受験以前の受験の心得/純丘曜彰 教授博士
/受験も本番となると、いろいろ勝手が違うところがある。この場に及んで、いまさら勉強してどうなるものでもないだろうが、これまでの努力と成果をきちんとプレゼンしてこそ、本番の受験だ。/

1 答案は書類:わかっていることをわからせる
答えが合っていればいい、というものじゃない。答案は、コミュニケーション・ツールだ。カンニングや当てずっぽではなく、自分が正しくわかっていることを採点者にわからせるために与えられたメッセージのチャンス。回答欄の大きさが、相手が求めている説明量。文字が大きすぎたり、小さすぎたりせず、与えられた枠にちょうどおさまる説明付の回答をしよう。

2 当然、受験番号と名前から書く
提出者のわからない書類は書類ではない。受験番号などのまちがいは、無用のトラブルの元。休憩時間に呼び出されたり、そうでなくても、きちんと書いたかどうか、不安になって気持の切り替えができなくなるくらいなら、最初からきちんと書こう。

3 文字は正しく、はっきりと
書類として、一般に誤字脱字も減点。それがたとえ数学や物理化学でも。カタカナのンとソとリ、数字の1と7、6と8と9、数式のxと×、9とyなどは、意図的に丁寧に。まして国語や社会の文字チェックは、かなり厳しい。とくに日本史の人名地名では致命的。トメ・ハネ・ハライは、自分がやったかやらないか、ではなく、答案として、目で見て採点者にその有無が確実にわかるように。

4 行と桁、文字の大きさは揃える
東大生は、文系でも3ミリ方眼のノートを使っているやつが多い。横の行はもちろん、縦も行頭、句頭を揃え、並列的な記述を並列的に見えるようにするためだ。これは、相手にわかりやすく、というだけでなく、自分でも頭を整理するために必要。

5 いきなり書かず、要点を書き出す
採点では、最終の答えだけでなく、途中もチェックされる。そのとき、あらかじめ採点対象となるキーワード、ないし、キーステップが採点表で決められている。いきなり答えを書き始めるのではなく、その答えの中で必要となる重要な術語や公式をまず問題側に書き出そう。そして、それにしたがって具体的な答案を作成。答えができてから、それらがきちんと入っているか、確認しよう。

6 回答の手順を整理
試験は、早押しクイズじゃない。目の前の具体的な問題より、一般的な手順を思い出せ。記述式なら5W1H。数学や物理化学でも、その種の計算の作業順序があるもの。出題側からすれば、その問題は、たまたま一例に挙げているだけで、実際は一般的な回答能力があるかどうかを問うている。たまたまその一例の答えが合っていることより、きちんとした一般的な手順が踏まれているかどうかの方が採点されている。

7 全問回答が当然
トップクラスからドベクラスまで全体的な成績分布をさせる予備校の模試ならともかく、本番の試験では、僅差の受験生たちだけの問題が精選されている。この中で、合格者と不合格者を切り分けるために、全部の問題が使われている。したがって、最初から捨ててかかることのできる問題の余裕など無い。絶対全問完答が当然。時間配分を先に考え、要領よく取り組んで、決めた時間で次の問題に取りかかろう。

8 各問の配分時間はほぼ同じ
出題文の量の大小にだまされるな。問題にメインディッシュは無い。長文の問題でも、短文の問題でも、回答には同じくらいの手間がかかる。これは出題側の都合だが、試験問題全体を特定個人がコースとして構成することはなく、難易度も作業時間もほぼ同等のものが差し替え可能に作られている。だから、出題文が長いからといって、時間配分を多くしてしまうと、短文の問題の方が意外に内容的に難しく、時間が足らなくなってしまう。

9 時間は足り、かつ、余らない
回答欄の大きさと同様、問題は、標準的な合格者で回答時間いっぱいまでかかるように設計されている。きみが驚異的な天才でもないのに、もしも各問への配分時間を合算して早く終りそうなら、どこかなにか大きな作業手順を見落としている危険性が高い。逆に、きみが合格すべき受験生なのに、どうやっても特定問題への配分時間が足らなそうならば、やはりまったく余計なトラップにひっかかっていて、もっと簡単な作業手順が隠されていることをまだ見抜けていない可能性が高い。

10 最後の1分1秒まで、きみに与えられた時間
終了10分前に予告されるが、これは最初から余裕として問題設計されている。この時点から新たな問題に取りかかるようでは、最初の時間配分で間違っている。残りの10分は、答案としての仕上げの時間。もはや消しゴムは厳禁。ただ、必須重要ポイントを再チェックし、横に吹き出し式ではみ出してでも、途中に不可欠の術語や式を書き足そう。

まあ、落ち着け。受かるときは受かる。落ちるときは落ちる。合格不合格は相手が決めること。どうしよう、などと、きみが悩む余地は、最初からまったく無い。きみは、きみができることをやってくるだけ。考えるのは、問題の答えだけ。あとは、帰って、ぐっすり寝て、また次の試験に備えろ。

(大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。)