舞台裏では大学のメンツを懸けたバトルが展開している

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 今年も、正月恒例の箱根駅伝が開催される。2014年総合優勝の東洋大学、全日本大学駅伝優勝の駒澤大学、同2位の明治大学などが優勝候補とされている。そんな中、シード権での出場であるものの、前評判は決して高くない大学の元監督が、大学陸上界の舞台裏を話してくれた。

「金の卵」を青田買い! “箱根以前”の水面下バトル

「2015年の結果は見えています。間違いなくシード権は取れません」

 出場予定のある大学の元監督はこう語る。理由は明白だ。有力出場メンバーに5000mで14分を切る選手がおらず、10000m・28分台もわずかしかいない。マラソンならともかく、駅伝の場合、10人の選手すべてがタイムを大幅に伸ばすことなど不可能に近く「残念ながら、スタート前からシード落ちが見えている」と嘆いている。

「ほかの競技では石が玉になることもあるでしょうけど、陸上、特に駅伝だけはそうはいきません。走る、という単純な競技だけに素質がものをいうんです」

 箱根駅伝は高校野球と並ぶ「学生スポーツ」のトップブランド。箱根での活躍が大学の知名度アップにつながる。そのため高校野球同様にスカウト網が重要で、各大学とも高校生の「青田買い」に必死になる。

 この大学は4年前、高校3年生の「5000mタイムランキング」の上位150人を1人も入学させられなかった。シード権をもっていなかったため、拒否あるいは敬遠されたのだ。

「新入生が獲れないと箱根のシード権は取れない。取れないから金の卵にソッポを向かれる。こういう悪循環に陥るんです。そんな状況で監督を6、7年務めると、プライドはズタズタになります」

 大学陸上部の未来を担う150人は「強い大学から順に」入っていく。これが箱根駅伝の翌年のシード権を決める大きなカギになる。

 また、有力大学はOB会も強力に継続しており、「資金集め」もしやすく「スカウト網」も広がっていく。大学の協力はもちろん、OB会の体制も箱根を勝ち抜くのに不可欠だ。

超強力な戦力だが… 扱いの難しい外国人選手

 山梨学院大のように、ケニアなどアフリカ系の留学生をもつ大学も少なくない。有力な選手は現地在住の日本人スカウトに橋渡しされ海を渡ってくる。

 ジョセフ・オツオリ(山梨学院大)は89年、1年生にして驚異の7人抜き(区間賞)を記録、母校を往路4位に導いた。翌年も2区を走り往路2位(区間賞)、3年時も2区の区間賞。そして4年時も2区を走り母校を初の総合優勝に導いた。この年は3区で留学生のケネディ・イセナが区間賞の活躍をみせている。

 実際、留学生を抱えた大学は強いが、留学生が入れば即シード権、というわけにはいかない。

「留学生の場合、周りとなじまないことがあり、1人で練習することになります。1人では、どうしても楽なほうへいってしまいますよね。それで結果的にタイムが伸びなくなることがあるんです」

 彼らが日本になじむ環境を整えるのは重要だが、中には女性と仲良くなり、一緒に帰国してしまった留学生もいる。環境を整え過ぎても厄介なことになるようだ。

 近年、留学生は1名しか出場できないというルールに変更されており、今年は山梨学院大と日大がエントリー予定だ。

 また、柏原竜二(福島県いわき市出身)のように箱根駅伝で名選手とされる走者には地方出身者が多く、今年も有力大学の各選手に「都会っ子」はほとんどいない。

「駅伝はハングリーなスポーツであり、精神面が大きくものを言います。その点、都会人はハングリーさももっていません。また駅伝は状態をキープすることが大事で、練習を休むとコンディションを取り戻すのが大変です。日常生活が非常に大切な競技ですが、都会はいろいろな誘惑も多く、そうした遊びを知らぬまま大学生活を過ごす、そんな地方出身者が活躍するんです」

 出場すると受験者が大幅に増えるとも言われているように、各大学とも箱根駅伝に懸ける思いは生半可ではない。一番思いが強い大学はどこか。あと少しで明らかになる。

(取材・文/後藤 豊)