『BORDER 』第1巻 作画:古手川ゆあ 原作:金城一紀/角川書店

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小栗旬主演のミステリードラマ『BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係』(テレビ朝日 木曜21時〜)が、5月22日放送の7話で、16.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と高視聴率をとった。
初回こそ9.7%と低かったが、回を追うごとに上がっていっている、このドラマが、なぜ、多くの視聴者の心を捉えるのか。8回からでも間に合う、『BORDER』の面白さをチェックしてみよう。

その1.途中から見ても、話の骨子がすぐわかる

小栗旬演じる主人公・石川安吾は、刑事。だが、ただの刑事ではない。毎回、事件の真相を探っていくときに、特殊能力を使う。
以下が、能力を説明するナレーションだ。

人は死んだらどこに行くのだろう
ぼくはある事件に巻き込まれ、頭に弾丸を打ち込まれた
頭のなかを半周した弾丸は脳底動脈のすれすれで止まり
奇跡的に命を取り留めた
ただ、その弾丸を取り除く手術は困難で
ぼくはしばらくこの弾丸とともに生きていくことになった
その結果
ぼくは
死者と話せるようになった

なんて、明快。なんて、ドラマチック。
このナレーションが、毎回ある(しかも脳の図入り)ので、
初見の視聴者にも、すぐ、内容がわかるようになっている。

冷静に考えると、頭の中に弾丸が入っているという危険な状態。
主人公は、生と死のBORDERにいながら、日々、事件を解決しているのだ。

その2.主人公が捜査する、事件のヒントがいっぱい!

主人公は死者と話せる能力をもったため、事件の被害に遭って、亡くなった人から、事件の真相を聞くことができる。
犯人や、犯行方法など、知りたい放題。
知った事実を元に、容疑者をどう追いつめていくかが、主人公の腕の見せどころとなる。
真相を明るみにして、犯人を逮捕することによって、「被害者の無念をはらす」
、それが、主人公の仕事だ。

ただ、どんな死者とでも、コンタクトができるわけではない。
そのため、主人公は、最も、会って話をしたい人物である、自殺した兄には会えないという悲しみを背負っている。

その3.主人公の事件に、協力者がいっぱい!

事件に近い人物(死者)が、たいていなんでも教えてくれる上に、情報屋、便利屋、ハッカーと、強力な助っ人がいて、何かと主人公に手を差し伸べる。
主人公の上司も、一見、厳しいが、主人公の知らないところでは「(無邪気な子供が走っていくのを)けがをしないように守ってやろうと思うのが大人ってもんだろ」などと言って、しっかり守ってくれているのだ。
なんて、恵まれているのか、小栗旬(主人公・石川ね)。

そして、情報屋に古田新太(『あまちゃん』ほか)、便利屋に、滝藤賢一(『半沢直樹』『俺のダンディズム』ほか)、ゲイのコンビのハッカーに、野間口徹(『SP 警視庁警備部警護課第四係』と、ミュージシャンでもある浜野謙太(『モテキ』ほか)、上司に、遠藤憲一(『湯けむりスナイパー』 「SPEC」ほか)という、名バイプレーヤーが集結。時にシリアスに、時にユーモラスなやりとりを、主人公と交わしていく。この人たちを主役にして、スピンオフができそうなほど、キャラが立っている。才色兼備の特別検死官(波瑠)、頼れる同僚(青木崇高)なども含め、こんな魅力的で役に立つ仲間に囲まれて、主人公は、のびのび事件を解決。見ているほうも、ストレスレス。

そうはいっても、主人公を取り囲む人々は、ワケありな者たちばかりで、完全に主人公の味方ではなさそうな、BORDERな関係。いつ裏切るのか? というドキドキもある。

その4.一話完結、エンディングテーマもなく、シンプルな構成

どんなに面白い話でも、どんなに出演者がステキでも、話が週をまたがっていくと、追いかけることが面倒くさくなるけれど、一話完結なので、気楽。
また、好きなアーティストではない人が歌う主題歌があると、聞くのがだるいが、このドラマには主題歌もなく、キャスト、スタッフのクレジットも、ドラマ中に流れてくれるので、無駄がない。
代わりに、事件解決のときに流れる、「リング」など、大ヒットホラー映画の音楽などを多数手がける川井憲次による荘厳なテーマ曲が、耳にこびりついて離れない。この曲が流れると、ああ、大変な事件が解決したー、という気にさせられる。
いつ見ても、なんとなくわかるって、テレビドラマには大事なのだ。

その5. 金城一紀の脚本のうまさ!

わかりやすさの極みなのが、直木賞受賞作家・金城一紀の脚本。
例えば、7話。

遠藤憲一演じる主人公の上司が、子供の頃、ヒーローごっこをやらなかった?と聞く。主人公が「やらなかった」と無愛想に答えると、上司は、おれはやったと言い、「でもヒーロ役ばっか、やりたがってたから、遊んでくれる友だちが少なくなった」と振り返る。
主人公は「ヒーローをきどるなってことですか」と聞く。
意地になって、犯人を追っている主人公に、上司は「強すぎる思いが おまえに関わるすべての人間を傷つけていくんだ」と注意。すると、主人公は「要するに、仕事の手をぬけってことですね」と言い返す。
このふたりの会話に注目。ちょっとかっこつけたドラマだと、上司のセリフだけにして、上司の意図を、見るほうに委ねるのだが、主人公が、いちいち、セリフの意味を説明しているのだ。また、ベタなドラマだったら、主人公のセリフを、上司に直接言わせてしまうだろう。
ベタにはしないけど、意味深なセリフだけにして、置いてきぼりにもしない。
このBORDERが、視聴者を取りこぼさない所以。

しかも、これによって、上司は、思ったことをはっきり口にしない性格で、主人公は、なんでもはっきり言葉にしないと気の済まない、ちょっと青さの残った人物であることが感じられる。
こういう気配りある描写が、視聴者を離さず、むしろ増やしていくのだろう。

その6.いよいよ、主人公にも危機が!

上司は、血気盛んな主人公に「ヒーローは必要」だと言いつつ、「強すぎると、ヒーローは怪人と変わらないんだ。人間じゃなくなっちまうんだよ」「強い光が差すところには必ず濃い影も浮かぶもんだ。影に飲みこまれんなよ」と諭す。
上司が心配するように、7話では、主人公が、あやしく凄みのある裏の掃除屋(中村達也)と対峙する。掃除屋は、容疑者のアリバイを知る女性を自殺に見せかけて殺してしまう。
彼は主人公に問いかける。
「いきがればいきがるほど弱い人間が犠牲になっていく」
「自分のせいで人が死んだ気持ちはどうだ?」

ついに主人公は、正義と罪のBORDERで苦悩しはじめる。
7話の最後、主人公が、画面の左端に立っていて、地面がほんの少し、右下がりになっていた。ほんの少し。そういう画が、主人公の立ち位置が、安定してない感じをかもす。さすが、「探偵はBARにいる」などのヒット演出家・橋本一。

5月29日放送の8話では、第1話で主人公が撃たれた事件と関わりがありそうな事件が起こる。銃弾が入ったままの主人公の頭の中も、心配だ。
(木俣冬)