが有効となるんですね。
ところで、ホスピタリティは基本的に、言われてもいないこと、あるいは言われる前に、お客様が喜ぶことをする、あるいは言われた以上のことをするということでしたが、これは「おもてなし」とは違うのでしょうか?
石:実は、ホスピタリティ・ロジックでは、「おもてなし」という言葉も使いません。ひとを「もてなす」ことは、必ずしも相手にとって喜ばしいとは限らない。なぜなら、自分が「良かれ」と思ってやったことが、相手にとってはありがた迷惑ということもあるからです。ホスピタリティとは、相手が良いと思うことをするのであって、自分が良いと思うことを相手にするのではないのです。
松:「おもてなし」というのは自分ありきの発想になっているということでしょうか?
石:そうですね。「自分がしたいことをする」というという発想を「主語論理」と呼びますが、現代において一般的に多用されている「おもてなしをする」という考え方は主語論理になってしまっています。ホスピタリティは、「相手が良いと思うことをしてあげる」という述語論理なのです。あくまで、「相手が主語」なのです。
松:再確認しますが、自分が良いと思うことを相手にするのが主語論理であり、相手が良いと思うことをするのが述語論理ということでしょうか?
石:はい、その通りです。「おもてなしをしよう」と考えるのではなく、相手が良いと思うことをしてあげる。それがホスピタリティです。その結果としてお客様が「もてなされている」と感じるかもしれません。つまり、こちらが駆使すべきなのはホスピタリティの技術(スキル)であり、おもてなしではない。「おもてなしをする」というのは、ホスピタリティ的には間違った表現です。
松:たとえば、自宅に訪ねてきたお客様に対して、おもてなしをしようと思って、自分がおいしいと思う料理をたくさん作ってお出ししたとします。しかし、もしもその料理があまり好きではなかったら、表面的には喜んでくれるかもしれないけど、内心ではがっかりしてますよね。「おもてなし」の発想にはこんな押しつけがましさがあるかもしれないということでしょうか?
石:そうですね。ホスピタリティスキルを活用するなら、そのお客様がどんな料理を好きかを関係者などにさりげなくに聞いておく。そして、その料理を作ってお出しする。すると、「どうして私の好きな料理を知ってたの?」と驚き、とても喜んでくれますよね。
松:すると、ホスピタリティスキルを発揮するためには、お客様の好みや欲求、思いを様々な方法で的確に'察知すること'が大切なんですね。
石:はい。お客様がしてほしいこと、してあげたら喜ぶことが何かを口に出して言われなくても、「お客様はこんな問題やニーズを抱えているのでは?」「(だから)こうしてあげたら喜んでくれるのでは?」と想像することが必要です。
松:そうした想像は、お客様の表情や声のトーン、しぐさ、過去のやり取りなどを総合的に勘案してやるものですよね?
石:はい、そのようなものを手がかりにして、お客様の問題・課題、欲求を推察する。そして、お客様の抱えているであろう問題の解決や欲求充足の助けになるような対応をしてみる。これは、一種の「仮説思考」ですね。
松:言い換えると、「お客様の心理を深読みすること」だと言えますかね。お客さまが口に出されたことではないので、想像したことは、あくまでこちら側の仮説になる。
石:そして、その仮説が正しかった場合、頼んでもいないのに「気が利く対応をしてくれた」とお客様は感じます。こうしたことが積み重なると「ぜひあなたから買いたい」という気持ちになっていくというわけです。
松:なるほど。では、相手の隠れた問題・課題、欲求を的確に想像する、つまり、正しい仮説を立てられるようになるためにはどうしたらいいでしょうか?
石:それは、相手の状況について強い関心を持つこと。そして、相手のことをとことん心配して、相手はどうしてほしいか、自分はどうしたらいいかを想像することです。端的に言うと、「相手以上に相手のことを考える」ことです。
松:相手の立場に立って、自分だったらどのように感じているか、自分だったら何をしてもらいたいかを考えるということになりますかね?
