“汚職撲滅”は地方にはまったく浸透していない

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 汚職がはびこり、政治腐敗が蔓延する中国で、習近平・国家主席が共産党をあげての「汚職狩り」に躍起になっている。

 12月5日、中国共産党・前政治局常務委員の周永康氏が収賄や職権乱用、機密漏洩などの容疑で逮捕され、党籍剥奪処分になったことが明らかになった。中国ウォッチャーのジャーナリストは驚きをこめて次のように語る。

「これは前代未聞の出来事といっていい。これまで中国では、党の最高幹部である政治局常務委員(現在は7名)を務めた者は、半永久的に刑事責任を追及されることはない、という不文律がありました。実際、常務委員経験者の逮捕、訴追は49年の中国建国以来、今回が初めてのことです。反腐敗運動を掲げることで国民の一定の支持を得てきた習近平氏が、さらなる権力基盤の強化を目論み、決断したことだと思います」

 さらに12月22日には、胡錦濤・前国家主席の元側近、令計画氏が「重大な規律違反があった」として取調べを受けていることが判明。習氏の「本気ぶり」が鮮明となったが、これを機に中国から「腐敗」は消え去るのだろうか? 

「いくら中央が騒いだところで、中国はあまりに広すぎるし、腐敗の病巣も根深い。地方では、今も党の幹部や公務員たちはやりたい放題。職権乱用と賄賂で私腹を肥やし、庶民の怒りは頂点に達していますよ」(前出・中国ウォッチャー)

賄賂はガチョウ! それが貧困の村の現実

 11月半ばから約1か月間、筆者は、中国黒竜江省・ハルビン市から約300キロの地方都市・方正県近郊の村に滞在していた。そこで見た「腐敗」の一端を紹介しよう。

 マイナス20度。広大な畑には雪が降り積もり、今にも崩れ落ちそうなレンガ造りの民家が立ち並ぶ極寒の貧村。

 寒さを凌ぐ暖房は抗(カン)と呼ばれるオンドルのみ。燃料は藁。村人の大半は農民であり、その暮しは非常に厳しいものがある。

 農民の1人(50歳・男)は語る。

「こっちでは、何をするにも、カネとコネがなくては始まらない。その両方がなければ、一生貧乏なまま。抜け出すことはできない。以前、息子が借金をして、町(方正県)で料理屋をオープンさせたんだが、ある日、突然、地方政府の役人から“営業停止命令”が出されて、潰れてしまった。理由を聞いても曖昧な返答しかない。要は、息子がその地域を管轄する役人に”ガチョウ”を持っていかなかったから、その腹いせで潰されたんですよ」

 この地域では、今もガチョウやニワトリが賄賂としてやり取りされている。一羽の値段は150〜200元(3000円〜4000円)ほど。ガチョウだけの場合もあれば、ガチョウと一緒に現金を渡す場合もある。筆者は滞在中、いたるところでガチョウを見た。会社の倉庫や、自宅の部屋に賄賂用として生きたガチョウがストックしてあるのだ。

 ある洋服屋はこれまで一度も税金を支払ったことがないという。

「税金の徴収官にガチョウと現金を毎月渡しています。それで、税金を支払ったことにしてもらっている。賄賂のほうが、税金を払うよりも安くつくから仕方ありませんよ」(洋服屋の社長)。

「お偉いさんから“催促電話”がある」

 こうしたことが村中に蔓延している。人々の暮しが腐敗の上に成り立っているのだ。方正県のなかでは、かなり成功した部類に入る、ある建設会社の社長はこう言っていた。

「党の幹部や役人に賄賂を渡さないと、何も進まない。だから仕方なく渡しているが、誰もがうんざりしています。私は成功したほうですが、いまも、毎日お偉いさんから“催促”の電話がある。うっかり忘れたりしたら、どんな嫌がらせがあるかもわからない。この国は本当に腐ってますよ。私には息子と娘がいますが、2人とも日本に留学させています。卒業後は、日本に永住してもらいたいと本気で願っている。この国に未来はないですから」

 こうした村や街が、中国には無数にあるのだ。これをどうやって「掃除」しようというのだろうか。中国東北部の農村に滞在している間、寒さと虚しさばかりが募ってきた。

(取材・文/小林靖樹)