平井一夫・ソニー社長は「徹底した変革に取り組む」と語った。

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■社長就任時掲げた目標を事実上撤回!

「2013年度は大きな赤字を計上した。また2014年度も、エレクトロニクス事業の回復遅れにより、中期目標には遠く及ばす、最終損失になる見込みである。エレクトロニクス事業のターンアラウンドは達成できず、忸怩たる思いである。特に、2期続けて最終赤字になることは大変重く受け止めている。期待に応えられなかったことには申し訳なく思っている」

5月22日に行ったソニーの経営方針説明会は、平井一夫社長の陳謝から始まった。この言葉が示すとおり、ソニーは今、危機的状況にある。しかも、その経営は混迷を極めている。

ソニーは13年度に業績見通しの下方修正を3度繰り返し、挙げ句の果てに最終損益は黒字予想から一転して1283億円の赤字に転落した。14年度の最終損益も500億円を予想する。これによって、平井社長が12年のトップ就任時に掲げた「14年度の売上高8兆5000億円、売上高営業利益率5%以上」という目標を事実上撤回することとなった。

文字通り、平井社長の2年間は"失われた2年間"と言っていいだろう。就任1年目に最終黒字を計上したが、これは5期連続の赤字を避けるため、米国本社ビルや旧ソニーシティ大崎など、次々と資産売却を繰り返した結果だった。平井社長はパナソニックのように、危機感を持って大胆な構造改革を行ってこなかったわけだ。

■環境変化への対応力とスピード力が不足していた

「我々の環境変化への対応力とスピード力が不足していた。変化への打ち手が遅れたと言わざるを得ない」と自ら反省の弁を述べ、こう強調する。

「2014年度は3年計画の最終年に当たるが、次の2015年度からの3カ年を成長フェーズと位置づけ、持続的に収益を上げられる企業へ変貌するため、今年度は構造改革をやりきる年と位置づけ、徹底した変革に取り組む。度重なる下方修正や赤字を継続する体質を変える」

そのために、赤字の元凶であるエレクトロニクス事業で販売会社の固定費を15年度までに13年度比で約20%削減する。特に10期連続の赤字を計上し、累積損失7900億円のテレビ事業については、分社化により固定費削減を徹底し、今年度中に黒字化する計画だ。また、本社間接部門の費用も約30%削減する。

そして、エレクトロニクスのコア事業(ゲーム&ネットワークサービス、モバイル、イメージング関連)の収益貢献、エンタテイメントや金融の安定的な収益貢献などと併せ、「15年度に営業利益4000億円(今期予想は1400億円)を目指す」とした。

しかし、それを信じる人は少なく、何を根拠に営業利益が4000億円までいくのかと疑問に思っている人がほとんどだ。というのも、コア事業やエンタテイメント事業は水商売的な要素が強く、必ずヒットするとは限らないからだ。おまけに競争が激しいときているのでなおさらだ。今のソニーに競争に勝っていく力があるのかはなはだ疑問だ。

■「いまの経営陣は新しい商品をつくった経験がない」

かつてのソニーには、経営陣に創業者の井深大氏や盛田昭夫氏のほかにも、ビデオテープレコーダーの国産第1号を開発した木原信敏氏やウォークマンを開発した大曽根幸三氏、ゲーム機「プレイステーション」を開発した久夛良木健氏など、時代を彩った商品を生み出した人たちが経営の中枢にいた。

しかし、現在は違う。

「いまの経営陣は新しい商品をつくった経験がなく、与えられて仕事をこなしてきた人ばかり。上の顔を伺い、立ち回るのがうまい保身の得意な連中が並んでいる。そんな人たちにソニーを立て直せと言うのが無理なのかもしれない。それは、事業部長クラスにもいえる」

と、あるOBはあきらめ顔で話す。

その端的な例が、パソコン事業かもしれない。担当役員の交代を機に、当初の方針を大転換。年1000万台の出荷を目指して、質より量を追うようにした。それまでのVAIOとかけ離れた安物を大量につくるように指示されたという。しかも、つくるのが難しい製品や手に入りにくい部品の採用を避けるようになり、人気商品でも利益率が低いと切り捨ててしまった。

その結果、商品力と開発のモチベーションが大きく低下する事態を招き、パソコン事業を譲渡する羽目になった。

■いま必要な「自由闊達ニシテ愉快ナル理想工場ノ建設」

ソニーは開発陣に自由な発想をさせ、差別化、高付加価値化の商品を売って生きてきた会社だ。ユーザーも「SONY」というロゴに憧れて商品を買った。それが、どこにでもあるような安物をつくったら、ユーザーに相手にされないのは自明の理だ。

平井社長は頻繁に開発現場に足を運び、話を聞いているそうだが、大学卒業後はCBS・ソニーへ入社した音楽業界出身の社長だ。商品開発のことはそれほど詳しくない。ここはもう一度創業の精神に立ち返ったほうがいいかもしれない。

「真面目ナル技術者ノ技能ヲ最高度ニ発揮セシムベキ自由闊達ニシテ愉快ナル理想工場ノ建設」

これが有名な設立趣意書の一説で、以前のソニーはその実現に向けて、全く新しい商品を生み出して、新たな市場を構築してきた。それができたとき、初めてソニーが復活したといえるだろう。

現状を見る限り、その道のりは非常に厳しいものであるのは間違いない。

(山田清志)