石:はい。あくまで相手が主語である、主体であるという前提の下、「相手が良いと思うことが何か」を真剣に考えるのがホスピタリティ・スキルの基本です。
松:そうやって考えた仮説、例えば先ほどのスターバックスのケースだと、バリスタは「石丸さんは二日酔いに困っていて薬を飲むつもりなのかもしれない(自分もそうするだろうから)」「だから、白湯をお出ししてみよう(白湯があると薬が飲みやすいから)」という仮説が間違っていて、「いや、白湯はいいよ」と言われたらバリスタはがっかりですね。
石:いえ、がっかりするのではなく、「薬を飲むほどではないんですね、良かったですね」とむしろ喜んでくれるでしょう。心配したけれど、心配するほどのことはなかったわけですから。
松:たとえ白湯が不要であったとしても、石丸さんも、バリスタの心遣いには感動したでしょうし。
石:その通りですね。ホスピタリティにおいては、相手を心配してやってあげたことが結果的に不要なことであっても、がっかりすることではないのです。もし、「せっかくしてあげたのに・・・」と感じてしまうようであれば、それは押しつけのサービスであり、ホスピタリティではありません。
松:自分が良かれと思うことをやろうした場合、それに相手が応えてくれないとがっかりしてしまう。ホスピタリティは、相手が良いと思うことをするのだから、仮説が外れてしまってもがっかりすることはない。むこうはそうしてくれなくても良かったわけだから。
石:飲食店のウェイターが、コップの水がなくなりそうなお客様に「水をお注ぎいたしましょうか?」と聞いたとき、「もう結構です」と言われたからと言って、がっかりすることはないですよね。そのお客様にとって、水分は不要だったのですから。「あ、水はもう要らないんだな、良かった」とウェイターは思えばいい。
松:なるほど!そこでウエイターが、「せっかく水を注いであげようと思ったのに」とは思わないですものね。もしそう思うとしたら自分本位のサービス押しつけになってる。
石:そういうことです。私が、ホスピタリティ・ロジックを通じて世の中に広めたいのは、「サービス化してしまったものをホスピタリティにしていく」ことなんですよ。
松:いわゆる「サービス」の現場で、ホスピタリティのスキルが提供されることが増えればお客さまはとてもハッピーですね!
石:お客さまだけじゃなくて、提供する側の従業員・スタッフもまたハッピーでいられますよ。
松:お客さまも従業員もハッピーになれるのがホスピタリティなんですね。では、ホスピタリティとは何かがおおむね理解できたところで、さらに理解を深めるため、サービスとホスピタリティの違いについて詳しく解説してもらえますでしょうか?
石:サービスとホスピタリティを対比してお話しましょう。一つめの違いですが、サービスは同じ価値を、コストを下げて提供しようとします。一方、ホスピタリティでは、同じコストでも異なる価値で提供します。
松:サービスの場合、「安くすることが善」と考えているんですね・・・?
石:はい。基本的には、均一の価値をできるだけ安く提供する、という考え方ですね。しかし、ホスピタリティは、コストを下げるというよりは、お客様によって求めるものが違う価値を提供することに注力します。
例えば、ホテルの場合、ビジネスパーソンが出張で求める価値と、家族連れがレジャーで泊まる場合では、ホテルに期待する価値が違いますよね。こうしたお客様個別の価値を大切にするのです。
松:ホスピタリティはお客様1人ひとりで異なるニーズに個別対応するということですね。
石:はい、そうです。2番目の違いは、すでにご説明しましたが、サービスは、自分たちが「良かれ」と思ってします。一方、ホスピタリティは、相手が「良い」と思うことをするのです。
松:サービスは自分本位、ホスピタリティは相手本位ということですね。
石:そうです。3番目の違いは、サービスは「お得ですよ」と先に言ってしまうけど、ホスピタリティは、「相手が得した」と思うことをします。
松:お得であるかどうかは、自分たちではなく、お客さまが決めることだと。
石:価格が安いからといって、かならずしもお得と感じるわけではありませんし、価格が高くても、それを上回る素晴らしい体験をすることができたら、お得と感じることがありますから。
松:こちらが「おもてなし」をしたからといって、お客さまが「もてなされている」と感じるかどうかは、お客さま次第であるのと一緒ですね。
石:はい。そして4番目の違いは、サービスでは'より多く売れる'ためのニーズを探しますが、ホスピタリティでは、相手のニーズが満たされることを探します。
松:あくまで、自分たちの製品を売ることが目的なのがサービスであり、そのために自社商品が解決できるニーズを探そうとするということですね。一方、ホスピタリティでは、お客さまのニーズを解決することに注力する。もし自社製品がお客さまのニーズを充たさないということがわかれば、他社製品をお勧めすることもありますね?
