初戦、まず問われるのは“平常心”

 3年生にとって最後の夏、その代のチームにとって集大成の夏。当然全力プレーを誓う。完全燃焼を志す。否が応にも気合が入る。だが、いい意味でポジティブなはずの精神状態が、初戦の入り方を難しくする側面もある。

 どんな強豪校であろうと初戦の戦い方は難しいという。その難しさとは、「いつも通りの自分たちに、いつなれるのか」というところにあるのではないか。特に100%緊張して入る初戦は、いち早く平常心を持てたチームにゲームの流れが大きく傾く。条件は相手も同じ、というところがまた影響を大きくする。相手より早く平常心を持てたチームは、まず自分たちのリズムで落ち着き→相手のミスにも助けられ→よりリズムに乗っていく、という好循環になる。

 一方、平常心を取り戻し遅れたチームは、ちぐはぐな自分たちでリズムを崩し→相手に押し込まれ→より苦しい状況に陥る、という悪循環になる。

 何か決定的な手を打たない限り、両者の差は試合中どんどん広がっていく。

 スコアを見れば分かる通り、この試合で先に平常心を得たのは桐朋だった。1回表、中大附の先発・辻川隼土投手(3年)の制球が定まらないところにヒット2本を絡め2点を先制する。先制点がチームに与える安心感は大きい。

 一方中大附は初回、2番打者・相田雄太選手(3年)がライト線にヒットを打つも後続が倒れ得点はならず。出鼻をくじかれた初回の失点に加え無得点だったことで、緊張からくるメンタルの修正に時間を要した。この「出遅れ」が2回表の結果に出る。先頭の桐朋9番打者・森永健太郎選手(3年)にセーフティバントを決められると、続く1番・山田祐太朗選手(3年)、2番・鈴木雅功選手(2年)の送りバントを連続してアウトにできず満塁にしてしまい、結果押し出しで追加点を許す。さらに0−5となった後、1アウト2,3塁の場面。6番・島田聖選手(3年)のピッチャーゴロでサードランナーを三本間で挟むがアウトを取れず満塁にしてしまう。直後の7番・埜村亮選手(3年)のセカンドゴロはホームフォースプレーでよかったはずが、キャッチャーがタッチにいってしまい、ボールをこぼした。結果、打者10人で5点を挙げた桐朋がイッキに試合を引き寄せた。この5失点……送りバント処理と狭殺プレーにフォースプレーの場面は、いつも通りならアウトにできる確率の方が高いプレーだったはずだ。なのに、大事な試合の大事な場面で確率の低い方の結果を招いてしまった。これが初戦の怖さだ。中大附は3回から登板した2番手の関孝英投手(3年)が、落ち着いた投球で桐朋打線を抑えただけに2回の守備が悔やまれる。

 桐朋の先発・太田 力投手(3年)には1年時からベンチ入り、2年からエースナンバーを背負っていた「経験」があった。初回から大きく制球を乱すことなく、変化球主体で攻める。またテンポの速い投球リズムが、中大附打線に余裕を与えなかった。打者との駆け引きで主導権を握り、落ち着かないところに変化球を投げ引っかけさせ、追い込めば速球で仕留める。このテンポのよさが自チームにより安心感をもたらした。

 桐朋は自ら有利な心理状態を導いたともいえる。中大附投手陣を見て、スタメンはバッテリー2人を除く7人を左打者でそろえた。3回から登板した中大附2番手の関投手には、スローカーブを織り交ぜた緩急に打たされる展開が続いた。が、打者が一巡した5回、スローカーブかストレートか、各自狙い球をはっきり絞ったように見受けられた。結果、引っかけた打球は減り、3点を追加しコールドゲームに持ち込んだ。

 綿密なスカウティングと各自の役割をきっちりと務める桐朋には、確かに地力があった。しかし、もしこの両校が初戦で当たっていなかったら、同じ5回コールドという結果になっていたかどうか。そんな考えも頭がよぎったが、夏の大会はリーグ戦ではなく一発勝負のトーナメント。取り返しは絶対にきかないのだ。

全力プレーを誓う。完全燃焼を志す。こういった気合を「気負い」で終わらせず、「闘志」にするためには、まず「平常心になる」という段階を経ることがたいせつなのかもしれない。

(文=伊藤 亮)