神社に詣でる日本人の習慣

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 みなさんは、初詣はどちらに行かれますでしょうか。例えば、東京の明治神宮は毎年300万人以上の初詣参拝客を数え、全国でももっとも多い数を記録しています。大阪では、260万人とも伝えられる住吉大社、福岡では太宰府天満宮に、名古屋の熱田神宮などなど、その地域を代表する神社には非常に多く初詣客を迎えます。でも、これって、昔からそうだったかというと実は少し違うんです。

 そもそもこうしたお正月に神社に詣でる習慣は、「初籠り(はつごもり)」と呼ばれる習慣に始まると言われます。「初籠り」は、今のように有名な寺社仏閣に参拝するのではなく、家長がその家を代表して、氏神さまに大晦日の夜から元日の朝にかけて一晩籠もるというもので、それが後に「除夜詣」と「元日詣」に分かれて発展していったと言います。しかし、この中において、現代の初詣との最大の違いは何かと言うと、実は、この「氏神さま」という点にあると言えます。

「氏神さま」というのは、本来は読んで字の如く、特定の氏族が崇敬する神社を意味しておりましたが、今ではその土地の守護神として、居住地に則った形でその地元を代表する神さまを意味します。ですので、今のような有名な神社やお寺というものではなく、あくまで地元の神社に足を運ぶことを意味していたのです。それがどうしてこのような広域に変化したのか。実は、ここに一つ単純なカラクリが存在します。

 実は、明治の中頃より国内には鉄道網が整備されていきました。すると、鉄道会社としてはより多くの輸送拡大、つまり乗客が必要とされる中で、あるキャンペーンを展開していったのです。それが「今年の恵方はここである!」というものです。これにより、多くの参拝者がこれにならって有名な寺社仏閣に詣でるようになりました。関東では、京成電鉄や京浜急行が、関西では京阪神鉄道がこれに倣う形で、今日のような状況を生み出しました。ある意味、バレンタインデーにおける製菓会社の戦略のようにも聞こえますが、ご利益期待で足を運ぶという点では、現在謳われているパワースポットブームの原点と言ってもいいのかもしれません。

 結果、氏神詣では多少軽視されてしまうことにはなりましたが、やはり、本来の主旨で言えば、氏神さま優先。できることなら、まず、氏神さまに詣でてから、お好みの場所に参拝されるのが一番なのかもしれませんね。「氏神さまなんてどこか分からないよ〜」と思われても、そこはご心配なく。各都道府県にはそれぞれ神社庁というものがあります。東京であれば東京都神社庁、大阪であれば大阪府神社庁。そこに電話をして、「氏神さまを知りたいんですけど」と仰って頂ければ、住所を伝えると、その神社をすぐに教えてくれます。

 実は、神社界でも氏神さま優先という姿勢は決して崩しておりません。神社で受けられる神宮大麻(じんぐうたいま)と呼ばれる天照大神さまの神札(おふだ)も、一見、その根本たる伊勢神宮で受けられる神札の方が良さそうにも思えますが、そこはやはり、あくまで「氏神さまで受けられるものを中心にお考え下さい」と言われます。このため、仮にお伊勢さんから受けたものがあっても、神札を祀る際には氏神さまから受けた神宮大麻を全面に祀る。やはり、生活の主体はまずその足元からというわけですね。まずは一度、自分の氏神さまがどちらか調べられてみるのも如何でしょうか。

著者プロフィール

一般社団法人国際教養振興協会代表理事/神社ライター

東條英利

日本人の教養力の向上と国際教養人の創出をビジョンに掲げ、を設立。「教養」に関するメディアの構築や教育事業、国際交流事業を行う。著書に『日本人の証明』『神社ツーリズム』がある。

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