分厚い。『コミティア30thクロニクル』は。オリジナル創作マンガ即売会「コミティア」の歴史を追う3分冊の1冊目。好きなものを描く人々の熱量の詰まった本です。

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コミティアというイベントがあります。
年に4回。同人誌の即売会です。
ルールは、完全な一次創作であること。

1984年に第一回が開催されたコミティアは、今年30周年を迎えます。
記念として発売されたのが、『コミティア30thクロニクル』。
厚さ5cm弱。見た目鈍器です。しかも3分冊らしい。

ものすごい分量。でもこんなの、ほんの一部ですよ。
30年の歴史の中の、数えきれないサークル数の作品の中のごくごく一部。
一巻では24作品が、年代別け隔てなく収録されています。

この本を評価したい点は2つ。
一つは、単に「有名作家集めた」という本ではないこと。
現在活躍している多くの漫画家だけでなく、アマチュア作家もみんな並列。

二つ目は年代別に並べた作りではないこと。
最近の作品も過去の作品もごちゃまぜです。分類せず意図的に混沌と掲載しています。
30年の歴史すらも並列化しているのです。

収録作から幾つか紹介してみます。

おーみや『余命100コマ』
100コマ経過したら爆死してする、と死神に宣告された少女の物語。
漫画が進むにつれて頬に描かれた数字が減り、死までのカウントダウンが始まります。
この発想や、思い切った同人誌ならではのコマ割りなどがネットで話題になり、重版につぐ重版になった有名作品です。

水谷フーカ『赤ずきん』
『14歳の恋』などを描いている漫画家水谷フーカが、デビュー間もない2007年に出した同人誌。
赤ずきんがずきんをかぶると狼にに出会う幻を見る物語。鉛筆書き、自家印刷という、自主制作同人誌ならではの凝った作りの手製本です。
コミティアには、コピー、画用紙を切って作った表紙、紐とじ、紙質をページごとに変える、豆本など、技巧を凝らした作品が数多くあります。

Matsuzaki『コミティアスタッフ募集まんが』
こういうのが載っているのが醍醐味ですね。普段はサークル参加していた作家が、ティアズマガジン(コミティアのカタログ)にスタッフ募集告知のために描いた2Pマンガです。
同人誌イベントはたいていの場合、ボランティアです。普通はやりたくないものです。
人員不足を解決するため、マンガで募集……という割に内容はネガティブでブラック。「あぁ、ボランティアって単語をポジティブな言葉だと信じて疑わない愚直なスタッフを大量に囲い込めたらいいのになぁ……」とか書くなよ!
ところがこの黒さが面白かったのか、スタッフは増えたそうな。めでたしめでたし。

器械『キメラアセンブル』
オシャレなものからグロテスクなものまで、幅広い創作物がずらり出揃うのも、コミティアの面白さの一つ。
器械は畸形、欠損、キメラなどをテーマにした退廃的な作風。今作も、女の子たちが殺しあい、腕をもぎとりあったりと、キュートに残虐な内容になってます。
最近のコミティアは、人外(獣人など)やゾンビものがかなり増えました。そういう「好き」も、のびのび発表できる場になっています。このへん、コミティアならではのブームの波(例・単眼ブームなど)もちょっとあったりするんですよね。

その他にも、『トライガン・マキシマム』の内藤泰弘のデビュー前作品(1989年)など、商業誌では普段見られない漫画が掲載されています。

お祝いコメントに、『日常』のあらゐけいいちがこんなことを書いていました。

「絵やマンガ、容姿や考え方など、年月を重ねる事に、変わっていくと思うのですが、このカットにお祝いの言葉をのせたら負けなんじゃないかと思ってしまうのは、コミティアに出始めた当初の自分と変わらない所だと思いました」

自己表現の熱意が感じられる一冊です。
2巻以降もお楽しみに……はもちろん、まずはコミティアに足を運んでみてください。
あと買ったら表紙をめくってみてね。こっちは30年の時代の流れを感じますよ。

『コミティア30thクロニクル』

(たまごまご)