『闇金ウシジマくん Part2』
出演:山田孝之 綾野剛 菅田将暉 中尾明慶 窪田正孝 やべきょうすけ
配給:東宝映像事業部=S・D・P 
(C)2014真鍋昌平・小学館/映画「闇金ウシジマくん2」製作委員会
公式URL:ymkn-ushijima-movie.com

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よくある映画のCMでお馴染みなのが「泣けました!」、「感動しました!」の観客コメントの嵐。とにかく泣けなきゃ映画じゃない! という“本音”あふれるCMが連日テレビに飛び交う中で『映画 闇金ウシジマくん part2』の映画CMコメント篇がちょっとオカシイ。

「ウシジマくん結婚したい〜!」「最高〜!」というコメントに無表情のウシジマくん(山田孝之)が「お前ら舐めてんだろ」と反応すると、観客のコメントが一転する。「クズですね」「クズでした」そして、「……まじめに生きていこうと思いました」とテンション低めに締める。“泣ける”の代わりに“クズです”をウリにするプロモーションって。ま、ウシジマくんとは結婚したくはないよな……と、納得せざるを得ない絶妙のラインをついてきている。泣ける! と連呼する映画が好みではない自分はこのCMに大反応しちゃいました。

5月16日から公開された『映画 闇金ウシジマくん part2』は、“ヒサン(一日に三割)”、“トゴ(十日に五割)”という超高金利で貸し付ける闇金のウシジマくんを主人公に、闇金に手を出さざるを得なくなった人生に詰んだ面々の転落を赤裸々に描く。山田孝之演じるウシジマくんが目が死んだまま淡々と“債権者のクズども”を追い詰めていく姿がヤケにリアルで印象的な人気シリーズだ。

ドラマの方は見ていたので、映画はそのドラマの1エピソードを債権者の心理や背景を丁寧に描いて進めていくのかな? と思いながら観ると、全然そんなことなかった。どっちかというとドラマ1シーズンに登場する以上の債務者が一挙に登場、みるみるうちに全員破滅していくという、ジェットコースタームービーならぬ、地獄へのチャーター便のような強烈なスピード感でストーリーは爆走していく。なにせ「カウカウ・ファイナンスVS“8人の刺客”八つ巴のサバイバル・バトル」とうたっているだけあって、カウカウ・ファイナンスの軍資金を狙ううちにドツボにはまっていく加賀マサル(菅田将暉)、結婚しているのに中学生を引き連れてヤンキーを続けている愛沢浩司(中尾明慶)にホストにハマるその妻明美(木南晴夏)、底辺ホストからNO1ホストへと夢見る神咲麗(窪田正孝)、ホストに貢ぐことで自分の居場所を探す藤枝彩香(門脇麦)日雇い労働で摩耗するうちにふと見かけた女性をストーキングしはじめる蝦沼(蝦沼)と、ざっと列挙するだけで、どれもめくるめくクズぶりが眩しい面々ばかり。

彼らが時にすれ違い、共闘し、そして足を引っ張り合って泥沼の中に身を浸していく……。印象に残るのは、このクズ共、とにかく走り回り動き回る。過去の自分を悔やむ暇があれば金の工面! とばかりにこのテの映画にしては驚くほど内面の葛藤が描かれない。あるのは、「コレに失敗したら俺は破滅だ!」という焦燥感だ。
なにせ、超高金利を抱えてとにかくその場を凌ぐことに全力をかけなければ破滅する面々だ。長期的な視野に立って計画的に……というう手段はハナから残されていない。自分の過去を悔やんで改心しても借金はチャラになるわけでもなく、行き着くところまで全力疾走! この金という炎に飛び込んでいく虫のような、レミングスの集団自殺のような彼らのアクティブさが、最後に訪れる静かな“終わり”のときを効果的に印象付ける。

ウシジマくんのライバルとして、ヤクザの熊倉の子飼い闇金女・犀原茜(高橋メアリージュン)の存在も印象深い。高級そうなブラウスに裾を絞ったデニムを着こなしモデル風の美人でありながら言動は粗野の一言で、とくに酷いのが食事のとり方。完全に犬喰いで、取り繕った外見が切なく、誕生日に高級車をヤクザの熊倉にプレゼントしてもその場でホステスに渡される始末。それでも、ヤクザに喰らいつき、ウシジマくんのシノギを奪い去ろうとする行動力の激しさ。金利を払えなくなった債務者の指をドアに挟んでテコの原理で折っていくシーンは彼女の生き様を象徴しており高橋メアリージュンの好演が光りまくり。

もちろん怒涛のスピードで迎えるエンディングも、債務者が改心して一件落着! のようなアリガチなものではなく、事件に関わった人々が前より少しヒサンな日々に戻っていくほろ苦いもの。そこには暖かい人間性はなく、人を狂わせすり減らしていくカネのリアルがしっかりと描かれている。

いや、一応最後は「ちょっといい話になる?」 みたいな流れにはなることはなる。ウシジマくんの部下である柄崎がエンディングに、「結局人間って……」と結論めいたことは言うんですよ。しかし、その分かりやすく感動的な感想をウシジマくんは良しとはしない。

そういえば、ドラマでもウシジマくんは「理由なんて人それぞれだろ。問題は回収できるかだ」なんて言ってたっけ……。現代においてカネのリアルを描くということは、人間の暗部を直視するということでもある。その暗部は、個人個人のわかりやすい甘えだとか覚悟だとか夢が発端になって悲劇の幕を開けるのだが、甘えていること、覚悟をきめることなどそれ自体は誰にでもあることで改心してもしょうがないし、できるものではない。その自分にはない夢を追いかけて動き始めた瞬間、ドミノ倒しのように広がっていく持たざる人間同士の関係性の変化や、ボタンの掛け違いの連鎖こそが闇を引き込むのだ……。なんてこと、ウシジマくんは決して言わないけれど自分はそんなふうに感じた。人間の暗部は、どこか知らない場所に固まってるんじゃなく、普段歩いている道の脇の下水溝のようにふと足を取られる場所にいつもある。そんな人間観はとてもリアルだ。

日々の辛さを紛らわすために、感動モノの映画を観るのもいいけれど、『映画 闇金ウシジマくん part2』をガツッと観ることもオススメしたい。息もつかせぬクズたちの疾走でエンターテイメント性もバッチリなのに、エンターテイメントのお約束にも逃げないシビアな視点も忘れないこの作品は、楽しいけれど甘くないビターな味わいの会心作だ。
(久保内信行)