石:はい。他社製品をお勧めするような誠意ある対応をしたとすると、目先の売上にはならないかもしれません。しかし、お客さまの信頼を得て、長期的な売上には確実につながっていきます。
松:本当の意味での「顧客志向」を実践するのがホスピタリティと言えますね。
石:はい。次に5番目の違いです。サービスは勝手に売れるための評判を重視します。一方、ホスピタリティでは、1人ひとりのお客さまの評判の積み重ねで売れると考えます。「評判」、言い換えると自社製品に対する高い評価や賞賛といったものは、漠然と生まれるものではない。一人ひとりのお客さまの個別ニーズに丁寧に対応した結果、お客さま個々に高い評判が確立される。そんなお客さまを1人ずつ増やしていけばいいのです。「自社の評判を高める」という全体的なアプローチはそもそもありえません。
松:広告で見せかけの評判を作ることができますが、本当の評判は1人ひとりの中に形成されるものと言えますね。
石:はい、その通りです。6番目の違いは、サービスは負いたくない責任を相手に負わせます。一方、ホスピタリティは負いたい責任を自ら負います。
松:例えば・・・?
石:飲食店で、注文したメニューをウェイターさんが復唱して「よろしかったですか?」と聞くのは、注文したのはそちらであり、何かあっても責任はあなたにありますよ、と責任を転嫁するためのものであることが多いです。注文されたものをしっかり聞いてお持ちすることは自分たちの責任と考えていれば、わざわざ再確認する必要がないはずです。
松:「言われたことしかやらないよ」という意思表示のようにも感じられますね。
石:そうですね。7番目も同じような違いです。サービスは時間まで働く、言い換えると時間外は働きたくない。一方、ホスピタリティは相手の望みが叶うまで働きます。
松:サービスの場合、人々はできるだけ働きたくないということですね。
石:はい、サービスは賃金労働になっているのです。「苦役」なんですよね。だから、言われたことしかやらない、言われてもやらない、といったことになっていきます。
松:8番目の違い、サービスは「せねば」をするというのは、しなければならないことは仕方がないから、いやいやするという感じですね。
石:そうです。しかし、ホスピタリティは、お客さまに喜んでほしいから、役に立ちたいから、つまり8番目の「したい」をするから、就業時間内、時間外といった区別はしないのです。
松:ホスピタリティを実践できれば、もはや仕事は「苦役」ではなく、楽しい、わくわくするものになるんでしょうね・・・
石:はい、やらずにはいられないという感じです。9番目の違いにあるように、ホスピタリティでは「する」ためを考えて、します。つまり、「こんなことをしたらお客さまは喜んでくれるのでは?」と常に考えてやる。一方、サービスはしなければならないことをやっているので、なるべく「しない」ことをするようになります。お客さまから呼ばれても返事をしない、対応しないというのは、「しない」ことをしているのです。そのほうが楽だから。
松:ファストフードチェーンではそんな感じですかね?
石:多くの場合、ファーストフードチェーンで働いているスタッフは、忙しくないほうが良いと思っている。お客さまが来ない方がうれしいわけです。仕事しなくて済みますから。サービスの発想だとこうなる。経営の立場からはとんでもないことですが。
松:だからこそ、サービスからホスピタリティへの転換が必要なんですよね。
石:その通りです。さて10番目の違いですが、「商品」を売るのがサービス。ホスピタリティは「価値」を買ってもらいます。サービスの場合、労働者は売らない(売れない)ほうがさらに働かずに済み楽ですから、「売ろうともしない」ということにもなります。ホスピタリティでは、お客さま個々人の個別のニーズを充足することができる価値を提供しようとします。製品ありきではないのです。
松:なるほど。製品そのものではなく、お客様が喜んでもらえる「体験」を提供することがホスピタリティと言えますかね。
石:そうですね。
松:これまでのお話で、サービスとホスピタリティの違いが良く理解できました。次に、ホスピタリティの技術を磨く方法について最も基本的なポイントを教えてください。
石:先ほど申し上げたように、「相手が良いと思うことが何か」を真剣に考えることがスキルを磨く出発点になります。私は、「相手のことを心配して想像する」と言ってますが、相手が抱えている様々な事情(仕事、家族、自分自身等)に深い関心を持ち、相手の中(心理状態)を想像し、相手都合で「こうしてあげたら喜んでもらえるのでは」という仮説をたてて実行する。相手に言われる前にです。
松:とにかく、自分都合ではなく相手都合でとことん考えるんですね。
石:はい、結局、ホスピタリティのスキルを駆使すべきなのは、あなたと相手(お客さま)との関係性を良くするためにやるのではなく、相手と相手自身の抱える諸事情との関係を良くすることにつながっているのです。相手の人生、生活がより幸せになるような何かをしてあげることを心がけるようにすれば、結果として感謝されることが生じ、最終的にはあなたとのつながり=きずなも強化されていくのです。
松:本日は、長時間にわたり、「ホスピタリティ」についての詳しい解説ありがとうございました!
文責:松尾順
当記事は、BUSINESS HAPPINESS BLOGからの転載版です。
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