ルーズショルダーになったときには

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 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。 じめじめとした梅雨の時期にさしかかりましたが、皆さん元気に練習していますか。グランドなどが十分に使えない日もあると思いますが、夏の大会に向けて残りわずかな時間を有意義に過ごしてほしいと思います。 さて今回は肩のスポーツ傷害の中でもよく見られる「ルーズショルダー」についてお話をしたいと思います。肩がゆるいってどういうこと?プレーにどのような影響が出るの?といったことについて、対応できることや予防について考えてみましょう。

ルーズショルダーとは

 肩関節は、他の関節に比べて多方面にわたってスムーズに動かせる特徴を持ち、可動域の広い関節です。一方でこれだけ自由に動かせるということは、関節そのものの持つ固定力は他の関節に比べて弱いともいえます。 ダイビングキャッチなどで思いも寄らない負荷が肩にかかったときや、繰り返し行われる投球動作などによって関節の支持能力は低下し、いわゆる「肩がゆるい」状態になることをルーズショルダーと呼んでいます。

 肩関節には安定性を高めるための腱板(インナーマッスル)や関節唇といった軟部組織がありますが、これらが何らかの原因で損傷したり、機能が低下することによって、肩に不安感を覚え、痛み、だるさ、何となく気持ち悪いといった不快感などを覚えるようになります。

何度も繰り返す脱臼には注意が必要

肩の支持能力を高めるために腱板を鍛える

 一度脱臼を経験したことがある場合、骨の位置が元に戻っても周囲の組織がキチンと機能していない、痛んでいる状態のままプレーを続けていると、ふとした動作や、以前に脱臼したときと同じ状況下で、再脱臼を起こすことがあります。

 こうして脱臼を繰り返すとさらに肩関節の周辺は関節を支える支持能力が低下し、また脱臼を繰り返す・・・といった悪循環にはまってしまいます。何度も繰り返し脱臼をするケースでは、関節周辺部の組織を手術によって改善させることが必要となってくるでしょう。

 医療機関等でルーズショルダーと診断された場合、まず手術をしない保存療法を選択し、適切なリコンディショニングから行っていくようにします。ルーズショルダーの状態は個人差がありますので、必ず医療機関を受診した上で、専門家の指導を受けるようにしましょう。

 関節周辺部の組織、特にインナーマッスルと呼ばれる肩関節を支える小さな筋肉群の支持能力を高めるためのトレーニングは、ルーズショルダーの状態を改善させる効果が期待できます。正しいトレーニング方法を学び、行うようにしましょう(参考ページ:正しくインナーマッスルを鍛える)。

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手術後は適切なリハビリテーションを行う

 ルーズショルダーを改善するために大胸筋や広背筋、三角筋など大きな筋肉群(インナーに対してアウターマッスルとも呼ばれます)ばかりを鍛えてしまうと、中のインナーマッスルは機能が低下した状態であるため、余計に肩関節に大きな負担がかかり、ルーズショルダーの症状が進行してしまうことがあります。体の外側にある大きな筋肉群をトレーニングするときには、適切な負荷、適切なエクササイズを選択することが大切です。

 ある一定期間、リコンディショニングを行い経過をおってもあまり改善しなかった場合は手術を勧められることもあります。この場合は緩んだ関節を収縮させる方法、関節唇損傷部分やインナーマッスルの縫合など、関節内部を確認しながらケースに合わせて行うことになります。

 その後は、リハビリテーションを経て競技復帰を目指します。個人差がありますが目安として、およそ3〜4ヶ月程度でパフォーマンスの80%程度の回復を目標にします。また完全にプレーできるようになるには肩の状態だけではなく、他の部分も含めた総合的なアスレティックリハビリテーションが必要になります。

 ヘッドスライディングやダイビングキャッチといったプレーで肩を痛めるケースが見られます。一回の外力で肩へ大きな負担がかかって脱臼する、もしくは肩関節内部を痛めるといったことが起こりやすく、できる限りこうしたリスクの高いプレーを避けることが大切です。内野手でよくノックの時に飛び込んで捕球するシーンを見かけますが、飛び込むよりも足を使って回り込むことをまず心がけて練習してみましょう。

 一塁へのヘッドスライディングについては以前にもご紹介しましたが、肩の脱臼だけではなく、手をスパイクされてケガをしたり、指を突いて骨折したりといったことも起こります。塁間のスピードは駆け抜けた場合とあまり変わらないと言われていますので、不用意にヘッドスライディングすることはなるべく避けるようにしましょう(参考ページ:スライディングとケガ)。

 ルーズショルダーはプレーに支障がないことが多く、ついついそのままにしてしまいがちですが、適切な対応とリコンディショニングは肩の状態を改善させることにつながります。「肩がゆるい」「何となくだるい」といった状態をそのままにしている場合は、医療機関を受診し、専門家の指示を仰ぐようにしましょう。また不用意にケガをしないための技術練習もしっかりと行うようにしましょう。

ルーズショルダーを防ぐために理解しておくこと

●肩関節は、他の関節に比べて自由自在に動く可動域の広い関節●可動域が広いこと=関節の固定力は弱い●腱板(インナーマッスル)のトレーニングは、ルーズショルダーを改善させる効果が期待できる●保存療法で状態が改善しなければ手術も選択肢の一つ●ヘッドスライディングやダイビングキャッチは一回の外力で肩に大きな負担がかかることがある●「肩がゆるい」「何となくだるい」場合は、医療機関を受診し、専門家の指示を仰ぐようにしよう

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 (文=西村 典子)

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