そしてオーディオはハイレゾの時代に突入する

写真拡大 (全3枚)

2014年9月10日、アップルのスペシャルイベントでiPhone 6とiPhone 6 Plusが発表されたその裏側で、オンラインのアップルストアからiPod classicが消えるという事件が起きた。

後日、アップルのティム・クックCEOはiPod classicに使われていたパーツ(1.8インチHDDと見られている)が入手できなくなっていること、iPod classicのユーザーが減っていることから、iPod classicのリニューアルは考えていないと発言した。

オリジナルiPodは登場したのは2001年。一部コントローラが変更されたもののUIや、容量以外のスペックは大きく変わることがなく、10年以上もオーディオプレーヤーとして求められてきたiPod classicシリーズの終焉は、音楽を聴くスタイルが次のシーンへと移り変わったことを意味している。

果たして、現在のオーディオプレーヤーの中心にあるのはスマートフォンだ。その一方で、一部のオーディオ専用端末にも注目が集まっているという。

それがハイレゾオーディオプレーヤーだ。

CDを超える音質を持つハイレゾ音源

サンプリング周波数44.1kHz・ビット深度16bitのデジタルデータを収録したCDの生産がはじまったのは1982年のこと。以後DAT(デジタルオーディオテープ、48kHz/16bit)やSACD(スーパーオーディオCD、 2.8MHz DSD64)といった、CDを超える音質のフォーマットも生まれたが一般に普及することはなく埋もれていく。

しかし2010年ごろから、CDの音質を超える48kHz/16bit、96kHz/24bitといった楽曲データをオンラインで販売するサービスが増えてきた。CDの音源と聞き比べてみるとなるほど、いままで聴こえなかった音が聞こえ、何度も、何百回もリピートした曲の表情が一変し、アーティストが本来伝えたかったのはもっと明瞭で、緻密な音空間だったんだという事実に愕然とする。

ハイレゾ音源をポケットサイズで鳴らせるハイレゾプレーヤー

ハイレゾ音源のデータを楽しむには当初PC+DACで聴くか、ハイビットに対応したポータブルPCMレコーダーで聴くしか方法がなかったが、現在はiPodのようなポータブルなプレーヤーが充実しつつある。高音質データをデコードできるだけではなくアンプ回路にもこだわりをみせ、高級イヤフォンやヘッドフォンの実力を十二分に引き出せる能力も見せている。

ボリュームゾーンは5万円前後、そして10万円前後。音楽専用端末と考えると高価と思うかもしれないが、耳にできるサウンドは異次元。iPodやスマートフォンとは比べものにならない。

直販価格29万円というハイグレードなモデルも登場する

冒頭の画像はiPodと鎬を削ってきたポータブルプレーヤメーカー、アイリバーが開発したAstell&Kern AK240。2014年1月に登場したハイレゾプレーヤーだ。対応フォーマットはDSD128(5.6MHz)、352.8kHz/32bitで直販価格は29万3,143円と群を抜いている。

ノーリミットな作り込みでボリュームゾーンを大きく飛び越えた結果、出音の良さは目を見張るものだ。フルスケールのピアノが強烈なリアリティを持って迫り、ドラムスの1発1発が空間を揺るがすシーンも感じとれる。エネルギッシュなサックスの金切り声も、ハーモニクスが幾層にも重なり合ったギターの悲鳴も、すべてが立体感のあるサウンドステージ内に位置している。

これはもう、持ち歩けるコンサートホールといっていい。

ハイレゾ=いい音とはいいきれないが、それでもハイレゾは推進すべき

最先端のレコーディングスタジオには、現在のハイレゾ音源の主流となっている192kHz/24bitのクオリティをはるかに超えるDSD256(11.2MHz)で録音できるシステムが導入されてきている。録音したデータはPCMに変換してミックスダウンされ、マスタリングされたデータから販売用の192kHz/24bitデータを作っているが、実は録音したままの、何も足さず、何も引かないDSDデータを再生可能なUSB DAC兼ヘッドフォンアンプmicro iDSD(iFI-audio、7万4,520円)のような機器も登場している。

すでにリリースされているハイレゾ音源をPC+micro iDSDなどの環境で聴くと、あまりの生々しさに鳥肌が止らなくなる。これが、本当の音だったんだと嫌がおうにも気づかされてしまう。

もちろん、ハイレゾ音源、ハイレゾ再生環境=いい音、というわけではない。興味の無いアーティストのハイレゾ音源トラックより、自分の好きなアーティスト、好きなトラックのMP3やYouTubeのPVのほうが、個々にとっての「いい音」のはずだ。しかしハイクオリティな機材が普及すれば、よりハイクオリティな音源も1つの商材として多くリリースされていくようになるかもしれない。

あなたがヘビーローテーションして聞き込んでいるサウンドのリマスターがハイレゾ化されるかどうかは誰にもわからないが、いまのオーディオシーンにより熱が集まるようになれば、今までの「いい音」が、「もっといい音」に進化して登場する可能性は広がるだろう。